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わしつぶ -うるう星 The Side of W-  作者: 立川好哉
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Episode 12 店員より詳しい

今回から大昔に書き溜めたものを解放していきます。当時の作者の文章力をお楽しみください。ちなみに104話まで溜まっています。

 陽が部室の卓袱台の上に鞄を置くと、キィ、と木の軋む音が聞こえた。これは初めてのことではなく、既に数回耳にしていて慣れた音だったので彼は気にかけなかった。

 いつものように椿が来て、箪笥から文具を取り出して作業を始めた。

 「なにを作ってるんですか?」

 「これは『ゴロゴロボックス』だ。活動内容に困ったときはこれで決める」

 我こそはリーダーと言わんばかりに部員たちを引っ張る椿と困惑という二文字は連続して想像されないが、彼女にもそのようなときはあるらしい。もともとは集まることに大した意味はなく、各々が好きなことをする部活だったので、引き継いでも活動内容は各自が決めてよかった。陽が来て全員で同じことをやると決めてからは部長である椿が内容を決めることになったため、楽しくするためには彼女にネタが絶えず浮かんでいなければならない。ネタというのはケチャップと同じで出るときはドバドバ出るが、出ない時はまったく出てこない。ネタが浮かばない日のために、浮かんでいる時に好きなだけストックしておこうというわけだ。

 「これは私がアイディアを出せなかった時の救済だけではなく、みんなが考えた遊びを不定期に採用するための箱でもある。陽、お前は既に発想力に秀でた人間であると証明した...閃き、それが楽しいかを精査し、紙に書いてこの箱に入れろ」

 椿ははじめ数合わせになれば大したことは陽に期待しないとしていたが、新入りにして部の方向を変える提案をした陽のことを高く評価し、彼に対する考えを改めた。次期部長というのは買いすぎだが、それに着実に迫っている彼は必ず和室部を椿の理想に近づけてくれる。

 「今日は何をします?」

 毎回の活動を楽しみにして早く来る陽が餌を待つ犬のように身を乗り出して椿に問うた。彼女は板をボンドで接着して箱をつくると、その中に福引の紙くらいのサイズのノートの切れ端を放り込んだ。それを陽の眼前に音を立てて置き、こう言った。

 「テストだ!ゴロゴロボックスから一枚引く!それが今日の内容だ!」

 「ネタ切れてたんですか!?」

 「いいや、今日はもとからここから引くと決めてたんだ。まあ、気に入らなければ変えるんだけどな」

 ボックス最大の問題点、それは『それをやる気分じゃない』ことである。それにたとえ乗り気だとしても天候や施設の都合でそれができないこともある。それに対応する策が浮かぶまでは、やはりそのときのアイディアに任せることになる。

 「だから、だ。私はみんなの本音を引き出せなきゃならんのだ。普段は見せないそこにこそ、楽しさのタネがあるんだと私は思う」

 「でも部長は既にみんなのことをよく知ってるでしょう?」

 「いいや、まだまださ。露骨に見せる好き嫌いだけでそいつのすべては語れない。半端な仲では教えてくれないようなそいつの歴史だとか、尋常じゃないこだわりだとかを、私は知りたいんだ。これは部長としてじゃなくて、私個人の思うところでもある」

 確かに、椿と部員とは部長と部員の関係に限らず、友人としての関係にもある。好意をもって付き合っているなら、その人のことを深く知ろうとするのは至極当然のことであり、その究極が和室部の理想だ。

 桜、ノイエ、椛がくる時間はもう把握できた。それまでの時間の潰し方も決まってきた。だから待ち時間は苦痛ではない。全員が揃うと、決まって椿が部屋中に聞こえる声で言う。

 「よし!今日の内容はこれだ!」

 椿がゴロゴロボックスから紙を一枚引くために箱に手を突っ込んだ。その瞬間だった。

 

 バキッ!


