自覚
「…はっ?なんだその冗談。面白くねえぞ」
苦笑いを浮かべながら最初に言葉を発したのは神童だった。その表情は「現実から目を背けている苦笑い」ではなく「この人はなぜこのような意味のわからない事を言うのだろう?」といった表情だった。
「…俺の両親はちゃんと授業料を払っていると思いますけど」
金田も不機嫌そうに答えた。
吉信先生は呆れたように頭を手で押さえながら話し始める。
「お前らの立たされている状況を教えてやろう。これは“生徒の自尊心を損ねる可能性があるから伝えない”と職員間では決められているが、お前らにはその“自尊心”というものが無いからな」
2人は「…?」といった様子で、何を言われているのかわからない様子だった。
「まず1つ目。お前らのいるここ“アンダードッグス”は、別に優秀な生徒の為の教室では無い。むしろ逆、この学園で最も低いレベルの教室だ」
「2つ目。お前らがここに移された理由は、人間として最低限できるような事、守れるようなルールを守れない…小学生や中学生ならわかるぞ?ただお前らはもう高校生だ。18歳だ。教育がどうこうでは無く、学校側はお前らを“学生”と認めなくなった」
「3つ目。高校というのは、素行不良の生徒を退学させることはできても“何もやっていないけど障害があったりする”と言った理由で生徒を退学させることはできない。だからこのような教室を作り、お前らを“隔離”したんだ」
「4つ目。お前らアンダードッグスには“出席日数”が免除される。別に学校に来なくてもお前らは良い。ただ1つだけ、就職でも進学でも良いから“進むべき道”をしっかり作らないとお前らは卒業できない」
ここまで話した時点で金田が言い出す。
「―ってことは、俺達は“進路”を作れと?」
吉信が「ああ」と頷く。
「つまり…どういう意味だ?」
神童が神妙な面持ちで言う。
吉信は深く溜め息をついて、神童に対してのみこう伝える。
「お前らは負け組してるんだ。ここは基地外教室だ。仕事を決めるか進学しないと卒業できないぞ。これでわかったか?神童」
最初の説明でも十分なほどに酷い言葉だったが、それをより簡潔に、より暴力的な言葉で神童へ伝えた。そしてやっと神童は意味を理解した。
「それって俺達…やべーじゃん…」