氷菓子
シャクシャクシャクシャク、と絶えまない氷を細かく混ぜる音。
彼女はコンビニでよく売っているミゾレを食べていた。
いや、先程から見ていたがそんなに食べてはいない。
ただひたすら、銀色に輝いているスプーンでミゾレをつついてはかき回している。
俺はかき氷器のハンドルを回しながらその様子を眺め「どうした」と問いかけた。
すると彼女はやっとミゾレをかき回すのをやめて、俺の方へと視線を移す。
ぼんやりとしたその瞳に俺を写している。
白い肌には汗が浮かんでいて、結い上げた髪が少し乱れ首元に張り付いている。
俺は回していたかき氷器のハンドルを止めて、彼女の顔を覗き込んだ。
虚ろな瞳には涙の膜が張られていて、頬がほんのり赤くなっている。
キンッと高い音を立ててスプーンが彼女の手からこぼれ落ち、続けてミゾレが床にぶちまけられた。
フローリングの床がベタベタになること間違いなしだ。
「あっ…つ」
糸の切れたマリオネットのように体から力が抜け、ソファーに倒れ込む彼女。
明るい茶髪がソファーの肘掛けに散らばる。
ひたり、と彼女の頬に触れれば熱が伝わってくる。
あぁ、コイツ熱中症だ。
作りかけのカキ氷をテーブルの上から取り、仰向けに倒れている彼女の顔面にかけた。
氷の粒がキラキラと光り消える。
「冷たい…」
ぐったりとした覇気のない声音でそういう彼女は、額についた水気を指で弾く。
部屋の中にいても熱中症になるのか。
いや、ミゾレを買いに行った時か?
なんて考えながらバテている彼女を尻目に、キッチンへ向かい氷のうを作ってやる。
作り終えた氷のうは彼女の顔面めがけて投げ置く。
「先から、乱暴だぞ…」
ダルそうな声で抗議をして睨むが、その眼力はあまりにも弱々しい。
それより、俺のかき氷どうしてくれるんだ。
そしてこのフローリングに溢れて、ベタベタしていること間違いなしのミゾレはどうするんだ。
俺が片付けるのか。
フローリングを綺麗にしてもう一度かき氷を作るのは、それから三十分後のこと。
そしてそのかき氷がバテている彼女に奪われるのは三十分と二十秒後。