 陽の右脚の傍にある卓袱台の脚が折れ、天板が陽の膝を打った。彼のオスグッド(ひざの骨が異常に出っ張った部分)に当たり、彼は膝を抱えて転がった。この部が発足してからずっと部員たちを支えてきた卓袱台がついに限界を迎えた。陽はあの時自分が軽くでも修繕しておけば、膝が痛むことはなかったと後悔した。

 「よし!これを機に家具を見直そう!今日はそういうことをやるぞ!」

 ボックスに紙を戻した椿がさっき使った接着剤を陽に投げた。直せということらしい。陽は折れた部分のバリを除き、接着剤で折れた脚をくっつけた。しばらくは衝撃や重さを与えられないので、部屋の隅にそっと置いた。

 「見直すっても、あれ以外に買い替えなきゃならないものがあるんですか?」

 桜がキッチンを、ノイエが作業場を見て首を横に振った。それでも椿は興味の赴くまま、家具家電を見に街に出ることを決めた。駅前には大型の家電量販店があり、そこに行けば大抵のものは揃う。家具家電以外にも興味を引くものは多そうだ。

 1階には携帯電話やその周辺機器があり、最新機種がずらりと並んでいる。展示されている機種は実際に触って使用感を確かめることができるし、傍にいる店員が詳しい解説をしてくれる。高校に合格したとき親のお下がりを貰った陽は、貯金をして新しいのを買うことを検討していた。よく調べて比較することはあっても、この数字が大きいと優れているとか、なんとかテクノロジーですごいとかはよくわかっていない。そこで機械に詳しいノイエが彼に簡単なプレゼンをした。

 「これはメモリが多いから、たくさんの作業を同時にしていてもフリーズしない。ただ値段が手ごろじゃないな。こっちはどうだ?エントリーモデルだがコスパはいいぞ」

 近い距離で二人が話しているので、椿たちは少し離れた場所でその様子を見ていた。彼女らはあまり携帯電話に多くを求めてはいないようで、機能よりもデザインを評価している。高級ブランドのロゴマークが背面に刻まれているものや、自分のデザインを精密機械で刻んでくれるものがあり、店頭では大きなポップで宣伝されている。

 「ノイエはケータイにも詳しいんだね。ここの店員より詳しいでしょ」

 「かもしれないな...って、随分長いこと話してしまったな。2階に行こうか」

 2階はパソコン売り場。パーツから自作しているノイエにとっては最も馴染みのある場所だろう。ただ、現代の高校生には自分用のPCを持っていない人が多く、ここに来るのはビジネスマンが多い。ただ、端のほうにある液晶タブレットには、今まで食いつかずに商品を流し見していた椿たちも興味を示した。

 「これに絵を描くのかー!って高ッ!」

 「漫研の人が持ってたよ、これ。テストで1位だったら買ってもらうくらいのモノだって言ってた」

 陽は漫画家を志しアナログは上手く書けなくて挫折、デジタルにしようにも金が足りずに諦めた過去がある。そんな彼からするとあの時の熱が再びおこりそうだった。

 「落書きくらいならいいよね」

 さらさらと絵を描くと、やっぱり納得できない線が走る。それを修正ツールで細やかに理想へと近づけ、なんとなくそれっぽい人の線画を完成させた。

 「お、うめーじゃん。私が小学生の頃のに匹敵する上手さだ」

 「それ、褒めてます?」

 陽は知らないが椿は小中と毎回修学旅行のしおりの表紙を担当しているほど絵が上手い。今陽の絵の隣に描こうものなら、彼の自信を完全にへし折ってしまうだろう。

 「先輩たちの気になる家電はなんなんすか?椛先輩はキッチン用具すか、やっぱり」

 椛に関してはメシ絡みのことを言っておけばいいので楽である。食好きで料理好きの彼女だから、家には多くの調理家電を持っていることだろう。より美味しく出来上がるとの売り文句であれば彼女が食いつかないはずがない。

 「スムージーつくるやつ、欲しい」

 「じゃあ探しましょうよ。先輩のつくったスムージー、飲んでみたいです」

 陽が椛と一緒にキッチン家電コーナーに行ったので、それについてゆく椿たち。そういえばキッチン家電のことはあまり詳しくないと気付いたノイエは仕様書をよく見るように心掛けた。新たなマシンへのアイディアを得られるかもしれない。

 

 結局一行は何も買わなかった。洗濯機、冷蔵庫、エアコン、照明...いろいろ見て回り、閉店間際まで長居したが、メインターゲットである卓袱台に関しては部の中で一つの決断が下された。

 「つくろう」

 デザインを持ち寄って最も和室部らしいものを作ろうということだ。

 「あ、新たな活動のアイディアが浮かんだ」

 「お、なんですか?」

 「建築。家とか作ってみよーぜ」

 スケールがでかすぎるだろ、と誰もが思った。


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