第14話 ~被害者~
殺人は何があっても、絶対にダメです。
<沙紀>視点
私だって、知りたくはなかったさ。世の中には知らない方が良い事がたくさんあるとは言うが。…知った所で、私は何も出来ないので、別に良い。基本的な行動は何も変わらないさ。これは予定調和なのだから。3年前まで行き、身体は何の損傷も受けない事は確定しているのだから。何を知ったのかって?それは、知らない方がいいさ。私も思い出して、わざわざ考えたくはない。
…因みに、今は皆の心を読んだりはしていない。理由は色々とあるが、一番の理由は、呪文を自由に使えるようにする為だな。呪文は同時に2つ以上使用することが出来ない。もうすぐ山の麓に到着するので、念の為に奇襲、急襲を警戒しているのだ。…恐らくされないだろうが。何の為に中神にレンタカーまで借りてきて貰っていると思っているのだ。絶対に中神が乗っている事を知られたくはないからだ。それでも、相手も呪文を使う事が出来る。いつバレてもおかしくはない。念には念を。
「おい、柊人。」
「なんだ?」
「恋人の演技は出来るか?」
柊人だけでなく、中神以外の全員が吹き出した。中神も頭をガツン!と、どこかに打ったような音を発生させた。…いや、別に下心はないぞ?
「…出来ないと言ったら?」
「出来なくてもやらせる。」
「…素直にやれって言えよ。」
皆が心の中で『なんでやねん!』と突っ込んでいるのが呪文を使わなくても手に取るようにわかるので、軽い説明をしよう。
まず、山の麓から山の頂上辺りの祠まで、道が1本しかないのは言ったな。つまり、車で行くなら自動的にその道を通るしかなく、麓を押さえれば、実質的に祠へ向かう全ての車を知る事が出来る。恐らく、検問までした上で祠の方へは車を全く通していないだろう。車が検問を通過してから、中神は山の斜面を登って合流し、そのまま車に乗り込む…ということも考えられるからだ。私なら間違いなくそうする。
さて、話が逸れたな。柊人と私が恋人の演技をする理由だったな。私の願望に決まっているだろう!…という事を正直に話す訳にもいかない為、口実は作る。…中神の口を封じ込めておいて良かった。
「検問を通過する為だ。恋人の演技をすると、相手の警戒心が少し薄らぐ。そこを押し、押し、押しまくると相手が折れ、通して貰える可能性が出てくる。カップルを相手するのはウザいからな。柊人である理由は、ただ単純にバカだからだ。昇と違って変な事を考える事もないだろう。自然な演技を期待出来る。決して柊人を気にかけているからだ、などの理由ではないぞ。正当な理由がある。」
「褒められたのか貶されたのか良くわからんが、まあやってやるさ。その方がありがたいんだろ?」
「助かる。」
と、いう事で柊人の快い返事も受け取ったので、あとは麓に到着するだけだ。
実際はどうやって突破するのかって?…力押し、しかないだろうな。出発前に4人は殺す覚悟はしておけと言っておいた筈だ。あれは、別に脅すつもりで言ったのではない。"そうせざるを得ない" からだ。まあ、流石に普通の高校生が大の大人を何人も、苦もなく殺せる訳がないので、3人程度は私が殺る。物騒だと思うかもしれないが…私が生き残るには、そうするしかないのだ。生き残る為ならなんでもするさ。
......
...
そんなこんなで、麓に着いたのだが…予想通り、検問を張っていた。少し予想外なのは、パトカーが使われている事だな。
「ねえ、沙紀ちゃん。警察相手にするのはマズくないですか…?」
「問題ない。柊人、覚悟は出来ているか?」
「あ、ああ。」
昇と雪菜は息を潜めて貰っている。出来るだけ見つかりたくはないからな。
警察だが、恐らくあのパトカーと警察官は偽者だろう。一般人を寄せ付けない為には、そのくらいはしても不思議はない。
車をパトカーのすぐ近くまで運転し、そこに止めた。柊人とアイコンタクトを取り、外に出て、近くの警察官(?)に声をかける。
「すみませーん、何かあったんですかぁ?」
完全に作った声と作った口調。こんな感じの口調が一番ウザいだろう。恐らく。声は出来るだけ甘ったるい声になるよう、頑張っている。柊人は横で目を丸くしている。私のこの口調と声に驚いているのだろうな。
「ああ、今は色々あってね。」
「私達、この先の祠に行きたいんですけどぉ、ほら、あの恋愛成就で有名な。今って、この道通れますぅ?」
勿論嘘だ。あの祠が何を奉っているのか全く知らない。地元の人でさえ知らないのだから、恐らくこの警察官(?)も知らないだろう。
「今は無理だ。また今度にしてくれるかな。」
「え~、今日、やっと開いている日が合って、彼氏と来たのにぃ。お願いします、ちょっとだけでも行かせて下さいよぉ。」
隣で柊人が、一人取り残されたような表情をして突っ立っている。まあ、この場合、余計な事を言われるよりはマシだから良しとしよう。
そんなこんなで長い間同じ様な会話を続けていると。警察官(?)は無線機を使って何やら連絡した後、こんな言葉を言った。
「…わかったよ。でも、徒歩で行って、僕達も2人ついて行くという条件があるけど、それでもいいかい?」
…ほうほう。成る程。中々賢いな。だが、狙いは見え見えだ。その狙いを回避…は無理だな。仕方がない。ヤるか。
「わかりましたぁ!ありがとうございます!ほら、行くよっ!」
「え!?お、おう。」
強引に柊人を連れて行く。…前に、実は一つだけ細工を仕掛けたが、まあ気付かれないだろうな。
言い忘れていたが、パトカーは2台止まっており、確認出来た分では、4人いた。そのうち2人がついてくるので、ココに残るのは2人だろうな。
私が強引に柊人を引っ張っていくと、警察官(?)も慌ててついてきた。さて、ここでテレパシーを使おう。昇に『絶対に動くな。何があっても動くな。』と伝える。…なに、心を読む呪文を応用させただけだ。難しい話ではない。しかし、少し疲れてきたな…。これが呪文を使う為のエネルギーがなくなってきた、ということか。気をつけなければ倒れてしまうな…。
…さあ。ここからは神経を尖らせないとな。少しの殺気でも逃したら死んでしまう。
......
