53.晴海はクリスマスに悩む
講堂で校長先生の長ったるい話を聞いてから僕たちはクラスに戻ってきた。
たった今、梵城学園の2学期修了式が終わったところだ。
今日は12月24日のクリスマスイブ。 ちょうどこの日に修了式がはいり、明日のクリスマスからは2週間あまりの冬休みが始まるわけだ。
んで、やっぱり高校生ともなるとクリスマスイブなどの行事は''家族と過ごす''よりも''恋人と過ごす''という選択肢がより身近になっていく。 そして恋人と過ごす者は勝者として、家族と過ごす者は敗者と位置づけされるのである。……理不尽だ。
そもそもクリスマスの本場アメリカではクリスマスは恋人と過ごす日というよりは家族で過ごす日ということになっているわけだし!!!
でも、ここ日本なんだよなあ…。
ちなみに友達と過ごす人は家族と過ごす敗者よりも位が高い敗者ね。
しかし、本物の勝者になるために高校生は躍起になって相手を見つけようと、もしくは一緒に過ごそうとするのだ。
全く、聖なる夜を性なる夜とか、キリストに謝りやがれ勝者のエロ猿ども。
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帰りのHRが終わった教室内のいたるところでは今日、もしくは明日の予定を話し合っている人が多い。
帰る準備をしながら周りの話を聞いてみると「晩飯食うとこどーするー?」だとか「あと誰誘う?」とか「あ、俺彼女と過ごすわ(笑)」とか、そんな感じの会話。 最後のやつあれ嘘だな。僕にはわかる。
しかしクリスマスは僕には関係のないイベントなのでさっさと帰ろうと教室を出ようとしたところである人に捕まった。
「え、えと、これから知り合いの家でクリスマスパーティをするんだが…」
鶴岡君だった。
どうやら芸能人関係の人やらプロデューサーやらスポンサーやらのパーティがあるらしい。
さすが売れっ子。
「相良さんもどうかな?一応許可は取ってあるんだけど…」
なんと、パーティのお誘いでしたか。それは嬉しいことだけど、芸能人やスポンサーの人やらが来る場所の雰囲気に耐えられそうにないな。
やっぱりアニメでよくあるようなすんごい高いドレス着たり、立って食事したりするんだろうな。
断っておこう。
「えーっと悪いんだけど…」
あ、でも断る理由どうしよ。
うーん、適当に友達と約束してるからとかでいいかな。 あとで誰かに口裏合わせて貰えばいいし。
「先に友達と約束しちゃってるから…」
こう言えば大抵の人は自分から身を引いてくれる。
たまに「え?誰そいつ?」とか聞いてくる礼儀知らずな人もいるけど芸能界でやってきてる鶴岡君だ。 そんなことはしないだろう。
「じゃあその友達もパーティに招待するからさ!」
「へ?」
僕が全く予想していなかった答えが鶴岡君から帰ってきた。
何?僕の考えをかわしてくるとかエスパーなの?
***帰宅中***
「どうしよっかな〜」
パーティ断るために友達が〜とか言ってしまったが。それでもいいと誘われてしまった。
これはあれか、試練か。
一応パーティ自体は明日の25日にやるそうなので鶴岡君には明日の昼までには連絡すると伝えておいた。
ああ言われた手前簡単に断るのもなんかね。
でもそうなるとパーティに連れて行く友達をどうするかって話になる。
悠斗は子煩悩な親たちとクリスマスを過ごす。つまり敗者。 確か咲ちゃんと伶奈ちゃんは中学の同級生たちと過ごすと言っていた。つまり悠斗より上の敗者。 圭吾は部活の人達と過ごすって言ってたかな? やっぱり敗者。 ……敗者、敗者とか僕嫌なやつだな。
はあ、どうするか。
こんなことになるならさっさと断っておけばよかった。
その時、僕を呼ぶ声が聞こえた。
「海都くーん!」
「榎田先輩…」
振り返ると榎田先輩が走ってこっちに向かってきていた。
どうやら榎田先輩も今から下校するらしい。
ん?でも確か鶴岡君の話を聞いてて僕もかなり遅れたはずだけど、先輩は学校に残って何してたんだろう。
「先輩。結構な時間ですけど学校で何かしてたんですか?」
「うん。実は生徒会からクリスマスイベントのことで話をされてて」
ああ、なるほど。
確か学校のいたるところにある掲示板に書いてあったな。
確かクリスマス当日ではなくて27日とかにうちの高校のホールだか何だかを使ってやるそうな。
学校も派手となれば生徒会もやることが派手だなあ。
「生徒会から、ですか?」
「うん。私、今の生徒会長とは仲良くてね。いろいろ相談のったりしてるんだ。明日も実は呼ばれてて…」
うーん、ワンチャンあれば榎田先輩を誘うのもアリかと思ったけどこれは難しそうだな。
ていうか休みの時まで学校のイベントに出演してるんだ。
そういえば文化祭じゃギター弾いてたっけ。あれ結局何分くらい演奏してたんだろうか………。
その後、榎田先輩と世間話をしていたらいつの間にか駅の前に着いていた。
「じゃあ、僕電車乗りますので」
「うん。久しぶりにいろんな事話せてよかったよ。またね!」
「はい、また」
そう言うと先輩はロータリーに来たバスに乗って行った。
さてさて、僕もぼちぼち帰るかね。
「クリスマスだなあ」
先輩といる時は話に夢中で気がつかなかったがそう口にしてしまうほど周囲はクリスマスに浮かれていた。
駅前のロータリーには大きいツリーがたち、サンタの格好をしたお店の店員がチラシを配っている。 音楽も流れており、この音楽は…えっと、ジングルベルジングルベルってやつ名前なんだったっけ?
たまにはケーキを食べるのもいいかもしれない、そう思いながら僕はスマホを取り出しある人宛にメールを書いた。
クリスマスパーティに誘ってくれてありがと!
でもごめんね。
そういう豪華なとこは僕には合わないと思うから今回はパスということで……。
良いクリスマスを。
相良 晴海
送信っと。
さて、ケーキ食べながらアニメ見てクリスマス過ごすか!
そう、これが僕流の最高の過ごし方!
敗者だなんて言わせないぞ。