52.晴海は音楽で放課後を過ごす
放課後。
高校生はこの言葉が大好きだろう。
ある学生は遊びに出かけ、ある学生は部活で汗を流す。……まあ僕は部活やってないんですけどね。
とにかく、僕も放課後は嫌いじゃない。何より学校がもう終わったということだし、これからは何をしても自由だから。
特に、学校が午前中で終わった時の放課後のワクワク感は以上。
一度は経験したことある人は多いはず。
だけど、今日は雨が降っていて、これから何処に行くなんてめんどくさくてできない。
ていうか雨ってなんでかテンション下がるよね。
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結局あの後6時間目の終わりまで雨が降っていたので当然の如く持久走は中止。代わりに体育館で何故かラジオ体操をやった。正直1時間まるまるラジオ体操をやるのは意外ときつかった。僕の意外にきついことランキングにランクインできるなこれ。
いや、こんなのどうでもいいか。
それより今、この状況の説明をしていきたい。
「フゥーッ!!!」
「がんばれ!なりかけてるよ!!」
僕と、咲ちゃんと伶奈ちゃんは今、音楽室に来ている。
何故放課後にわざわざ来ているのかと言うと僕が入学した頃に考えていた部活のことである。 結局冬になっても部活に入らないでいたので同じクラスの娘の部活を体験させてもらっているのだ。
ちなみに僕は今、吹奏楽部のトランペットという楽器に挑戦しているのだけれどこれがなかなか難しい。
……音出ないし。
「唇を震わせて…」
僕にアドバイスをくれている女の子は同じクラスの西岡 奈々実ちゃん。
セミロングの髪型に三つ編みにした髪の毛を2つ前に垂らしている。制服は少し着崩しているが伶奈ちゃんほどではない。
実は中学の時に2回全国に行ったことのある実力者らしい。
僕がトランペットに苦戦していると横からなんかの楽器の音が聞こえてきた。
「おお!伶奈ちゃん上手いじゃん!」
「ちょっとだけやってたことあるから…」
えーっと、伶奈ちゃんが吹いていたのはなんだっけあれ。 なんか管を前に出したりして吹くやつ。ええっと、何ンボーン?。……ああトロンボーンだっけ。トロンボーンだ。
でもちょっとだけやったことあるって言ってるわりにはド素人の僕が聴いても伶奈ちゃんは上手い!てわかるくらい上手い。つまり上手い。
伶奈ちゃんが楽器を拭くいてうまく演奏をしているのが意外なことと言えばそうなのだけれどそれと同じくらい意外に思ったのは咲ちゃん。
さっきから咲ちゃんの吹くなんとかサックスとかいう音がすごい聞こえるけど、こっちはド素人の僕がわかるくらいに下手だった。
「晴海ちゃん、良かったら吹奏楽部入らない?一緒に全国の金目指そ!」
「え!いや、急に言われても…」
正直無理だ。
吹奏楽部なんて毎日部活あるし、練習時間長いし、たまに走ってるし。
僕は放課後を汗を流し気持ち良く過ごすのは中学までで充分なんだよね。
いや〜…中学の頃はキツかったな…。
「ごめんごめん。冗談ね。ちょっと言ってみたくなっちゃって」
そう言って奈々実ちゃんニコッと笑った。
奈々実ちゃんは男子からの人気が高い。つまりかわいい。性格もいい。
正直そんな笑顔を前にしたら男として(体は女だけど…)断るのがきつくなってくる。 だが!僕には吹奏楽部など絶対に無理なこともあり冗談を快く受け入れることにした。
「そういえば、もう少しでこの地域の高校とか中学とかが2、3校集まってちょっとしたコンクールがあるんだ。 良かったら観に来てね」
「うん。ありがとう」
そう言って僕は手に持っていたトランペットをケースにしまう。……なんかこうなると名残惜しいというかなんというか。
見れば咲ちゃんも伶奈ちゃんも楽器を先輩に返していた。
コンクールが近くにあるんじゃこれ以上お邪魔するのも悪いだろうしそろそろ帰るとしよう。
「じゃあ奈々実ちゃん。私たち今日は帰るね。忙しい中ありがとう」
「うん。こちらこそ。またいつでも来てくださーい♪」
「あはは…。またいつかね」
そう言って僕たち3人は手を小さくフリフリ降って音楽室から出た。
音楽室から出て少し歩いたくらいから綺麗なトランペットの音が聞こえてきた。
おそらく練習はが始まったのか、それともお遊びで吹いているのか。
雨はすっかり止んでいて雲もあまりなくなってきている。
その音色は西に沈んでいこうとしてる太陽に別れを告げているような、そんな音色だった。
明日もまた放課後はある。
だが、今日の放課後はもう一生訪れない。
また一つ、僕たちの放課後が終わったのだろうと思いつつ、僕たち3人は帰路についた。