第8話 ~中神都~
<沙紀>視点
あの誘拐の翌日。私に、1本の電話がかかってきた。
「…何の用だ。」
『うふふ、そんなに警戒しないで下さいよ。』
「お前が出てくるということは、どうせまた何か起こるのだろう?」
この女は…そういえば、名前を知らなかった。まあいい、この女が私達4人…私、昇、柊人、雪菜を誘拐した犯人だ。結果的に無事だったものの、私は死にかけた。
『そういえば、名前を言っていませんでしたね。そちらも苦労するでしょうし、名乗っておきます。』
「お前、何か呪文でも使っているのか?相手の考えていることが電話越しでもわかる…なんて類の。」
…そんなことはないだろうが、完全に心を読まれている気分は気持ちが悪いものだな。何時もは心を読む側なだけに、読まれると変な気分になる。
『流石にそんなことしないですよ?でも、その案は貰いますね。貴方を相手するのは疲れるんです。』
「ああ、そうだろうな。私も貴様の気持ちが先程わかった所だ。」
『あ、名前を言い忘れてましたね。私は、”中神 都”という名前です。呼び方は何でもいいですよ。』
「ならば、中神とでも呼ぶことにする。…ところで、本題は何だ?」
名前を伝える為だけに電話なんてしてくるわけがない。恐らく何か別の用事でもあるのだろう。ところで…私は別に気にしていないから何とも思わなかったが、中神が私の電話番号を知っている理由だな。誘拐された時に、持ち物は全て奪われていた。その時に見たのだろう。個人情報が筒抜けだ。
あ、私はガラケーだ。未だに一部の人から人気があり、スマートフォンの普及率が伸び悩む中、ガラケーは不思議な程安定した売り上げを残している。因みに柊人・昇・雪菜はスマートフォンだ。使いやすそうではあるが、特筆する程の利便性は感じない。値段も格段にガラケーの方が安いので、私のような一人暮らしにはありがたい。もっとも、最近は雪菜と一緒に生活しているようなものだが。
『ああ、そうでした。用事がありましたね。では、手短に話します。私を助けて下さい。』
思考が約3秒止まった。いや、普通に考えて一度誘拐して命を奪いかけた人を相手に、『助けて☆』なんて言えないだろう。寧ろ命を狙われるだろう。中神は何故私を…。
「ふむ。大体わからなかった。詳しく説明して貰おうか。」
『面倒臭いわね。まあいいでしょう。私は、まあ少し色々あって、とあるビルの地下に閉じ込められているんですよ。だから、そんな可哀想な私を救い出してくれませんか?』
「お前程の卓越した技術を持っている奴が何を言っているんだ?普通の人間相手ならなんとでもなるだろう。」
あんな意空間を創り出したのも、恐らく中神だ。そんな彼女が何故脱出できないのか。…いや、まて。その答えは自分で言ったな。…これは厄介だな。
『普通の人間が相手なら、ね?まあ何とかならない事もないのですが、少し面倒臭いです。それに、貴方に任せた方が、この場合は良いと判断したからですよ。』
「報酬は何だ?まさか、タダ働きをしろ、とは言っていないだろうな。」
『報酬は…そうですねえ、では、3年前の修学旅行を思い出してくれませんか?』
3年前。私達が中2の頃だな。
ここで、少し私の学校の話をしよう。私達が通っているのは、私立納詫中学・高等学校。中高一貫校だ。そして、私の学校の特殊な点は、修学旅行が2回あること。中2と高2だ。私は現在高2。もう少しすると、修学旅行の季節だ。
中2の修学旅行。………。
「どういう、ことだ?」
『そうですよね。驚きましたよね?この秘密、何だか知りたくないですか?』
「…知らず知らずの内に記憶を消されているなんて、思ってもみなかったぞ。しかし、これは全員なのか?」
そう。中2の修学旅行について、私は何も思い出せなかった。私に限って忘れた、なんて事はない。恐らく、呪文か何かで消されてしまったのだろう。…よく思い出してみると、そういえば皆、修学旅行の話は一言もしていなかった。私が今このことを思い出せているのは、恐らく指摘されると気付くのだろう。曖昧な物だが、流石に全員の記憶を完全に消すのは時間がなかったのだろうか。
『ええ、全員の記憶が消えています。そして、貴方達4人…沙紀さん、昇さん、雪菜さん、柊人さんにおいては、中2そのものの記憶がないはずですよ。』
そんなこと…本当だった。確かに中2の記憶がない。こんなの、言われるまで気付かないぞ。
「…何をした。そして、修学旅行で何があった?」
『言ったじゃないですか。それは報酬として情報を渡します。記憶に関しては、適当な曖昧な記憶を植えつけている為、普段は全くおかしい事に気付かないようになっています。それと…一応、保険の為に何種類かの呪文も使っております。この事実が広く知れ渡ることはないですので、安心して下さい。』
「くっ…悪賢いな、貴様は。そんなの、呑むしかないではないか。」
『貴方程賢くはないですよ。では、私を助けて下さいね。ビルの場所は……。あ、車を使った方が良いかもしれませんよ?』
中神がビルの場所を手短に説明すると、私が何か言う前に電話を切った。電話にはノイズか何かで少し聞きとりにくかったが、全てを聞き取る「ことができた。…本当に、奴は何者だ。突然私達を誘拐して。突然電話をかけてきて。私が何かしたというのか。あと…車とか、どうしろと?確かに私は少しだけなら車も運転できる。だが、車はどこにある?免許は?
