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マッドゴーレム取扱説明書(核十六個タイプ)

 本書はダンジョン攻略を円滑に進めるために調整された特殊なゴーレムの取扱説明書です。


注意事項

・人がダンジョン内にいる状態でマッドゴーレムを使用しないでください。中にいる人がマッドゴーレムにより死亡する場合があります。

・マッドゴーレムを使用後は付属の護符をもった上でダンジョンに進入してください。護符がない場合、マッドゴーレムに取り込まれる恐れがあります。

・濡れて困るアイテムがダンジョン内にある場合はマッドゴーレムを使用しないでください。

・マッドゴーレムはダンジョン内のモンスター一掃を保証するアイテムではありません。マッドゴーレムが倒せないモンスターも存在します。ダンジョン探索者の責任により対応してください。


内容物

・マッドゴーレムの核:十六個

・特殊調合粘土:四トン

・聖水:一トン

・巻物:一巻

・護符:十枚

・こね棒:一本

・ガイド粘土:五キログラム

 以上が揃っていることを確認し、足りない場合は販売者までご連絡ください。付属品以外の物をマッドゴーレムに混ぜた場合の効果は保証できません。核の再利用はご遠慮ください。なお、こね棒は使用後に武器としてご利用いただけます。


使用方法

1.マッドゴーレムの材料をダンジョン入口まで運んでください。一部の販売店では一時的に粘土を通常のゴーレムにし、指定のダンジョン入口まで自走させるサービスを行っています。

2.粘土に聖水を一リットルずつ加え、掛け声をあげながら、こね棒でよく混ぜ合わせてください。色がだんだんと変化して黄土色からピンクパール色に変化して来ます。最初の聖水一リットルに使用者の血を三滴くわえてください。

3.全体が混ぜ合わされ粘りけが出てきたら核を投じ、巻物に書かれた呪文を唱えます。巻物が燃え上がり、粘土に天使の梯子状の光が降りかかって、球体になったらマッドゴーレムの完成です。

4.護符をもった上で、ダンジョン入口からマッドゴーレムまでガイド粘土で線を描いてください。ガイド粘土がマッドゴーレムにつながった瞬間に動作を開始します。護符をもっていればマッドゴーレムが避けて動くため、呑まれる心配はありません。護符は仲間やダンジョンに近づく近隣住民にも配布してください。ガイド粘土をつなげても動かない場合は「前進」と命じてください。他に「後退」と「待機」の指示を受け付けます。

5.ダンジョン内に進入したマッドゴーレムは自動で探索とモンスターの掃討を開始します。マッドゴーレムが入口に戻ってくるか、連絡用分身体が入口に戻ってくるのに応じて、ダンジョン内の探索を開始してください。

注.ちなみにダンジョンの封鎖による蟲毒現象をさけるため、マッドゴーレムは完成後一ヶ月で自壊する設定になっています。


動作原理

 マッドゴーレムはダンジョンの断面いっぱいに広がり、自分の粘土が付着していない方向へ進みます。

 分かれ道に遭遇すると停止し、核が二個含まれる分身体をその場に残して横道に入っていきます。この原理で最大七回まで分裂します。分身が不可能になってから分かれ道に遭遇した場合は分身体を残さず、横道に入っていきます。

 行き止まりに達したマッドゴーレムは自らの粘土跡をたどって分身体のところまで戻り再度合体します。通路がループして自分のトレースに遭遇した場合も同様です。合体したマッドゴーレムは未探査のルートに進みます。十字路で止まっていた場合は再び分身体を残して、未探査の横道に入っていきます。

 こうしてダンジョン内を自らの泥で塗り尽くしたマッドゴーレムは入口に戻ってきます。日光を浴びた場合、つまり別の出口から出てしまった場合は、日光を浴びた瞬間から泥の跡をバックします。

 横道に入った本体が十二時間戻って来なかった場合は、分身体から後方に連絡用の分身が送り出されます。使用者は戻ってきた連絡用の分身に、残った分身への前進を命じることができます。核が二個または三個の分身体は探査済の方向へ進みます。先に合流する分身体があれば、合流後は本体と同じ原理で動きます。


使用上のヒント

 粘土には細かい雲母が含まれ、照明でキラキラと反射の光が輝きます。ゴーレムが通過した跡の確認にご利用ください。乾燥後の粘土は衣服に付着しにくく比較的清潔です。

 マッドゴーレムは物理攻撃に強くモンスターを呑み込み窒息死させますが、魔法や火の息には強くありません。ゴーストなどの邪悪なモンスターに対しては聖水によりダメージを与えることができます。

 マッドゴーレムは扉を認識できません。ダンジョン内の室内にモンスターが潜んでいた場合、マッドゴーレムの通過後をモンスターが徘徊している可能性があります。決して油断せずに進んでください。




 伝説の賢者の弟子が開発したマッドゴーレムはヒット商品になった。完璧ではないが使いやすく、最低限の仕事は果たしてくれる。入口で待機せずにマッドゴーレムのすぐ後ろを進んで、なかば一緒に戦うこともできた。

 不具合は多かったが、開発者が現場に出向いてひとつひとつ潰して行った。待望のマッピング機能実装により、人間が侵入不可能な地下空間への学術調査にも使われはじめた。

 モンスターのいない下水道やカナートの保守点検にも使用され、作業員が事故にあう危険を未然に防いだ。

 ついにはダンジョンを管理している側もマッドゴーレムを密かに入手し、自分のダンジョン内に侵入した野良モンスターの駆除に役立てていたらしい。

 自己学習能力をもった核が発売されてからは、目的が明後日の方向に進みはじめ、より早くダンジョンを攻略できるアルゴリズムをもったマッドゴーレムを育成して競い合う大会が開催されるのであった。

 このレースには実物のダンジョンが使われていたが、やがて模型のダンジョンと小型のマッドゴーレムが使われるようになり、育成が急速に進んだ。さらには回転対称のダンジョンにマッドゴーレムを入れて相手のゴールにたどり着くか、相手ゴーレムの分身を全滅させることを競う闘マッドゴーレムが行われ、少年少女の間で大流行。

 本気でマッドゴーレムによる世界征服をめざす悪の組織と少年少女が闘う事態もあったというが、それはまた別の話である。


 なお心の汚れた大人には、ピンクパール色のつるつるしたマッドゴーレムがダンジョンの穴に出入りする様子は卑猥にみえたらしい。

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