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天才達の共闘  作者: 天城葉月
異空間
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第6話 ~時間内~



<沙紀>視点



 長い通路を進む。とにかく歩くしかない。途中の通路には何もなく、隠し扉のようなモノも存在しない。何かあったらあったで困るのだが…計画が狂うからな。何もない方が都合がよい。


 「…不気味だな。音一つない。」


 ん…あまり言いたくはないのだが、これから先、私が見たのよりもっとおぞましいく、強い怪物も出てくるだろうし、言って置くか。


 「言い忘れていたが、3階でおぞましい怪物を見かけた。」


 「え?そんなのいたの?」


 「ああ、いたぞ。凄く気持ちが悪かった。昇も柊人も、見る時は相当覚悟しておいた方がいいぞ。」


 本当のことは言っているはずだ。嘘は何も言っていない。もし本当に目にした時、最初の印象をどう持っていたかで、心の持ちようが変わる。例えば、『ぜんぜん怖くない』と聞いた時と『物凄く怖い』と聞いた時で同じお化け屋敷に入るとすると、もしお化け屋敷が本当に相当怖かった場合、どちらの方が怖いと感じるだろうか。恐らく、後者だろう。心構えの問題だ。


 だから私はあえて怖がらせるように言った。私の言うことだから2人も信じるだろう。実際より少し大袈裟に表現した方が良いのだ。ココではいくらでも怖がって良いが、実際に見た時に恐怖で身体が硬直されたら困る。


 「それで、沙紀はどうしたんだ?見た、ってことは当然何かあったんだろ?」


 柊人が妙に鋭い。これはなにかのアクシデントの前触れだな。


 「うむ。少し戦ったぞ。」


 「ど、どうだったんだ!?逃げてきたのか!?」


 「4体ほど蹴り殺した。恐らく弱いのだろうな。だが、油断は禁物だ。奴等は少なくとも柊人以上の頭脳を持っている。戦い方を見ればわかる。私が同時に、安全に相手できるのは、3体までだろう。」


 10対+αを相手にしたが、全ては殺していない上に、最初に戦ったときに2分も使って分析し、弱点を把握していなければ、さらに生存率は下がっただろう…。


 「いや、もう沙紀は人間やめてるぐらい強いから、僕では多分1体を相手するのだけでもキツイだろうね。」


 「それより、何か物凄く貶されたような気がしたが、気のせいか?まあ、いいだろう。沙紀でその程度戦えるなら、俺が加われば何体いても相手できそうだな。」


 地下に降りてから妙に柊人の勘が鋭い。今のは格闘の話だったから、ある程度の感覚でわかったのだろうが。


 話は少し変わるが、昇も少しだけ空手を習っていた。3人で一緒の道場に通っていたのだが、昇がすぐに辞めてしまい、私も辞めた。現役なのは柊人だけだが、昇も一定の実力は持っているので1体の足止め程度なら可能だろう。


 「む。扉はアレだな。念の為に昇は私の後ろにいろ。柊人は私と逆方向で構えておいてくれ。」


 遠くに見えてきた扉にカードキーが必要なのだろう。


 …言い忘れていたが、通路は相当広い。人が4人横に並ぶことが出来る程度だ。


 「さて…準備は良いか?開けるぞ。」


 「いつでも来い。」


 カードキーを指定の場所にあてる。すると、扉がスッっと開いた。


 扉から見える部屋は広く、研究室のようだ。荒らされた様子は勿論なく、まるで今も人が住んでいるかのように綺麗に整頓されている。


 「何もなさそうだな。そこの部屋から調べるか。」


 部屋には、入ってきた扉以外に、扉が2つあった。こちらは電子ロックという感じはなく、、普通のドアノブだ。


 まず右側に見える方の扉を開ける。


 「…なんだこれは。何かの研究室か?」


 謎の試験管がいくつもズラリと並んで保管されている棚、何か妙に細々とした幾つもの機械、そして…何故か手術台がある。


 「すげー、なんだこの試験管。何が入ってるんだ?」


 柊人が興味津々という感じで部屋を見渡している。一方、昇は細かい機械を熱心に観察している。…みんな自由だな。


 「…何をしようと構わないが、そこでじっとしておくのだぞ。」


 熱中している2人を置いて、手術台の近くに寄る。何を考えても、こんな所で手術をするのは奇妙に感じる。何の為にあるのだろうか…何に使ったのかはあまり考えたくない。


 「ねえ、沙紀。ちょっと来てくれる?」


 嫌な想像ばかりしていると、昇が私を呼んだ。


 「どうした。何かあったのか?」


 「このパソコンに一つだけデータが残ってたんだ。コレ、何だと思う?」


 柊人と違って昇はきちんと調べていたのか…見ると、確かにパソコンにはたった一つ何かしらのデータが残っていた。それ以外は何も残っていない。


 「ユーザー名は?あと、電源はどうなっていた?」


 「ごめん、ユーザー名まで見てない。電源は最初からついていたよ。」


 データを見る前にユーザー名を見よう。案外、コレが役に立つこともある。大抵の人は自分の名前に関連した名前をパソコンのユーザー名にするだろう。このパソコンの持ち主も例外ではないはずだ。


