54.晴海は正月を迎える
除夜の鐘が鳴り響く。
この鐘の音は今年が終わり、また来年がくることを知らせてくれる。
思い返せば色々なことがあった1年だった。
1番大きなことといえばやはり僕が女になったことだろう。
銀行強盗に人質にされて撃ち殺されたと思ったらベッドの上で寝ていた。 で、変な人に変なこと言われて変なことに巻き込まれて変な名前をつけられそうになって。 うーん、''変な''というワードがゲシュタルト崩壊してしまうぜ!
んでその変な人が今僕の横にいる。
「ん?どしたのジーっと見ちゃって?私に惚れた?」
「いやいや、そんなことありませんって。はい、本当に。絶対にありえませんよー」
「否定しすぎ!?」
このアホそうな人が自称天界の人で僕の保護者的な天野恵美さん。普段は学校の教師として働いている。……あれ?最近見てなかったような。
まあいいや。
その後学校に通いだして、いろいろ友達ができて…って感じの1年だった。 普通の人じゃ体験できないことしてるんだからちょっとラッキー♪とはもちろんならない。
「お!ジョニーズでてきたよ」
「僕は別に興味ないですし」
いい年してそうでジョニーズファンなのかこの人は……。
ていうか何歳だよあんた。
そもそも天界の人って生きてるの?死んでるの?人間なの?天使なの?悪魔なの?
考えると止まらなくなるからその日は考えるのをやめて僕は寝た。
お年玉は明日貰えばいい。 いくらかな。
***初詣***
「混んでるねえ…」
僕と、悠斗と天野さんで初詣に来たのだが、やはり混んでる。
これでも一応近所の大きな神社には行かずにわざわざ少し遠くに来たのにこの混みようは流石に参る。(神社だけに)
「御賽銭のとこまですごい列だね」
天野さんがガックリした感じで言う。
無理もない。なかなかの時間電車に乗ってきてこの人混みはね。
僕も人混みは嫌いだ。 いや、本当にららぽーととか人多い日は行けないよ絶対。
「まあゆっくりまちましょうって」
人混みにげっそりしている天野さんとは反対に悠斗はヘラヘラ笑いかなり余裕がある。 中学の頃は友達といろんなとこ行ってたらしいし人混みは慣れっこなのだろう。
くそう、羨ましいぜ!
「無理!私先帰ってる!」
「え!?せっかくここまで来たのに?」
「やっぱり私人混みダメね。近くのららぽで買い物して先帰ってるねー」
「ばははーい♪」そう言って天野さんは手を大きく振りながら僕たちの前から走って消えていった。
いやいや、ららぽーとも充分人多いですからね?
そもそも初詣行きたいって言い出したの天野さんじゃねーか。
「あの人の性格掴みにくいな」
「僕も」
「どうする?」
おそらくこのながーい列に並ぶかどうかを聞いているのだろう。
正直最初は乗り気じゃなかったがせっかく電車に乗ってきたんだしこのまま帰るのはなんか…ね。
「せっかく来たんだし、並んでみるか」
「海都ならそう言うと思ってたわ」
「どーいう意味だし。ていうか海都って呼ぶなよ」
なかなか神社に来る機会もないしたまにはこんな人混みもありだろう。
そう思いつつ僕と悠斗は列に並んだ。
*********
何十分か御賽銭の列に並んでいるとようやく僕らの出番が来た。 一体なぜ御賽銭を入れて祈るだけなのにここまで時間がかかるのか。不思議で仕方ない。
ていうか列に並んでる間に小銭用意しとけし、順番来てから「あれ?小銭ない!貸して貸して♪」じゃないんだよ前にいたカップルの女。 どうせクリスマスでいちゃいちゃしてたくせに正月までいちゃいちゃすんな。
……どうもカップルのことに関しては話が長くなる傾向があるな。
ともあれようやく僕たちの出番だ。
しっかりと五円玉は用意してある。
まずは御賽銭を入れ、ガランガランと鈴のようなものを鳴らし、手を合わせて……何だっけ。願い事だっけ?そうだよな、うん。 ……願い事して終了!
「何願ったんだよ?」
あ、やっぱり願い事であってたらしい。
「それ言っちゃってもいいわけ?」
今の言葉はアニメでよく聞くから言ってみた。
実際は言っていいのかとかは知らないけど。
「わかんないしやめとくか!」
「それがいいよ」
さて、願い事をした後は、よくあるおみくじだね。
お金をアルバイトの巫女さん(結構カワイイ)に払って、番号を選んで、おみくじと変えてもらうと。
さてさて結果は……
「お前凶じゃねーか!だはは!」
まさかの凶だった。
しかも僕が確認する前に悠斗にバラされて爆笑された。これはあれだな凶の影響だから早速僕に不幸が訪れていると解釈してよろしいのですかね神様?
つーか、去年厄年みたいな感じだったのに新年一発目これは酷い。
なにこれ僕に与えられた試練?乗り越えたら特殊能力に目覚めて世界救っちゃうの?
「ちなみに俺は大吉だぜぇ」
うぜぇ……。
大吉を自慢してくる悠斗がうざいからとりあえず悠斗は無視しておみくじを読んでみるときになる文があった。
「待たざる人きたり……?」
「何だそれ」
「さあ?」
何だよこの待たざる人って。
すんごい気になるじゃん。
普通は待ち人きたりとかで恋人できるとか結婚できるとかなんだろうけど、これは初めて見たな。
凶を引いた上におかしな文章まで読まされて、おまけに悠斗もうざいって……。
なんて酷いお正月だ…。
とりあえず凶のおみくじは結んどいた方がいいんだったっけ。
「邪気を追い払ってください!」
「神様に届くといいな。俺は持って帰るぜ!」
神様ねぇ。
天野さんのいる天界に神様はいるのだろうか。 その神様が僕たちのいう神様なのだろうか。…考えると止まんないな。
「よし!じゃあ帰ろうぜ」
「うん」
***帰宅***
「ただいま〜……」
マンションの鍵を開け、部屋に入り挨拶をしたが返事がない。 どうやら天野さんはまだ帰ってきていないようだ。靴もないし。
リビングに入り僕は「う〜ん…」と言いながらソファに寝転んだ。 なんだか着替えるのも面倒くさくてこのまま寝ていたい。
気になることがある。 無論おみくじのことである。
ただの占いだろうけどやっぱり今まで見たことない文章の「待たざる人きたり」の部分。
……なんか今の僕、バトルアニメの主人公っぽいな。これから僕の日常は非日常に変わっていったんだ……。なんてね。
あ、ていうか男から女に変わってる時点で充分非日常じゃん。
「ふー、宿題やるかな」
冬休みもあと1週間と少し。
学校が始まる前に溜まっている宿題を片付けてしまおう。
そう思い、宿題を広げ一つ、一つ宿題をやっていくうちに僕の頭からはおみくじのことは消えかかっていた。
「数学ワカンネー……」
数学のせいでおみくじ思い出した。
サンキュー数学。そして無くなってしまえ数学。