56. 晴海はシムジーランドへ行く
軽快なBGMが鳴り響く。
僕たちがいるところは千葉にある王国、東京シムジーランド。 千葉にあるのに東京シムジーランド。
3連休の合間に僕、悠斗、圭吾、咲ちゃん、伶奈ちゃんで遊びにきているのだ。 実際に計画を立て、コースなどもすべて決めたのは伶奈ちゃんで僕たちはただ後ろからついていけばいいので楽なものである。
しかもしかも、3連休の合間だというのに思ったより人が少なく気分が悪くなることもなさそうだ。
「じゃあ次はバルト海の海賊!」
え?バルト海?
バルト海に海賊いたのん? カリブ海ならいたんだろうけど。
たまにシムジーランドのアトラクションに乗ったり見たりしてるとこんな感じになる。 ……で、本当にバルト海に海賊はいたの? やだすごい気になるじゃん。
「パンフレットパンフレット……あった!えーっと、『バルト海を荒らし回る海賊達を身近に見れる大迫力をお届け。小型ボートにのってお宝を探そう!』だって」
「つまりボートに乗って宝探しながら景色を見るってことか」
「圭吾くん!そんな言い方せっかくのワクワク感が台無しでしょ!?もっとこう、すごい言い回しはないわけ!?」
あ、熱い……。熱すぎる。
あれ?こんな感じのこと前もあったような…。
*********
「ふい〜♪」
伶奈ちゃんがなんか温泉に入った後のような顔をしているのを見るとやたら満足したんだろうな…。
しかし、バルト海の海賊はなかなか良かった。 大きな海賊船が見れたり僕らが乗っているボートのすぐ近くに大砲が落ちてきたり、陸で海賊達が戦っていたり。 ちなみにお宝は見つかりませんでした。……いやあれ絶対無理だって、ボートが意外と早くて全部見るの無理だもん。
ただ、満足な顔をしている伶奈ちゃんに対して悠斗は…。
「悠斗どした?」
「な、なんか気分悪くて…」
船酔いはするわけないのに一体何に酔ったんだろうか。
「ほんじゃ次はコスモ山脈かな!」
気分悪そうな悠斗を全く気にせずに次の乗り物を決めてしまうその姿勢、嫌いじゃないぜ!伶奈ちゃん!
しかもめちゃめちゃハードなジェットコースターだった気がするし、コスモ山脈……。
「それかフィアーザマンションかだね」
「フィアーザマンションの方が近いし先こっちでいいだろ」
「よし!じゃあ行こう!」
何気に咲ちゃんもノリノリで次にいく場所を決めようとしている。あとそれに乗っかる圭吾。
どうやら次のアトラクションはフィアーザマンションに決まったらしい。
確かフィアーザマンションは3人乗りだか2人乗りだかのイスみたいなん乗ってマンションの中をぐるぐる探検みたいなことをするアトラクションだったか。 普通の時期の時はシムジーランドには珍しく結構本格的なホラーアトラクションなんだけど、ハロウィンやクリスマスになるとホラーというより楽しさを全面に押し出すアトラクション。 そんな感じかな。
どんなアトラクションであれ、ジェットコースターのように早く動くわけじゃないし悠斗も平気だろう。
「オエッ……」
もらいゲロしないようにしないと…。
*********
シムジーランドは夜の7時半頃からパレードが始まる。 このランドのマスコット達がいろいろ派手な衣装をきてキラキラ光る乗り物でランド内をゆっくり回っていく。だが、僕は何度も言うように人混みが苦手だ。 パレードともなるとランド中から人が集まってくるに違いない。 それを知ってか知らずか伶奈ちゃんがは僕に悠斗のおもりの仕事をくれた。
実はあのバルト海の海賊からなかなか悠斗の調子が戻らずずっと「オエー」と言いながら歩いていた。うざかった……。
そんで今はパレードの通りから少し離れた屋外のレストランにいる。相変わらず悠斗は気分悪そうだ。
「う……。気持ち悪りぃ…」
「帰るか救護室的なの行けばいいのに…」
「せっかくみんなで来てるんだ。みんなに気をつかわせるわけねえだろ」
「いやいやいや!思いっきり気つかわせてるし。だから今、こんな状況なんだって」
「う…。ちょっとトイレ行ってくる」
「救護室いけや…」
悠斗が席を立った瞬間に言ってはみたがどうやらトイレの方角に向かっている。 トイレで吐かれても迷惑だぞ……。
しょうがない何か飲み物でも買って待ってるかな…。
「えーっと…アイスコーヒーとメロンソーダで」
一応悠斗の分も頼んどいてやった。
帰ってきて飲めなかったら飲めなかったで僕が飲めばいいし。
しかしこのアイスコーヒー、なかなかうまい。 缶のやつとはまた違うような気がす。 あくまで気がする。
しかし、ここから遠巻きにパレードを眺めるってのもなかなかいいな。人があまりいないし、パレードの乗り物は大きいから結構よく見える。 もしかしてここ穴場なんじゃないだろうか。
そんなことを考えながらズズズッとアイスコーヒーを飲むこしばし、1人の男に声をかけられた。
「おいおい、戻ってんならさっきの場所に来いよな」
なんだこいつは……。
妙に馴れ馴れしくしやがって、もしかしてこれって新手のナンパ? 夢の国でそんな事するおバカもいるんだな。無視しよう。
「何怒ってんだよ?……お!俺の分も買ってくれてたのか!サンキュー!」
「あ!ちょっ!!!」
悠斗の(は建前で僕の)分が!!
流石にここまでされたら黙ってられない。 見ず知らずの女の連れの飲み物を勝手に飲むなんて……!!
「ちょっとやめてくれませんか!それ!ぼ……私の連れの分なんですけど!!!」
一瞬素が出かかったがなんとか堪える事が出来た。
だがその男はキョトンとした顔で僕を見ている。
「アレ?髪ほどいたんだだな。服も着替えてるし…。ああ!さっきウォーターマウンテンで結構濡れたしな」
聞いてねえ…。
一発ぶん殴ってやるか。それとも夢の国の警備に突き出すか…。
「あの!」
もう1度僕が文句を言おうとしたが1人の女の声によって遮られてしまった。
「最っ低!!!」
そう声がした途端男の頬に電撃走る!!
轟く間に男は吹っ飛ばされ、地面の上を転がり、また痛がり地面の上を転がる! …なんだこれ。
ていうか言葉から察するに彼女さんか? あのどうしようもない男と付き合うなんてなあ。……でも顔面グーパンチはやめてあげて。せめてビンタにしてあげて!
「あんたから誘ってくれたのに他の女と一緒にいるなんて!」
「はあ!?何いってん……だ?」
男が途中で固まって僕と女を交互に見ている。
僕もつられて、また女もつられて僕と女は向き合った。
どっかで見た事ある顔だ。 結構な美人さんで髪はポニーテール気味に結っていて僕より少し長いくらいか。
……ていうかこれ僕じゃん…。
「あ、あんた……。誰…なの?」
その後しばらくお互いに言葉は発せず2人共にらめっこをするしかできなかった。
いや、ほんと、誰?