...
3分後。私と柊人は他愛ない話をしながら歩いていた。勿論、私はあの口調のままだ。柊人もだんだん慣れてきたのか。今は普通に会話している。
その瞬間。
―来るっ!―
そう感じたのと、あの不思議な声が聞こえたのはほぼ同時だった。その殺気は、後ろから。柊人も一瞬遅れて感じ取ったようだ。顔が強張るのが見えた。…先手必勝。
「ねえっ!」
急に後ろを振り向く。ビクッとしたのは警察官(?)2人。そして、一瞬慌てた後、返事をすてきた。
「何だい?」
…さあ、ヤるか。
「警察手帳、見せて!一回見たかったんだぁ!」
これは確認でもある。本物の警察官ならば少し厄介なのだが、偽者なら別にどうということはない…どちらかを見極めるための質問だ。
「…ちょっと、パトカーに忘れてきたみたいだ。今は持ってないよ。」
黒、確定で良いだろう。本物の警察官なら、警察手帳は普通は持っているはずだ。そうでなかったとしても、嘘をついているのがバレバレだ。呪文を使わなくとも、手に取るようにわかる。
「へえぇ~。じゃあ、貴方はいらない♪」
頭の中で用意しておいた呪文を唱える。…その瞬間、会話していた警察官(偽)が、弾け飛んだ。
「「…は?」」
文字通り、弾け飛んだ。血飛沫を撒き散らしながら。具体的に何をしたかというと、まあ見ての通りだ。身体の内側から爆発させた。因みに、これも私が編み出した呪文だ。…血飛沫が私の頬にも付着する。
「詰めが甘い。撃とうと思えば何時でも撃てたはずだ。横着しようとするから、こうなる。」
残りの警察官(笑)に歩み寄り、持っていた無線機と懐中電灯を奪い取る。
「こ、こんなことをして何になる!それに、一定時間以上連絡がなければ、待機している2人も駆けつけるぞ!」
「それはもしかして、今から爆発する車に乗っている奴らのことか?」
「…は?」
警察官()が素っ頓狂な声で返事した1秒後、下で大きな爆発音が聞こえてきた。…ふっ、計画通り。時限爆弾式の魔術だ。待機していると言った2人は、確実に死んだだろう。昇と雪菜と中神は大丈夫なのかって?私が何の対策もしていないと思うか?ホテルを出発する時に、既にあの車は不可視の結界で護られている。予め設定しておいたモノ、人以外は全て弾く高度なものだ。空気の問題は苦労したが、非常に難しい理論だ。あまり考えたくはない。
さて、大詰めだ。
「た…助けてくれ」
「そうだな。私が今から言う言葉を、『はい!』と言ったら復唱しろ。いいな?」
私が予め用意しておいたモノを準備する。…録音機だ。何をするかは、わかるな?
