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わしつぶ -うるう星 The Side of W-  作者: 立川好哉
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Episode 11 陽という男と和室部という居場所

 陽が意欲的な態度を示すので、椿はそれに負けていられないと部長らしさを見せるようになってきた。そのため毎日のように競争が起こり、勝って負けてで一喜一憂するのを、桜たちは微笑ましそうに見ている。

 「お姉ちゃんと御手洗くんはすっかり仲良しだね~」

 今日はほぼ同着で部室に入ったので、俺が先だ私が先だで取っ組み合いの言い合いになっていた。容赦なく陽の制服を引っ張る椿と、意図せぬ箇所に触らぬように気を付けながらそれを抑える陽の周りには埃が舞って、ノイエがつくった扇風機が茶を飲む三人のほうへ飛ばないようにした。

 「こいつはなんてーか、昔から身近にいたような気がするんだよなぁ...お前、親戚とかじゃねーよな?」

 陽にその気は起きていなかった。彼はそう思っているのは椿だけだと言ったが、椿は檄を飛ばし、宇宙人部の閏だけが彼女の主張を支持した。二人に共通するのは『コミュ力おばけ』ということで、自分でなくても昔から身近にいたような気を起こすのではないか、と呟いた。

 「うーん、お前の言うことは正しいかもしれない...桜、ちょっと陽と取っ組み合いをしてみろ」

 「えぇ...?」

 桜は無理に慣れたような行為をさせようとする姉を睨んだが、和室部とは強要されて経験するものだ、と覚悟を決めて陽の襟を掴んだ。動揺する陽とは対照的に桜の背中を押して事の進展を促す椿。それを苦笑いながら見る椛とノイエ。どうやら周囲に味方はいなさそうだ。陽は真面目に喧嘩をふっかけた桜の思い通りに左右に揺さぶられ、ついに地面に叩きつけられて腹の上に乗られてしまった。耐性のない陽はすぐに顔を横に向け、間近に迫る桜の胸の揺れから逃れた。

 しばらく椿の言いなりになって夢中で陽を攻めていた桜だが、単純に行為に飽きたことと椿が感じたことを自分は得られないと思ったことを理由に彼から降り、謝罪した。

 「悪くはなかった...かな。でも無理に近づこうとして段をとばすと、踏まなかった段にある大切なものに気付けませんよ」

 「お前は段取りを重視する奴だな。まあいい。私とうるうがお前に特別な印象を抱いたというだけの話だ。桜がそうじゃないことを知っただけよしとしよう」

 椿もまだ陽のことを詳しく知ってはいないので、他人の同意を得られなくても自分なりの方法で彼と仲良くなろうと思い、昨日から陽の提案でやることになったゲームの続きをすると宣言した。


 「陽はゲームだと頼もしいな。お前、妹とか弟はいないだろ」

 「いませんよ。一人っ子です」

 「あーそうなんだ。よく考えればそうかもな...最初の印象が強くていつも牽引される車みてーな感じだからそう思うだけで、昨日のお前は牽引する車のほうだったな」

 妹や弟は兄や姉に導かれ何かをすることが多い。ゲームもそうだし、スポーツもそうだろう。ここでは椿という姉が和室部という活動において部員たちという妹弟を導く。その立場を、昨日は陽が代わっていた。彼は導く側の振る舞いもできるということだ。

 「部長が独善的な人だったら和室部は続かないでしょうね。新入りである俺の言うことをちゃんと咀嚼してくれるからこそ、素の俺を出せるんですよ。自分で言いますけど、俺ってポテンシャルはあると思うんですよね」

 「スカウトの私が目を付けたんだからそれは間違いない。お前は慣れた頃に必ずその能力を発揮してくれると思ってたし、その助けをするのが部長の役目だった」

 陽は椿が掲げた条件に適う人だった。彼が後輩で新人で唯一の男であることを過度に気にして萎縮しないように、椿は自身の振る舞いについて桜たちに意見を求めていた。活動が終わって家に帰った後もその日の発言の一つ一つを顧みたし、高校生男子の性質についても父親に解説を求めた。それに陽との対話で得たものを加え、逸材を腐らせないようにしているのだ。陽が『素の俺を出せる』と言ったことは、彼女に自分の言動が正解であったことを確信させた。

 「最初のほうは様子を見るために遠慮がちになっていましたが、長い時間かかりませんでしたね。早いうちに『あ、けっこういけそう』と思えたし、実際にその心持ちでみんなと話して、ちゃんと会話できたんでね」

 「ヨウがすっかり慣れたから思い出したが、入りたての頃のヨウはグリズリーに会った人のような怯え具合だったな...餌にはしっかり釣られたが」

 「ノイエとの壁が払われたのは、その餌がきっかけだったね...」

 悪い事件のように思われるが、陽とノイエにとってはそうではないようだ。快く思おうが不快に思おうが陽とノイエを繋げたのはその事件であり、そうでなければ二人は互いを遠い存在と思ってしまうだろう。繋がりが健全で強固なものではないため、陽が最も積極的に繋がらないといけないのはノイエかもしれない。

 「わたしはまだよくわかってないかなー」

 桜は陽のどこを掴んで彼を知るべきなのかを探っている途中だった。二人きりになったときは互いに質問と答えを投げ合った。言葉のボールは美しいアーチを描いていたし、グローブのど真ん中に収まっていたかもしれないが、デッドボールを投げた(投げられた)ときの対応を知ることはできなかった。野球では怒るか赦すかの二択かもしれないが、人間関係ではもっと多くの選択肢があるだろう。

 「学年一緒なんだから授業のことなら共感できることが多いんじゃねーの?」

 椿が提案した一つの切り口が『授業』だ。テストの難易度だとか、教師がこんな人だとかの話で盛り上がることはできるだろうし、コメントから人格の情報を得ることもできるだろう。しかし陽はもっと刺激的な切り口を求めていた。ノイエとの事件ほどとは言わないが、二人を繋ぐ強烈なワードがないと、同じ部活にいるのにどこかよそよそしかったり、会話が機械的になってしまうという懸念が強くあるからだ。桜も同じことを思っているなら、この問題は早いうちに解決するだろう。

 「私もまだわかんないかな...」

 椛は桜と同じような悩みを持っているが、それに加えて自身の積極性のなさを自省していた。陽が棘のない柔らかい人物だというのは彼と椿との会話を見て知ったが、彼への期待が大きいせいで、自分から突っ込んでいくことに億劫になってしまっている。陽は自分に関するワードを一つ知っている。そこから自分との関係を広げて欲しい...いつか叶う願望だが、彼が部の中心へと進むにつれて、自己の焦燥は激しくなっていった。彼女の最初の課題は、陽に自分の強い気持ちを伝えることだ。

 「私は陽と桜、椛、ノイエとの関係をまだ深くは知らないが...『楽しくなる』ということだけは約束しよう。今年度の和室部のコンセプトは『無礼講』だ。陽はこの通り柔軟性の高い奴だ。強く突っついても、弱く触ってもちゃんと反応してくれる。まだこいつのことをよくわかんねーって人は、触ってみろ。なんなら押し倒してみろ」

 「目の前でホメられると恥ずかしいですね。俺がいないところでやれば...」

 「和室部の活動の時は必ずお前がいるだろーが。お前抜きで和室部はやらねーぞ」

 そういう意味で『奴隷』と言ったのであれば、なんとも嬉しいことである。

 「知れば知るほど楽しくなる...噛めば噛むほど味の出るスルメみたいな人になってやりますよ。なんで突っつくなり触るなり押し倒すなりしてくれて構いません」


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