神童 貴 と 金田 止
都立亜達西高等学校。
県内でも有数の「大馬鹿高校」として有名なこの学校は、まるで少年マンガに出てくるヤンキーまみれの高校…のような荒れ方をしているのではなく、むしろ真逆であった。
まるで食事も取っていなさそうな、段差で転倒しただけで骨折するくらいの、見るからに「弱そう」な学生。
声と言うことばかりは立派で、実際には何もやっていないようないわゆる「意識高い系」の学生。
授業中であろうと移動中であろうと帰宅中であろうと、片時も携帯ゲームやスマートフォンを手放さず、永遠とゲームをし続けるような「オタク」学生。
そんな人間の吹き溜まりのような子供たちが多く入学してくるのがこの「亜達西高校」である。
色々と終わってしまっている学生たちに振り回されながら、どうにかこうにか学校経営をしている教師陣だが、その教師陣ですら首を横に振りクラスメイトとして受け入れられないでいる学生が2人いた。
神童 貴。現在高校3年生。
父兄も参加する入学式の会場において、開始2分もたたない内に「うぉー…つまんねーっ」と大きく伸びをしながら発言して以来、危険人物過多なこの高校の学生の中で「危険人物」として認可され、3年間ずっと学校に来ては帰るだけを繰り返していた生徒である。
「学校に来ては帰るだけ」とはどういうことかと言うと、言葉通りである。朝学校に来たらまず屋上へ行き、そこでスマホをいじったり自宅から持ってきたパンを加えながら「あー…だりー…」とおよそ3時間近く無意味にたそがれ続け、ふとした瞬間に金網をよじ登って屋上に立ち
「俺は世界を再構築する神の遣いだあ!」
などと叫びながら人に気付かれるまでそこで大声を発し続け、教師陣が慌てて駆け付けると
「…遅かったじゃないですか。あと12秒遅かったら世界は終わっていましたよ」
などと意味不明な事を言って、帰宅してしまうという、正真正銘の「基地外」であった。
金田 止。現在高校3年生。
なにかにつけて「金が」「金が」と連呼し、小学校の1年生から金銭面に関するトラブルを起こし続けている生徒。
「目の前にあればそれが自分のものである」というあまりにもぶっ飛んだ超理論でクラス中の財布どころか、職員室に置いてあった教師の財布、挙句には教師の乗っていた車を勝手に持ち出して売ってしまったなどという事件が相次ぎ、一時期は少年院にまで入っていた。
「モノ」が無くなれば盗みは一切しなくなる(そもそも盗む物が無い)ため、過去に何度も警察に捕まっているが、年齢も相まって「今後注意するように」程度で済んでしまっていた。
高校2年次に学校の個人情報を盗み、それを横流ししたとして新聞に取りざたされるほどのニュースになったが、「金田の犯行」というよりは「学校側のずさんな管理形態」といった形でメディアに報道され、金田は難を逃れている。
また、この2人は「クラスメイト」でもある。
「クラスメイト」という肩書きにはしているが、実際にはクラスではなく、いわゆる「特別支援学級」のそれに近い。
特別支援学級というのは、例えば障害のある児童を一般のクラスに入れ、一般生徒と同じようなカリキュラムをさせていると、大半は他児童よりも授業への理解度や作業の進行が遅くなってしまい、結果的にクラス全体のやる気が落ちる傾向がある。
障害への理解が乏しい児童は障害者を疎ましく思い、いじめの対象になることが多かったりするので、それの学校側の対策として「クラスを分ける」ことにより全ての生徒たちが平等に、一定の時間で授業や食事を済ませるという国の定めた支援方法である。
だが原則、高校は義務教育ではないので、こういった措置は行われていない。
神童 貴と金田 止があまりにも年齢不相応な挙動や言動を起こすため、急遽設置された学級である。
ながくてスミマセン