表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天才達の共闘  作者: 天城葉月
異空間
3/18

第1話 ~既視感~



<沙紀>視点



 目が覚めた。ここはどこだろう。どこかの小屋の中?確か、4人で遊んでいて、そして…


 「あ、目覚めました?」


 …誰だろう、この女は。少なくとも私の知っている人の中にこんな人はいない。まあ、恐らく誘拐されただけだろう。念のため自分の身体の様子を調べてみるが…何かされたような感じはない。だが…


 「何の為に?って訊きたそうですね。ふふっそんなに警戒しなくてもいいですよ?まずはそちらの2人を起こしてあげて下さいな。」


 周りを見渡すと、確かに柊人、昇がいた。

 …記憶に残っている限り、あの状況で誘拐されたと考えると何をどう考えても一人足りない。

 

 「雪菜はどこだ?返答によっては貴様に危害を加える可能性がある。」


 「多分、雪菜さんならこの空間のどこかにいらっしゃいますよ。」


 どういうことだ?何とも曖昧な返事だ。そりゃあ空間の中にはいるだろう。空間の中にいないなら、雪菜はなんだか言葉に出来ない冒涜的な力によって存在自体を改変されていることになる気がする。つまりは…

 

 「つまり、雪菜は別の場所に捕らえておいた、ということか?あと確信を持て。」


 「確かです。流石は天才。理解が速くて助かります。じゃあ、貴方達が捕らえられてこちらの世界に連れてこられた理由を説明しますね。一度だけしか言わないので、よく聞いてください。」


 「おいちょっと待て。『こちらの世界』とはどういうことだ?」


 他にも聞きたいことは色々あるが、恐らく聞いても答えてくれないだろう。だが、『こちらの世界』についてはしっかりと聞いておく必要がある。あまり考えたくないが…ここが私の全く知らない場所という可能性が限りなく高いということだから。


 「ちょうど説明しようと思っていた所ですよ。簡単に説明すると、貴方達が元いた場所、例えば奈多高校が存在する世界とは空間的には繋がっていないということです。閉じた空間、といった所でしょうか?」


 「地球は球であり、ある一点から歩き始めると元の場所に戻ってくる…つまり、この空間は地球をかなり縮小したようなものであり、どれだけ歩いても元の場所に帰ってくる。さらには、どれだけ努力しても、この場所から歩くだけでは奈多高校には到達しない、ということだな?」


 「ノー。少し違います。まあそこは気にしなくてもいですよ。しかし、理解が速いですね。歴代最速ですよ。では話を元に戻しますね。」


 歴代最速…?何のことかわからないが、とりあえずはスルーしておいて、彼女の話を聞くとしよう。私の勘では、少しでも話を聞き漏らすと脱出が不可能になるから。


 「ああ、そうしてくれ。」


 「ではまず、雪菜さんは命に危険が迫っています。雪菜さんを、私が貴方の目の前から消えた瞬間から5時間以内に探し出して、彼女の命を救って下さい。言われなくても、恐らく貴方はそうするつもりでしょうけどね。次に、あそこに座っている少年…あの子の願いを叶えてあげて下さい。これが前提条件です。」


 彼女が指し示した所に目をやると、確かに少年が座っていた。

…だが、よく見ると様子がおかしい。…両腕両脚がない。あの状態で果たして生きているのか?そして…


 「前提条件とはなんだ。最終目的を果たす為にはそれが必要不可欠ってことか?」

 

 「愚問ですね。その通りに決まっているじゃないですか。先に最終目的をお伝えしますね。…もうわかるでしょうけど、貴方達の目的はこの世界からの脱出です。天才なら…出来ますよね?」


 なんだその言い方は。確かに私は、いわゆる天才だ。だが、それだけの為に私達を誘拐したのか?私だけならともかく、何故他の人まで誘拐する必要がある?やろうと思えば私一人だけでも何とかはなる。つまりは、少なくとも2人は必要、という場面が今後出てくる可能性が高いと考えても良いだろう。


 「これは…貴様の行動は、何か得があるのか?もしくは、私を試しているのか?」


 「丁度良い人材が見つかった…それが貴方だっただけです。そして、こんな所から全員を護りきって脱出出来ないようであれば、貴方は天才でない、ということです。何の取り柄もない、ただの凡人ですよ。」


 かの、中国史における偉大な軍師も出来るだけ人の命を大切にしていた。真っ先に戦いを挑むのは愚策。無駄に死者が増えるだけだと。確かに、命を粗末に扱えるならば、いくらでも無茶な作戦が可能となる。何かを護りながら行動するというのは、大変なことなのだ。自分一人助かろうとすれば身代わりなり何なり使えば、それで済む話だから。