「沙紀ちゃん、今のは誰なんです?」
暇だったのか、雪菜が私の元へ駆け寄ってくる。…そうだな。中神は『貴方達4人』と言っていたな。ならば、雪菜も含めて、何かしらの関係があるのだろう。それに、昨日も中神に巻き込まれた所だ。話してしまっても問題はないが…私の正直な感想としては、3人をコレ以上巻き込みたくはない。恐らく、中神の目的は私、ただ1人だろう。他の3人はどうでも良いはずだ。だが…一度踏み込むと、もう2度と抜け出せない気がする。3人とも手遅れだろう。こうなれば、常に私の近くにいて貰う方が良いだろう。…それに、3人とも戦闘能力は私よりも高くなっているからな。私としても3人についてきて貰う方が危険が少ない。私に足りないものは、3人がカバーする。3人で出来ないものは、私がカバー出来る。
…結果的に、私達4人で行動する事が一番安定している。
「後で説明する。先に昇と柊人を呼んでくれないか?」
その言葉を聞いた雪菜は、何時もの笑顔で近くでバカ話をしていえる昇と柊人を呼んでいる。…この間に、少しだけ状況を整理しよう。まず、中神が捕らわれている。普通の人間ではない人に。恐らく、呪文か…もしくは、そこの3人も使える超能力だな。中神の不思議な呪文を考えると前者だろう。そして、3年前。コレに関しては検討もつかない。情報が文字通り何もないのだから。ただ、3年前…特に修学旅行の時に何かが起こった、と考えて良いだろう。そして、私達4人は特に関係がある。それが何かはわからないが、現在も厄介事に巻き込まれている事と何かしらの関係はあるのだろう。
…少ない情報だ。
「おう、沙紀。何かあったのか?」
「ああ、少し厄介でな。まあ聞いて…」
〔♪~♪~♪~〕
そういって話をしようとした所、私に再び1本の電話がかかってきた。番号は…中神ではない。
「…すまない、少し待っていてくれ。」
誰だ。どうせ厄介事の一環なのだろうが。出ない理由はないので、素直に電話に出る。
「はい。どちら様ですか?」
『…悪いことは言わない。中神から手を引け。』
若い男の声。また面倒くさいことになってきた。中神の電話を聞いていたのだろうか?だとすると、今回の件の敵となり得る人物だ。
「…質問には答えるべきだな。私は好きなようにするさ。」
『どうせ言っても聞かないんだろう?なら、言っても無駄だな。俺の名前は…なんだっていいだろう。』
私が、中神を助けに行くのを断定しているようだ。まあ、一応行くつもりだったからな。その判断は正しい。名前なんて、言っても何も得をしない事が多いからな。出来るだけ伏せておく物だ。
「…名前を言わないことは、予測済みだ。では、後ほど中神の所へ行くからな。貴様、私の前に立ち塞がる予定なのだろう?ならば…私を殺してみろ。その浅知恵でな。」
『…お前を殺すつもりはないが、一つだけ忠告しておこう。』
男がそう言った瞬間、目の前の机が突然燃え始めた。周りにいた生徒が悲鳴をあげて逃げ始めた。…呪文か、はたまた超能力か。どちらかは検討がつかない。とにかく、勢いよく燃え上がった火はさらに勢いを増し、教室全体を燃やそうとする。
「いや、なんでこんな能力が役に立つんだろうね。」
「全くです。寿命は縮みますけど。」
「お前ら、能力の汎用性が高いな…俺も頑張ってるけど。」
昇が起こした突風で火が消える。さらに雪菜が教室内の温度を下げ、一瞬で火事は消し止められた。その間、柊人が一瞬で教室内の生徒を避難させていた。これが、彼らの超能力。私1人では何も出来ないことを、彼らはやってのける。だが、代償として寿命が縮むので、あまり多用してはならない。本当に『ココだ!』という時にしか使ってはならない。
『…どうやら助かったみたいだな。』
「呪文の一環か?そんなにダイレクトに来るとは思っていなかった。100点だ。ただし、1000点満点だがな。」
呪文を使う事は予想していたが、いきなり攻撃してくる事は読めなかった。なぜなら、この場合は攻撃しない方が有効だからだ。私は未だに呪文の適応範囲、効果範囲、発動時間などを知らないが、それでも手の内の一つを見せたのは明らかに失敗だ。一つ知っているか、知らないか。それだけで戦況は大きく変わる。
