吉信先生
そんな2人のために設立された特別クラス、通称「アンダードッグス」。2人を隔離し、教師の庇護下に置き続ける事で、学校全体の負担は軽減し、普通の日常生活を送れるようになった。
吉信 修。「アンダードッグス」の教師だ。
元々学校にいた教師陣は、アンダードッグスの設立は良しとしたが、そのクラスの教師になりたいという人間は(当然だが)出てこなかった。
進まない会議の中、ビシッと自ら志願したのが体育教師でもあった吉信 修であった。
「彼らにも何か思うところがあるのかもしれない。それは一緒にいて、話してみなければわからない」
吉信先生は皆にそう言った。他の教師陣としては、むしろ自分から名乗り出てくれる事の方が都合が良かった為、これ以上の言及は無かった。
その考え方が甘かったと理解したのは、吉信先生だった。
吉信先生は、まず別クラスを作りそこに移動する事になった旨を2人に伝えた。
「おお…とうとう…!」
神童が感動した面持ちで吉信先生に近づいてくる。
「とうとう学校が俺の事を認めたんだな!俺の才能を!」
「…それは」
こっちを睨むような形で金田が近づいてくる。
「それは、特別待遇になって支援金とか貰えたりするんですかね?」
―甘かった。
考えが甘すぎた、と吉信先生は思った。ここまでとは。彼らは自分たちが「特別優秀だから」別クラスになったという考えでしか無い。
…どこまで離せばいいものか。
吉信先生は1人、問答していた。
このまま彼らに現状を伝えても、「君たちは基地外だから別クラスなんだ」などと伝えるのは流石に可哀想すぎる。それ以外の言葉では、きっと理解してくれないであろう。遠まわしな比喩表現として伝えても彼らに伝わらないのは、既にわかってしまっている。「0か100か」でしか会話が成立しない事に対する悩みが吉信先生の中でぐるぐるしていた。
「…どうするべきか」
悩みを抱えたまま、吉信先生は「アンダードッグス」が設立してから最初の授業を行うため、教室へと向かった。
―どこからか、良い匂いがする。焼いている肉の匂い…?学校周辺には公園が多い。どこかでバーベキューでもやっている人たちがいるのだろうか。
…いや、違う。屋内だ。この匂いの元は、屋内で行われている。
目の前の教室…つまりクラス「アンダードッグス」から、煙が立ち込めているのがわかった。
鳴り響く火災警報器。阿鼻叫喚の他クラス。教室をのぞき、まるで今の状況に気付いてすらいない神童と金田の2人を見て、吉信先生は思った。
「あ もう いいや こいつら」