 「ほう…言ってくれるな。勿論、成し遂げてみせるよ。」


 「はい、期待していますよ。…一応言っておきますが、達成できなかった場合は全員の死ですよ。出来ないと判断するなら、今なら貴方だけを助けて帰すことも出来ますよ?」


 「あまり調子に乗るなよ。貴様等ごときの浅知恵で私をを殺せると思うな。」


 「私達にとっても貴方をこんな所で失うわけにはいきませんから。あ、そうそう。ここを脱出するために貴方が必要だと判断したものは、声に出して言えば4つまで提供できますよ。」


 どこまで提供されるのだろうか。無茶な要求、例えば『命が欲しい』とか『お前の胸を私にくれ』などを言ったとしても、提供されることは決してないだろう。ここまで計画的な誘拐をしている(であろう)人なのだから、恐らくこの提供も脱出には必要不可欠になってくるだろう。ならば…


 「つまりは、この空間内に存在している物のみ提供が可能、ということだな。」


 「確かにその通りです。」


 「どのように提供するのだ?」


 「仕方がないですね。では特別に答えて差し上げましょう。貴方の1m前に、上空から落とします。では私はこれで。」


 「おい、ちょっと待て!まだ聞きたいことが…」


 叫んだ時には遅かった。彼女の姿は突然消え、跡形もなくなってしまった。それにしても、変な喋り方だったな。口を開く前に何かを考えているようだったが…


 「ん…俺は何をしていたんだ?」


 私の叫び声で柊人が目を覚ましたようだ。…そういえば、起こすのを忘れていたな。彼らにも出来るだけ会話を聞いておいて欲しかったのだが、仕方あるまい。起こし忘れていた私の責任だ。


 「すまない、話は後だ。まずは昇を起こしてくれないか?」


 柊人は不思議そうな顔をしながら、昇を起こす。昇は何かを呟いた後、驚いた顔をして部屋を見渡した後、私を見た。私は口を開く。


 「突然だが、私達は誘拐された。」


 …そして、私は昇・柊人に先程の女から聞いた話をそのまま話した。彼らが例の両腕両脚がない人(?)を見たとき、一瞬で青ざめていた。…それはそうだろう、どう考えても生きているはずがないにも関わらず、ソレからは生きている気配がするからだ。…具体的には、呼吸の音。しかし、なんだろうな。生きている感じはしているのだが、気配というものが殆ど感じとれない。


 「…それで、僕達に何をしろと?」


 「わからないか?協力して欲しい。」


 「いや、僕達に何ができるの?正直、ついていった所で足手纏いになるだけだよ。」


 それなのだ。先程も同じような事を考えていた気がするが、犯人が4人一緒に誘拐した理由を考えると、今は1人でも人手が欲しい。しかし、単純に私の負担を増やす為だけだったとするならば?どう考えても一人で行動した方が動きやすくなる。その2つのリスクを考えると…


 「…昇がそう言うのなら私はそれで構わないが、私は昇が足手纏いだなんてこれっぽっちも思っていないし、寧ろ昇が必要になると考えているが?」


 「俺からも頼む。沙紀の話を聞く限りでは、この空間ではどんな危険があるかわからない。そういう状況では、一人でいることが一番危険なんだよ。」


 「…まあ、わかった。出来る限り役に立てるように頑張るよ。僕も沙紀についていかない理由がないからね。」


 昇は仕方なく、といったような表情をしつつも、ついてくる事を認めてくれた。さて、話がまとまった所で…

 ……

 うむ、正直に言うと、出口はもうわかった。そして雪菜の居場所も。だが、奴がそう簡単に私達を逃がすはずがない。最初にするべきことは…


 「とりあえず、あの少年の話を聞いてみようよ。それからどう行動するか決めない?」


 昇が私の代わりに言ってくれた。その通り、あの少年の願いを叶えなければ私達は脱出できない。それに、不明な点もある。私が無言で少年に近づくと、昇、柊人もついてきた。情報は共有した方がよい。


 「そこの少年よ」


 「もう少しマシな呼び方はなかったのか…?」


 柊人の小声の突っ込みが聞こえたが気にしない。


 「何を願っている?」


 私の呼びかけに少年はゆっくりと目を開いた。その目は確かに人間のものだ。そして、その目から読み取れる感情は『助けて』ただ一つ。彼の身に何があったのかはわからないが、両腕両脚がないのだから、恐らく切断されたのだろう。想像を絶する程の苦しみであったことは間違いない。


 「…ちゃんとした人間になりたい。」


 「どういうことだ?詳しく説明してくれ。」


 「貴方みたいな、ちゃんとした人間になりたい。今の僕は…人とは呼べない。」


 人とは呼べない?確かにそんな状況で生きているのは不思議だし、何故私達がコレをすんなり受け入れたのか不思議でたまらないが…

 私には言葉の意味がわからず、ただ困惑していると、昇が口を挟んできた。


 「多分、腕と脚が欲しいってことだよ。」


 その言葉を聞いた少年は笑顔を浮かべ、頷いた。


 「なるほどな…そういうことか。つまり、両腕と両脚を作ればいいのだな?」


 「どこのマッドサイエンティストだお前は…全く、単純に考えようぜ。探せばいいってことだろ?」

 

 再び少年が頷く。…柊人にもわかったことが、私はわからなかった…だと?

