プロローグ 復讐のコーディ
明治十二年(1879年)
アリゾナ州の空を照らす太陽はとうに落ち、砂煙の混じった冷たい風が街を駆け抜ける。
そんな中、俺は宿屋のスウィングドアを静かに押し開けた。
「座長さんの部屋は?」
「二階の一番奥だ」
眼鏡の親父がぶっきらぼうに答える。揉め事はよしてくれと内心思っているのかもしれないが、すまない。俺はこれから揉め事を起こす気なのだ。
階段を登り、一番奥の部屋の前に立つ。
鍵はかかっていない。もしかかっていたらどうしようと今更考える。
まあ、かかってなくてよかった。
俺は慎重にドアを開ける。家族用のスイートルームに一人だ。ショウの座長ともなればこんな高い部屋に入れるのか。いい身分なもんだ。
俺はホルスターの中で、シングル・アクション・アーミーの撃鉄を起こした。
そのままゆっくり部屋の中に忍び込み、衣紋掛けに昼間ショウで見た派手な衣装がかかっているのをみて、間違いがないことを確認する。
ターゲットはベッドの中で丸まっているようだ。
手が震える。
だが、こいつは憎き仇なんだ。
俺は覚悟を決めた。ベッドに銃を向けて一呼吸。
右手人差し指で引き金を引く。軽い火薬の音が響き、銃弾はまっすぐベッドの盛り上がりに吸い込まれていった。
俺は引き金を引いた指をそのままに、左手で撃鉄を起こし、弾く。
続けて五発。合計六発の銃弾をベッドに叩き込んだ。
すぐに訪れる静寂。
やったか……。
人を殺したのは、たとえそれが仇敵だったとしても、初めてだった。
だが……こんなもんか。
なんの感慨も感動もなかった。