Episode 17 勘違いは魅力の一つ
episode17,18は今の作者が執筆したものです。
御手洗陽は一人っ子であるため、同じ年代の異性が家族にいない。一人っ子を羨む人がいて、その人は『親に大切にされるからいい』と言うが、親とは兄弟姉妹で差をつけずに愛情を注ぐのが当たり前だろう、と陽は思うのだった。『実際はそんなことねぇんだって』と返されても、『そうなの?』としか返せないのが少し辛い。
それよりも辛いのが同年代の異性、かつ恋愛対象ではない―恋愛対象でもよいとは思うが―姉妹のアドバイスを貰えないということだ。好きな人に見せる前に姉妹に評価してもらい、女性目線の意見を貰うことで好きな人に満足してもらえる、ということができないため、本番一発勝負に勝つ装いを自力で、もしくは年代の違う母親の意見を助けにして考案しなければならないのだ。姉妹がいる人はそれだけですべてのデメリット、マイナス部分を打ち消せると思う。
陽が掲げたテーマは『マッチョは女性にモテるのか?』というものであり、現在彼が習慣にしている筋トレが椿たちに好い印象を持たれているのかが非常に気になっている。もちろん自分のことを思えば筋肉を鍛えることは良い事だらけなのだが、世の中、とくにインターネットの世論では『チビが鍛えてても滑稽』とか『高身長こそ正義。モテるための必須条件』とか言われており、その度に自分の行いを考えてしまう。
椿たちに直接訊くことも考えたが、本当に好きな相手に対してはそのような質問をせず、仲の良い人にその子の好みを尋ねるだろうので、和室部の四人には質問したくない。そこで頼りにできる相手がいることに気付き、今日の陽はチャイムと同時に教室を飛び出し、部室棟ではなく、生徒会室に駆けた。
「そりゃあ開いてないよな...」
来るのが早すぎたせいで肝心の相談相手がまだ来ておらず、少しの間待った。寒空の下蹲る薄幸少女のような悲壮感を出していた陽に声をかけたのは気まぐれで早く来たり遅く来たりする夜月庵で、閏に用があると言うと携帯電話の無料通話で呼び出してくれた。
「助かるよ」
「先輩の登録しておくといいよ。あの人友達千人くらいいるからきっと誰でも登録させてくれるよ」
「十年生になったら、だね」
一年生で友達百人なので単純計算でそうであるが、『できるかな』なので達成したとは限らない。十年生の星名閏は階段からではなく廊下の向こう側から台車に乗ってきた。奇抜な行動をする彼女だが、今回は理由があった。
「おや、和室部の...えっと...シルベスタ...なんだっけ」
「御手洗陽です」
「ああそうだった。私の名前は憶えてるかな?」
「星名閏先輩」
「イェス!君もいおりんと同じく物覚えがいいね!」
「いや、アンタ有名人だから誰でも憶えるわ...」
おなじみのやり取りを経て漸く本題に入った閏。陽からの相談を聞いた彼女は宇宙人部の部員を招集して緊急会議を開いた。そんなに大事にしなくてもよかったが、宇宙人には誰かの困りごとを放っておけない性格の人が多いらしい。
「筋トレ...いいんじゃない?いおりんもやってるくらいだし、健康にいいし...あと...毎日ポテチを食べられるし...」
「ポテチは知らんけど、やらないよりはやる方がいいよね」
運動能力の高い人は説得力がある。陽が見た目が変わってしまうことで全体の印象が変わってしまうことを懸念していると話すと、閏がタブレットにある画像を表示させた。
「あ、これ見たことあります」
「君はこれを本当だと思うかい?」
「...女性百人に訊いたんですよね。だったらデータは有効でしょう」
しかし閏は首を横に振った。
「世の中にはね、支配者がいるのよ。その人、もしくは組織の意思に沿って物事が決められてるの。支配下にあるメディアは支配下にない人からとったデータを改竄してその人たちを洗脳しようとしてるんだ。だからメディアの情報を信用してはいけない。じゃあ何を信用するか?私だよ」
「!」
大きな胸に手を当てて自慢げにしている閏はタブレットを右にスワイプし、次の画像に切り替えた。その画像が示すのは、宇宙人一千万人に訊いた好きな男性の体形だ。
「私も支配者だけどね、洗脳は嫌いなんだ。みんなが自由に考えて出てきたアイディアを見るほうが、私の意見にみんなを合わせるよりずっと面白い」
「普通体形とややマッチョが人気ですね」
「うん、だけどゼロ票というのはないだろう?畢竟、その人の好みを知るにはその人が参加していないデータを参照してもヒントにすらならないのだよ」
「なるほど...」
「君が知りたいのは椿の好きな男性の体形だろう?知ってるんだよこっちは」
「ギクーッ」
「わかりやすいね、君は。心の壁が透明だ...椿はね、お父さんが大好きなんだ」
「部長のお父さん...ですか」
「残念ながら私は椿パパを見たことがなくてね。この先は君が知るべきだよ」
椿の好きな男性の体形を訊くのではなく、椿の父について訊けば椿の好きな男性の体形を知ることができる。陽は閏に感謝を込めて握手を申し出た。すると彼女はその手に胸を近づけ、触れる直前で止めた。
「何を...」
「お姉さんから一つアドバイスだ。胸ばっかり見てるとバレるぞ」
「す、すみません...」
汗を垂らした陽に、横から助けが飛んできた。
「しゃーないよ。先輩のおっぱいだもん。この人も御手洗君をドキドキさせたくてやってるんだから。むしろ大興奮して吃驚させてやればいいよ」
「ヌオオオオオ!」
陽が態度を変えると、閏はロッカーからあるものを取り出して陽に渡し、生徒会室から押し出した。興奮冷めやらぬまま和室部の部室に行って無断遅刻を責める椿たち四人の前で閏に渡された袋から中身を出すと、四人は失笑した。
「お前なんだそれ!なんでそんなモンを私たちの前で出したんだ!」
「御手洗くん、そういうのは家で使うんだよ...」
「性癖暴露?」
「この前の反省が活かされてないようだな!」
ノイエが立ち上がって出された中身...『実寸大おっぱい』(ジョークグッズ)を焼却炉に持っていこうとしたので慌てた陽が閏に渡されたと説明した。
「本当か?」
「本当だよぉ信じてよぉ」
「ううむ...この前の反省は本物と感じたし、こうも早いうちに再犯するとは思い難い...」
「それに閏ならやりかねねぇからな。コイツは無罪じゃね?」
「ツバキがそう言うなら、ヨウを信じよう。これは家に持ち帰って、二度と部室に持ち込むな」
「わかったよ。ってか部長、会長に返しに行ってくださいよ。ついでに『うちの陽をいじめるなよ』って叱ってきてください」
「私がこれ持ってたらヤベぇ奴だろ!誰でもそうだけど!」
陽は大切なことを忘れていたことを思い出した。
「じゃなくて!俺は小宮山パパのことを訊きたいんですよ!」
「お父さんのこと?」
「部長と桜の父親だからきっとすごい人だろうと思って」
「すごい...のはすごいけど、毎日帰ってきてウイスキー飲んで酔っ払うし、飲み会のスターだから喰わされて太ってるぞ?」
「マジですか」
「マジだ。たぶん立派な会社員ってのはそういうものなんだろう」
「そうですか...」
不満げな陽の態度に疑問を抱いた小宮山姉妹だが、翌日、大量のポテチを持ってきてバリバリ食べる陽を見てなんとなく理解した。