 いや、よく考えると探すというのも変な話だよな!?街中を歩いていると『あ、誰かの右脚だー』なんて状況、それ相当世紀末だぞ!?まあ…目の前の少年が少年だから、恐らく探す、というのは本当の話なのだろう。


 「も、勿論わかっていたぞ!では、今から探しにいこうではないk…ぁう!?」


 先程の失態を挽回しようと意気揚々と振り返って最初の一歩を踏み込もうとした瞬間。

 ズッコケタ。ハズカシイ。アタマウッタ。ミンナノシセンガイタイ。


 「…たまに思うけどさ、沙紀って馬鹿だよな。」


 「うん、僕達がいないと確かに沙紀が困るよね…」


 「み、見るな!可哀想な子を見るような視線で私を見るなぁー!」


 こうして。私達は小屋を出た。私の心に大きな傷を負わせたこの小屋なんて消えてなくなればい。

 小さいくせに私に大きなダメージを負わせた小屋の前には、そんなのとは比べ物にならない程大きな洋館が建っていた。少し驚いて洋館をしっかり見渡したその瞬間。


 「…!?」


 眩暈がした。


 「お、おい沙紀!大丈夫か!?」


 柊人が咄嗟に私を抱きかかえる。


 「まさか、さっき頭打ったせいじゃないだろうな!?」


 「…大丈夫だ。何でもないよ。」


 とんでもない既視感。"私は"こんな景色は知らないはずだ。だが、なんだろう。この、長い期間この景色を見てきたような感じは。一瞬だったが、私の中で何かが動いた気がした。

…私は誰だ?


 「…紀!沙紀!」


 「ん…私は誰だ?」


 「全く会話が噛み合ってないよ。貴方は朱山沙紀。ここに誘拐されたんだよ?」


 「誘拐…?そ、そうだったな。すまなかった。」


 「本当に大丈夫?さっきから様子がおかしいよ。」


 「いや、すまない。もう大丈夫だ。さて…では、あの目の前の広そうな洋館に入るか。それに、私がしっかりしていないと雪菜の命が危ない。具体的にどのような危険なのかは知らないが、とにかく急ぐぞ。」


 昇と柊人は訝しげに私を見る。私もまだ自分の身に何が起こったのか理解できていないが、そんなことで立ち止まっている暇はない。一刻もはやく目的を達成しなければ…



......

...



<雪菜>視点



 「目、覚めましたか?」


 私が目を覚ますと…真っ暗な部屋にいました。え、どういうこと?


 「貴方を誘拐しました。沙紀さん、柊人さん、昇さんと一緒にね。」


 なるほど、私達を誘拐…て、ええ!?本当にどういうこと!?それに、他の皆の姿も見えないし…


 「沙紀ちゃんは?柊人君は?昇君は?そして、一体何のつもりですか!?こんなことしたって、私は何も持ってないですし、何の得にもなりませんよ!?」


 「まあまあ、まずは落ち着いて下さい。」


 そして、私に喋りかけてきた女は、


・私だけ別の所にいること


・沙紀ちゃん達がきっと助けてくれるであろうこと


・もし沙紀ちゃん達が私を助けられなかったら、私も含めて全員が死ぬこと


・制限時間は5時間


 ということを説明しました。正直、よくわからない。でも、これだけはわかる。


 「私の命は、沙紀ちゃん次第ってことですか?」


 「貴方だけでなく、全員の命を沙紀が背負ってるわね。」


 「どうして…どうして、そんなことを?」


 私の問いかけに、女性が私に聞こえないような声で呟きました。


 「…だって…なこと…くない…」


 …それがどんな内容だったのか、私にはわかりませんでした。ただ、どこか悲しそうな顔をしているようにも見えました。そして彼女は私の方を向きました。


 「私の事情よ。では…貴方は、5時間後に生きているかしらね?」


 女性は突然消えてしまいました。びっくりしましたが、そんなことはどうでもよく感じました。

 そして、私は強く、強く、こう願います。



  お願い、沙紀ちゃん!柊人君!昇君!私を助けて!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