「『問題ない。消火はこちらがする。』はい!」
「問題ない。消火はこちらがする。」
「『始末した。引き続き監視する。』はい!」
「始末した。引き続き監視する。」
「『了解。』はい!」
「了解。」
「ご苦労様♪」
警察官(涙)を拳銃2発で撃ち殺した。…残忍だろう?だが、これしかないのだ。
そして、昇にテレパシー。『絶対に動くな。私が合図をしたらお前と雪菜、中神でなんとか消火してくれ』と言っておいた。さあ、これで最初の関門は全て済んだな。
ふと隣を見ると、柊人が呆然として立っていた。
「…どうした?」
「い、いや…。4人は殺す覚悟をしておけとは聞いたが、本当に4人も殺すとは思わなかった。しかも沙紀が。あと、頬に血をつけたまま笑顔にならないでくれ。どこの快楽殺人犯だ、お前は。」
「今は本当の殺人犯だぞ?何を言っているんだ。」
「そ、そうだったな…。俺は今、とんでもない奴と一緒にいるのかもしれないな。」
褒め言葉と受け取っておこう。まあ、何をどう探しても私が犯人だという証拠は出てこないがな。拳銃で撃ち殺したが、私は指紋を残していないのであの男の自殺として処理されるだろう。それ以外は、死因不明の謎の死者、原因不明の爆発事故の被害者、として処理されるだろう。…簡単な完全犯罪だな。最も、呪文に頼っているので、本当に完全犯罪なのか?と問われるとハテナが浮かぶが。
しばらく柊人の精神を落ち着かせてやっていると、奪い取った無線機に連絡が入る。対処はしていたので、落ち着いて処理をしよう。
『やけに派手な事になったようだが…大丈夫か?』
ブルータスの声だ。少しノイズが大きく、判別が難しかったが、間違いないだろう。用意しておいた録音を使う。
「『問題ない。消火はこちらがする。』」
『そうか。2人組はどうした?』
私達の事だな。幸い、中神がいることはバレていないようだ。
「『始末した。引き続き監視する。』」
『そうか。頼むぞ。』
「『了解。』」
変な事を聞かれる前に通信を切る。…完璧だった。幾つか心配事はあったが、無事になんとかなった。さて、昇に合図を送るか。
合図を送り終わった瞬間、特に動いたいた訳でもないのに、膝が笑っていて、立つことがやっとだった。
「…大丈夫か?」
柊人が心配してくれる。逆に、それほどまでに私の顔は疲れきっていたのだろう。
「平気だ、少し呪文を使いすぎただけだ。時間の経過で元に戻る。」
結構危ないが。数値化すると、残り体力1、のような感じだろう。遠目から見ると火も消し止められたように思える。合流して、祠に向かわなければな。
......
...
あの後何事もなく合流し、夜の山道を5人で歩いていた。私は疲れて歩くのも辛かったので、柊人におぶって貰っている。…疲れているからであって、決して変な気持ちからではないぞ?偶然、私の体力は呪文の使いすぎによって、本当に倒れる寸前まで減ってしまっただけだ。誰が何と言おうと偶然だ。
これは本当に何事もなく順調に山道を歩き、祠にもう少しで着く時の会話だ。
「…しっかし、どっちが悪役かわからんよなぁ…。俺達と、ブルータスと。」
行動を見ると私達の方が悪だな。確実に。向こうは何もしていないのに、私達は向こう側を6人殺害している。電信柱の乱で2人殺しているからな。事故で。…本題に戻るが、確かに、どちらが悪役、とは決め難い。
「…この場にいる全員が、被害者だ。とてつもない大きさの闇に、私も、柊人も、昇も、雪菜も、さらにブルータスと…中神も巻き込まれているだけだ…。どこかの誰かの掌の上さ。」
「それは、どういう…」
柊人がさらに私に問いかけようとしたが、中神が手で制止する。
「…いますね。ブルータス。」
中神の声。私もそれっぽい気配は感じていたが、具体的な人物まではわからなかった、中神は呪文か何かを使っているのだろう。使って初めてわかるのだが、中神はよく体力が持つな。私もあの程度使えればな…
「予想済みだ。乗り込むぞ。出来れば話し合いたいが、最悪殺しても良い。とにかく、自分の命は最優先で護れ。私は、今呪文を使えない。超能力も使えない。ただの一般人だ。戦闘力は間違いなくお前達の方がある。私に頼らないでくれよ。それと、もし何かあった時は全力で逃げろ。いいな?」
全員、小声で返事。柊人の背中から降りて、私がまずブルータスに近づく。皆には待機して貰う。その方が安全で、確実だ。
「お前が、ブルータスだな?」
「お前は…!…いつかは来るとは思っていたがな。どうやって包囲網を突破したのか気になるが、まあいい。…そうだな、お前にも3年前の恨みがあったな。死んでくれ!」
会話が噛み合っていない気がする。…って、そんなことはどうでもいい。問題は、ブルータスが問答無用で私を殺しに来たことだ。気配でわかる。…さらに問題なのが、彼が呪文で攻撃してこなかったこと。こちらは対策していたが、彼は拳銃で攻撃ようとしていた。
「…!!」
声を出しようがない。出すタイミングもない。思考とは逆に、身体が全く動かない。それもそのはず、彼の叫び声から、まだ1秒の半分も経っていない。
一発の銃声が鳴り響く。
皆の凍りつく表情が遠目からでも見て取れる。至近距離から放たれた弾丸は、私の心臓を的確に狙っている。
…何故弾丸が見えるのだろう?死ぬ前には全てがスローで見えるとは聞いたことがあるが。しかし、身体は動かない。
弾丸が、私の、心臓を、
―しゃあないな、ほんまに。まだウチがいるんやで―
そんな声が、聞こえた気がした。
沙紀さんは何があっても多分生き残る。
次→10%