情報を制する者が勝つ。それだけは、どんな時代でも、どんな状況でも変わらない。
『そちらにも対処出来る奴らがいるみたいだな。お前一人なら楽だったのだが。』
「私に連れがいる事も知らなかったのか?悪いが、それは敗北宣言と取らせて貰うよ。貴様はあまりにも情報に弱すぎる。」
『…好きに言え。そうだ、俺の名前だったな。ブルータスとでも呼んでおけ。』
裏切って皇帝を暗殺しそうな名前だ。面倒臭いから略して、ブスとでも呼んでおこう。
ブスは、中神と同じように突然電話を切った。さあ…どうなっているのだ。
「で、沙紀。何か話すことあったんだろ?何だ?」
柊人が聞いてきた。…そういえばそうだったな。皆を集めて話をしようとしていたのだった。
一先ず、中神に聞いたこと。ブスのこと。それを伝える。その間に、私の考えを整理しよう。
まず、今回は中神が敵になることはないだろう。全体的に見ると敵であることは間違いないのだが、局地的に見ると、敵と協力することもある。そして、ブス…もとい、ブルータスの存在だ。私の予想では、コイツは第3勢力だ。…私達4人が勢力、と言えるのかは知らないが。位置的には、中神を監禁している事から、中神の敵であることは間違いない。
そして、私達の立ち回りだ。戦力的には私達が最弱であることは間違いない。2つの勢力を同時に敵に回せば、一瞬で崩壊するだろう。ならば、どちらかの勢力に味方して、どちらかの勢力を潰す方向で良いだろう。まだ1つの勢力を相手するならば、4人で何とかなる。
そうなると、次はどちらの勢力に味方するか。…間違いなく、中神サイドだ。ブルータスサイドは目的が判明していない。中神サイドもよくわからないが、報酬で情報を提供して貰えるならば、多少のリスクは目を瞑らなければならない。勿論、ブルータスサイドが実は私達の味方…という線もある。その場合は不幸だっと考えるしかない。柊人程のバカでもない限り、味方ならば情報量があれだけ、というのは考えられないからだ。
私の考えはまとまった。一先ず中神に味方する。…あわよくば、呪文について教えて貰う。勿論、途中で方向性を変えることも考えている。柔軟に対応しなくては…
「…というのが、今の状況だ。お前達、私に付き合ってくれないか?」
「俺は、どこまでも沙紀について行くよ。…お前を一人にしたら、もう帰ってこない気がするからな。」
「私も…沙紀ちゃんは私達の命の恩人ですし、力になれるかはわからないですけど、今度からは私達が沙紀ちゃんを護る番です。」
「護られっぱなしというのは嫌だからね。でも、沙紀も無理はしないでね。」
3人共、真面目な表情で話を聞いてくれて、快く了承してくれた。命の危険があるというのに…私は良い友達を持っているものだ。私も、冷静な思考を常に保たせるよう、努力しよう。…恥ずかしい姿も見られたくはない。
「そうだな…すまない、感謝する。では、放課後に早速出発するぞ!」
「「「了解 (です)!」」」
皆の気合も十分だ。さて…私は、この燃えた奴の後始末をしなければな。それと、超能力の説明。
…すまない、どうするんだコレ…
......
...
時は流れて放課後。燃えたのは職員室で、土下座で謝ったら『朱山のせいじゃないさ。それより怪我はなかったか?』と言って貰えた。超能力のことは、クラスメイトには『私が本気出した』と言ったら『沙紀ならやりかねない』『沙紀なら不思議もない』とのコメントを戴いた。…少し、私がクラスメイトにどのように認識されているのかを良く知った上で、皆との関係を再確認した方が良いかもしれない。
「…車、か。中神に聞いてみるか?…通じなければ徒歩で行くか。」
少し迷ったが、中神に電話をする。…案の定、繋がらない。しかし、困ったな。わざわざ車を使った方が良い、と言うことは、車がないと困るということだろう。まあ、ない物は仕方がない。徒歩で行くとしよう。
「さて…3人ともいるな?では、出発だ。命を落とさないよう、気をつけるのだぞ?」
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