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相互交流

 そうして戦争が始まった。人類は高を括っていた。確かにネイバーの身体能力は恐るべきものだったが、所詮は武器すら持たない蛮族であると。衛兵程度では歯が立たなかったが、本格的な装備を持った軍を投入すれば簡単に鎮圧できるものと。

 実際、人類の兵器も無力というわけではなかった。人が携行できるレベルの銃砲が通じずとも、より大きく強力な火器を用いれば彼らを殺傷することはできた。戦車や装甲車による火砲の嵐が、強靭な彼らの皮膚を引き裂いた。しかし、彼らは実に勇敢だった。いや、それは狂気ですらあった。彼らは、砲弾の雨が半身を消し飛ばそうともひるまず前進し続け、自らの拳が砕けるのもいとわず、人類側の兵器を叩き潰した。航空機による爆撃も行われたが、こちらもあまり成果はあげられなかった。俊敏さもさることながら、彼らは危機察知能力もまたずば抜けていたのだ。爆撃機が迫るや否や、彼らは的を絞らせないように散り散りになってやりすごした。辺りを焼き尽くすほどの大規模な爆撃を行う、あるいは陸上戦力で退路を断って爆撃を加える、という方法もあった。前者は戦場となった国が自らの国土を焼かれることをよしとせず、実行に移されることはなかった。後者は実際に決行されたものの、結果は失敗に終わった。人類側の意図を察した彼らは、決死の覚悟で敵陣に切りこんだ。戦場は敵味方が入り乱れる混戦となり、爆撃は中止された。人類は味方ごと彼らを吹き飛ばすような蛮行には踏み切れなかったのだ。しかし、後の惨状を見れば、どんな犠牲を払ってでもそうすべきだったのだろう。それこそ、核の炎で地球を焼いたとしても。


 戦況は膠着状態に陥った。いくら彼らが優れた戦闘力を有していようと、人類との数の差は明らか。多少苦戦するようなことがあっても、駆逐することはそう難しくはないはず、と人類は考えていた。

 だがここでもまた誤算があった。彼らの生命力だ。人類なら、地球の生命なら確実に命を落とすような損傷を受けても、彼らは生き延びた。腕を失っても足を失っても、半身を失っても頭部のほとんどを失ってもなお生きていた。無論、不死身ではない。頭部を完全に破壊するか、胴体を原型を留めないほど破壊すれば、死に至らしめることができた。しかし、ただでさえ頑強な体を持つ彼らの生命活動を停止させるのは容易いことではなかった。しかもその上に、彼らは治癒能力も極めて高かったのだ。どんな大きな傷や欠損だろうと元通りに再生する、驚くべき治癒能力。ただ、そのためには必要なものがあった。何のことはない、食物が必要だったのだ。治癒能力があっても、失った部分を補填するための材料がなくてはどうしようもない。しかし、これは大した問題ではなかった。食物ならばそこら中にあった。彼らが屠った人の肉が。

 ただそこにあったから、というよりも、彼らは好んで人肉を摂取しているようでもあった。彼らは他の動物や植物には手をつけず、自らが屠った人の肉だけを平らげた。

 そして、それに関するもう一つの誤算。彼らの繁殖方法だ。彼らに性別はなく、単為生殖――分裂のような方法で増えていった。驚異的だったのはそのペースだ。彼らは分裂に必要なだけの栄養を蓄えると、すぐさま自らの分身を生み出す。彼らは食べれば食べるだけ増えた。殺し、食らい、癒し、増える。彼らはその数を減らすどころか、むしろどんどんと増えていく。有効な打開策を打ち出せない人類は、徐々に押され始めていた。

 好転しない戦況から、和平交渉も試みられた。彼らには知性があり、言葉が通じるのだ。ならば、交渉も可能なはずである。「あなた方は一体何を求めているのか。領土か、資源か。要求があるのならば最大限希望に沿うよう努力する。どうか、矛を収めて頂けないだろうか」人類は様々な条件を提示したが、しかし、ネイバーが交渉のテーブルにつくことはついぞなかった。人類からの再三の呼びかけに対し、一度だけ、彼らから返事が返ってきたことがあった。

「これが我らである」

 たった一言。それだけが彼らがした唯一の意思表示だった。

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