武器はスケブと筆記用具
その日
私こと、 一ノ瀬 乙葉は、
同人誌関係のイベントに向かう途中
信号無視のトラックに激突した。
貴重品等は最低限。
右手にはイベントで使う予定だった[スケッチブック(スケブ)]と[筆記用具一式]のみ
私は願った【生きたい!】【ここで終わりたくない!】と
私の視界が真っ白に染まった
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「ん………え!?」
目を閉じていた私はゆっくり瞳を開く。
周りを見回して見る
右→森
左→森
前→もちろん森
「私…トラックにひかれたんじゃ…」呟きかけて、自分の所持品を確認する。
「財布は無事…携帯も無事、デジカメもある。あとはスケブと筆記用具だけ」
着ている薄いピンクのワンピースも特に異常はない。ひかれたはずなのに…
「これが巷で噂の転生、なのかな?」
一人呟く私は、今の状況が
【日本人が魔法等が存在する異世界に転生すると強くなる】
という流行している小説に、良く似ていることを理解した。
え、本当に転生できるんだ…
「ーーーーーーん!良い香り♪」
大きく深呼吸すると、大自然独特の土と木の香りがする。鳥のような鳴き声も聞こえ、幻ではないと実感する。
「お?」
周りを観察すると一つの[樹木]が目にはいる
高さは他の木々よりも低いが、葉は大きく、幹のまわりにはいくつもの蔦が伸びて絡まったまま成長している感じだ
無意識に私は、その樹木に手を触れようとした
その時、
「グヘヘヘ!」
「ったあ!!」
近くで争う声が聞こえてきた。
転生して早々バトルか…戦えるかな私
私は息を殺して声のする方へと、ゆっくり近づいてみる
「多勢に無勢か…」
「当たり前ブヒ、さっさと金目の物を寄越せブヒ」
「寄越せブヒ!」
「さもないと…ぶん殴るブヒ」
一人は黒っぽい髪の上から犬耳を生やした見た目10代の青年(たぶん亜人という種族)、武器はナイフ
それを取り囲む豚をそのまま人間にした生物のグループ。なんか童話で見たような光景ね
明らかに悪そう。ヨダレでてるし
それぞれ斧、棍棒、メリケンサックを装備していて青年はピンチだ
<カタカタカタカタ
「っ!?」
突然、私が持つスケブが揺れた。そして私の脳内に【あるイメージ】が浮かぶ、そしてあの【樹木】
「私の能力って…まさか」
私はスケブを開く、そこには書きかけのイラストが
【やるしかない!!】
私は筆記用具からペンを出し、走り書きを始める。
「…精霊王よ、私を助けてくれ」
「諦めるブヒ!こうなったらギタギタにするブヒ」
「するブヒ!」
「今夜は[オオカミ鍋]で決まりブヒ」
「あんたたち、今すぐ止めなさい!!」
私はスケブとペンを持ったまま四人の前に現れる。やっぱり亜人青年は狼だったのね
「あ? 女ブヒ!人間の女がなに用ブヒ?」
「その人から離れなさい。さもなくば痛い目をみるわ!」
私はスケブに[名前]を書き添えると叫ぶ
【出でよ!】
「「「な゛」」」
「し、召喚だと?」
私の横に一人の少女が[どこからともなく現れた]のだから そういう反応するよね
身長は私の155より低め
着ているローブ、短い癖っ毛、瞳の色 全てが[緑色]で、右手には木製の弓を持っている
「フィアです。お姉ちゃん、よろしくです」
「た、ただのガキになにができるブヒ?」
<シュルル
フィアの左手から蔦が伸び[矢]が作り出される。矢じりは大きなトゲだ
「矢が切れることはないです。とっても痛いですよ?」
弓と矢を構えるフィア
「せ…精霊なのかブヒ?」
「そんな訳ないブヒ!」
「で、でも今」
<シュパ
山賊豚の横を矢が飛ぶ、少しかすり、血がすうっと流れる
「お姉ちゃんが忠告したのです。次は当てるです」
むすっとしたフィアが矢を補充し構える
「「「ぶ、ぶひぃいいい!」」」
顔を青くした豚三人は逃げていく。ヘタレだな…矢一発で
「申し訳ない、女性に助けられるとは…」
亜人青年が一礼する
私とフィアも青年に近づく
「私は近くの村に住む狼族のロウといいます、貴方は…」
「一ノ瀬、乙葉24才。たぶんだけど…異世界から来ました」
こういうのはあっさりリカミングアウトするに限ると思った私。
「……なるほど、異界の方なら先程のスキルも納得です」
頷くロウさん、え?信じてくれるんだ
「村へ案内します。歩きながら説明しましょう、この[ヤーカシ]について」
・ヤーカシ・
いわゆるRPGの世界。人間、亜人、魔物等が生きている。
この世界は[精霊王ガイア]という存在によって守られている。
ガイアはこの世界を発展させるため[異世界]の人や物体を、この世界に呼び出すのだという。彼らは特殊な能力と知識によって、ヤーカシの発展を支えてきたのだという。
「オトハさんの能力は特に珍しい。召喚なんて魔法使いが希少なヤーカシでは皆驚きますよ?」
「召喚とは違うかな…私が作り出した娘だからフィアは」
そう言いながら自分の能力を改めて実感する。
【擬人化】
日本人は文字通り[なんでも]擬人化するらしい。擬人化によって親しみが湧き、興味がでてくるからだ。
私はさっき生えていた【樹木】を擬人化した。蔦を自在に操れ、周りの木々から様々な情報も知ることもできる彼女
「チートというやつです。お姉ちゃんに擬人化されたことで、向こう[日本]の知識もあるのです」
ニッコリ微笑むフィアを見て私も微笑む。
一度は亡くなるはずの命が、こうして生きている。私がヤーカシに呼ばれたからには、やれることはやろうと 決心 した
「あそこが村です。せまい村ですが…」
ロウさんが指差す先に西洋式の建物のが見えてきた。