57.晴海は楓と知り合う
待たざる人来たり。
咄嗟にそんな言葉が頭に浮かんだ。
お正月の日にひいたおみくじに書いてあったが、待たざる人とは目の前にいる女の事なのだろうか。
その女も僕を見てどう思っているのだろうか。
「あんた、誰?」
その女は僕に対してまずこう言った。 無理もないだろう。自分の目の前に自分と全く同じ人間がいるのだから。
僕だって質問したいくらいだ。
「いや、あんたこそ!」
「あたしはそこにいるバカの幼馴染の鷹宮 楓っていうの」
「あ、そ…そう…」
あまりにも自然に僕に話しかけてくるんで思わず拍子抜けしてしまった。 別に名前を聞こうと思っていたわけではないんだけど。
「で、あんたの名前は?」
彼女は僕に手を差し伸べながらまた質問してきた。
どうやらビックリして腰が抜けてたらしい 。 自分が地面に座っていると気づいたのはその時だった。
しかし、ここまで普通に接してくるって、ひょっとして自分と同じような顔してるって気づいてないんじゃ……?
とりあえず名前は言っておくか。
「え、えっと私は相良晴海っていいます……はい…」
「相良晴海さんか。ひょっとしてあなた私の生き別れの双子とか?あたしたちやたら似てるよね」
あ、気づいてたらしい。
しかし生き別れの双子であるはずがない。 相良晴海は生まれたばかりのはずだ。 10ヶ月くらい前に、僕が女になったときに。
どういうことだ…?
「いや、お前らほんと同じ顔してるよ。何年も一緒にいた俺でさえ間違えるんだぜ?」
「ああ、そっか。この娘をあたしと勘違いして一緒にいたんだ」
「ていうかお前気にしなさすぎるだろ。同じ顔のやつが目の前にいんのに…」
「世界には同じ顔の人が3人はいるっていうじゃない。そんな感じよ。ぉドッペルゲンガーみたいな」
それは大分違ってくると思う。
なんだ、ここまで軽く考えられてるなら、僕は何を焦っていたんだと思ってしまうな。 そうだな。世界には似てる人3人はいるって聞いたことあるもん!うん!…無理があるな。
ただ、考えればある可能性が浮かんでくる。
天野さんがいっていた天界の人の気まぐれで作られた僕の体のモデル的なのが目の前にいる鷹宮さん。 こう考えればここまで似てるのも納得できるんだけど…。
「ていうかごめんな。相良さんのこと楓だとばっかり」
「いえいえ。私は別に」
それより自分の心配をしたほうがいいぞ。 なんかおたふく風邪みたいなことになってるし。 顔面にグーパンくらったそうなるんだな…。痛々しすぎて見てられん…。 救急車呼んだほうがいいかもしれない。
しばらくボケーっと鷹宮さんとそのクレヨンしんちゃんみたいな顔になってしまった幼馴染の言い合いを見ていると誰かに肩をトントンと叩かれた。
「おまたせ…」
「悠斗。遅かったね」
肩を叩いてきたのは悠斗だったらしい。 そういえばトイレに行っていたんだ。時計を見れば悠斗がトイレに行ってからかれこれ30分以上過ぎていた。
そういえば悠斗は僕と鷹宮さんの顔が同じだってことに気づいていないらしい。 そもそもこの状況だとどこかの知らないカップルが喧嘩しているようにしか見えないし、鷹宮さんの顔も暗くて見ずらいから仕方はないかもしれないが。
気づけばパレードの乗り物も近くの通りからは無くなっていてぞろぞろと咲ちゃん、伶奈ちゃん、圭吾がこちらに向かってきているのがわかった。
みんな来たら一応このこと伝えておいたほうがいいだろう。
「それより早く離れようぜここ。あの人達のそばに居たくないし…」
できれば僕もすぐにでもここから離れたいのだが。
「みんな帰ってくるまで待たないと」
僕たちがこそこそ話していると鷹宮さんがそれに気づいてこちらに歩いてきて悠斗に話しかけた。
咄嗟に悠斗はそっぽを向いた。
「相良さんの彼氏ですか?」
「んなわけないっすよ。てかなんか用っす……か?」
答えた時に鷹宮さんのほうを向いたせいで思いっきり顔をみてしまった…。
やはり悠斗も驚いているようだ。
「は、晴海が2人いるう?!?!」
「えっと、どう説明するばいいかな…」
僕もどう説明したらいいかわからないし。……ていうかめんどくさいし、ただのそっくりさんでもいいような気もする。 いやダメか。
「細かい事は帰ってから話すよ 。天野さんも加えてね」
ボソボソと小さい声で僕は悠斗にそう伝えた。 事情をしらない鷹宮さんに聞こえたらアレだし。
「で?ほんとに彼氏じゃないの?」
「いやいやー、2人でいるとやっぱりそう見えちゃいます?」
「うんうん!」
なんか2人で妙に盛り上がってるな。
しかしアレだ。僕の顔と同じ人と悠斗が話してるって事は普段僕は周りからこんな風に見えていたのな。自分じゃわからないからすっごい新鮮。
「おい、楓。そろそろ帰んないとまたおじさんに叱られるぞ」
「ああそっか!ごめんねあたしの家門限厳しくて…」
門限?
とてもそんなものあるような娘には見えないけど…。 失礼だなこれ。
どうせお父さんは娘が可愛くて仕方ないとかそんな感じなんだろうな。
あと彼も早く病院に連れて行ってあげてちょうだい。
「はい!メアド」
「は?」
素では?っと言ってしまった。
いきなりすぎる。
「なんか他人のような気がしないし、これでお別れっていうのも寂しいから。またいつか会お!」
「う、うん」
僕の返事を聞くと彼女と彼は「ばいびー」と言いながら人混みの中へ消えて行った。突然現れて突然いなくなるって嵐のような女だな。
ところで鷹宮が居なくなってからは悠斗が横で俺には?とか言ってるがここはあえて無視していようと思う。
ちょうどパレードも終わったようだ
しそろそろみんな帰ってくるだろうな。
一応悠斗に言っとくか。
「悠斗。この事はみんなには秘密にしといて」
「俺に…。お、おう!」
こいつほんとに大丈夫なのか?
まあ一応信用しとくからね悠斗。
さて帰ったら天野さんを尋問しないと……。
ちょっと楽しみだったりする……。