 「どれどれ…ユーザー名は…『akeyama』…どういうことだ?」


 どうして、私の苗字がこんな所に出てくるのだ…?私はこんな所知らないし、関係なんてあるはずが…


 「沙紀の家族が何か関係してるんじゃない?」


 家族…か。確かに、私は家族のことを何も知らない。唯一知っていることは、両親は私が小さい頃に亡くなった、ということだ。それ以外は何も知らない。


 「…そうでないことを祈る。全くの別人で、私とは無関係であって欲しいものだ。」


 仮に私と関係があるならば。あの洋館も私の家族のモノだろう。ならば、あの引き出しに入っていた物も必然的に私の家族に関係がある。つまり…


 「まあ、そんな深く考えない方がいいんじゃない?今考えても仕方がないでしょ。」


 「…ああ、そうだな。それよりもデータの方が大切だ。」


 一つだけ残っていたデータ。とりあえず開けてみる。


 「…なんだコレは。…!?」


 「沙紀!どうしたの!?」


 あの時と…同じ眩暈。強烈な既視感。流石に2回目だから最初よりもマシだったが、それでも一瞬意識を失う程強かった。


 データは、文字化けしていた。何を書いているのか、何を表しているのかは全くわからなかった。しかし…何故か、私にはソレが何を表しているのか…何となくわかってしまった。


 「だ、大丈夫だ。問題はない。それより、このデータだが…。…?」


 何故だろうか。何を考えていたのか、何を表しているのか忘れてしまった。何か、とても大事なことだったと思うのだが…


 「コレ、わかるの?ただ文字化けしているようにしか見えないけど。」


 「…いや、すまない。やっぱり何もわからない。だが、恐らく大事な事を書いているのだろうな。」


 何かがおかしい。まるで、私に何かを悟られたくないような…そんな気がしてならない。だが、今そんな事を考えても仕方がない。この部屋は恐らく全て見たはずだ。


 「おい、柊人。お楽しみの所悪いが、次の部屋へ行くぞ。こんな所で時間を潰している暇はない。」


 「おう、今行くぜ。」


 柊人も合流し、最初の部屋に戻る。念の為入り口の扉は開けたままにしている。


 「…ん?おい、沙紀。あのタイマーは何だ?」


 柊人が指した場所を見る。…よく見ると、入り口の扉の上に、タイマーがあった。数字が少し、しかし確実に減っている。


 「…ふむ。恐らく、制限時間だろうな。3階の時もそうだったが、こんな所時間をかけて調べるといくらでも情報を入手できる。それを制限する為だろうな。」


 地下であるから爆発はしないだろうが…恐らく、扉が自動的に閉まって二度と開かなくなるのだろう。こんな所に閉じ込められたら助からないだろうな。


 「ということは、残りは…48分程度、ってことだね。」


 「そうだな。急ぐぞ。」


 もう一つの、入り口から見て左側の扉を開ける。


 「…何もないぜ。」


 「…何もないな。」


 「…何もないね。」


 もう一つの部屋は、文字通り何もなかった。そこそこ広い部屋にも関わらず、埃一つなさそうだ。


 …いや、そんなはずはない。絶対に何かあるはずだ。


 「少し、床で変な所がないか調べてくれないか。流石に、何もないなんてことはないはずだ。」


 2人は頷いて床をしっかりと調べ始める。私も2人とは別の場所を探す。


 そして、3分後。


 「おーい、沙紀。コレじゃないかな?」


 昇が私を呼んだ。昇が指した場所は、確かに他とは違い、隠し扉になっているようだ。


 「…コレだな。柊人、この扉蹴破れるか?」


 「お安い御用だ!」


 柊人が蹴ると、その扉は木で出来ていたらしく、バキッという音とともに下へ落ちていった。


 「…なかなか広い階段になっているようだな。行くぞ。」


 当たり前のことだが、階段は薄暗い。60段程降りて行っただろうか。また一つの扉が現れた。扉の近くには、スイッチがある。


 「そのスイッチは何だ?」


 流石は柊人。馬鹿だ。


 「普通に考えて、この扉の向こう側の電気のスイッチだろう。流石に爆発なんてしないだろう。」


 何も警戒せずにスイッチを入れる。その瞬間『ドォン!』…なんてなるわけもなく、ドアから光が漏れる。普通の電源だ。爆発してたまるものか。


 「な?ほら、突っ立ってないで急ぐぞ…ここが正念場だ。」


 扉を開ける。



 ……それは、酷い光景だった。死体。死体。死体。辺り一面が死体。顔がなくなっているモノもあれば、綺麗に身体が残っているモノもある。…しかし、血は全く出ていない。腐敗臭もしない。近くにあったモノを触ってみると、冷たかった。マネキンのような感じはしないので恐らく本物だろう…考えたくないが。


 「うわ…なにコレ…」


 「見てらんねえな…」


 昇が目を逸らす。柊人が目を逸らす。そりゃあそうだろう。それが普通の人間の反応だ。私は…なぜか、こんな光景を見ても、何も動じなかった。まるで、何度も見てきたかのような…


 「…気持ちが悪いなら、上で待っていてくれないか。恐らく、ココに四肢のうち2つがある。私は残りの時間でそれを探し出す。」


 「あるって…こんな所にか?あと、残り1つはどこに行ったんだよ。」


 柊人の質問。


 「葉を隠すなら森に…と言うだろう?それと同じ理屈だ。幸い、これらの死体は身体欠損こそ見られるものの、欠損した部分は見当たらない。見つけるのが不可能というわけではない。そして、もう1部分だったか?…それは後でわかる。気にするな。」


 無事に2つ探し出せたら説明しよう。それより、時間はあまり残されていない。急いで探さなければ。


 「…悪いけど、俺はやめておく。上で残り時間を伝えるぜ。」


 「僕も、コレはちょっと…。かなり気分が悪くなった。休ませて貰う。」


 2人が離脱。まあ、一人で探せないこともない量だから、なんとかなるだろう。


 「では、上で待機してくれ。残り時間はしっかりと伝えてくれよ?」




 私は、一人で探し始めた。残り時間は40分程度。急がなくては。





......

...





 残り、5分。一つは見つけて昇に渡した。残り、探していない場所は八分の一。ギリギリのペースだ。階段で30秒、そしてそこから入り口まで10秒必要だとすると、残り時間は実質4分程度だ。


 『残り4分!』


 『残り3分!』


 『残り2分だ!まだか!?』


 必死に探すが、見つからない。何故だ。何故だ…!柊人の声がこの部屋に木霊する。落ち着け…落ち着け、私。焦りは禁物だ。


 そして、ついに。もう一つのパーツを『残り1分だ!急げ!戻って来い!』見つけた。


 「わかっているさ!見つけた!すぐに戻る!お前達は先に出てくれ!」


 死体が思ったよりも邪魔で思うように進めない。ようやく、この部屋の入り口まで辿り着く。体感、残り40秒。


 階段を必死に駆け上る。1段1段がとても高く、そして果てしなく見える。


 永遠に続くと思われた階段がようやく終わる。もう足は限界だ。60段もある階段を全速力で上ったからだ。体感、残り10秒。


 『残り10秒だ!とにかく急げ!』


 柊人の声がする。ギリギリ間に合いそうだ。


 一番最初に入った部屋まで戻ってきた。扉の上に見えるタイマーは、『00:05』。柊人、昇が扉の外で待機している。


 間に合う。このまま、何もなければ間に合う…!




 ”何もなければ。”



 「うわぁ!」




 不幸なのか。私が悪いのか。


 階段で体力を使い果たしたのか。私の足は縺れてしまい、転んでしまった。無情にも、時間は進む。時間は『00:01』。

 

 せめて、せめて、このパーツだけは…!そう思い、見つけた体の一部を扉の外に向かって投げる。



 『00:00』



 神様は、最後の抵抗さえも認めてくれないのか。扉が凄い勢いで閉まり、投げた物も扉に弾き返された。


 扉が閉まる直前に見えた柊人の表情は、こう語っていた。


 『どうして』


 と。



 間に合わなかった罰なのか。


 突然天井が開き、20体程度の、あの怪物が私を取り囲むように降ってきた。さらに、『シューッ』という音もする。…空気を抜かれているのか。


 「…もう少し、手加減してくれんか…。」


 疲れきった私の足は、しばらく時間を置かないと動かない。だが、怪物はそんな事お構いなしに私を襲う。


 「…もう、会えないかもな。すまない、皆。」



 最後の力を振り絞って、私は立ち上がり、戦う。無駄な抵抗かも知れないが、な。



 私も、あの死体の一部と化すのかもな。



 戦っている時は、そんな事しか考えられなかった。




次→10%

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