50.晴海の文化祭が終わる
「……う……うう……」
涙が止まらないよ…。
こんなに涙って出るんだね……。
ここまで出したの久しぶりかもしれない…。
うう……う…。
「ちょっと…お兄ちゃん…泣き…すぎだよぉ……」
妹の睦月も涙がとまらないみたいだ。
僕に注意しておきながら自分も僕以上に涙を流しているように見える。
「おまえら…どうしたんだよ…」
僕と睦月が涙を流しているなか、悠斗はひとりビックリしてる。
僕たちが涙もろいのによっぽど驚いたのかもしれない。
僕たちを見て呆れ顔をしてるみたい。
「だって…だって……」
睦月が説明したいけどなかなか説明できない。
しょーがない、ここはお兄ちゃんとして涙をこらえて説明してあげるとしましょうか。
「ぐすん。もう主人公がかわいそうでかわいそうで……」
「ええ…。そこまでか?」
僕たち3人がが今いる場所は講堂。
ここでは今、演劇部による1時間にも及ぶ劇が行われているのだ。
劇の内容はというと、主人公の男が彼女を友人に奪われ、落胆している時に支えてくれた幼馴染と付き合い始めるというなんとも結構ドロドロしている。
高校生がやる劇じゃないよね。
今は主人公が元カノに色々因縁つけられてる場面なんだけどこの主人公がかわいそすぎて……。
いや、わかってるんだよ。普通の人はあんま泣かないだろうなってことくらいね。
現に周りに泣いてる人僕と睦月だけだし。
「はあ?お兄ちゃん何言ってるの。かわいそうなのは男に愛想つかされた彼女さんだよ。むしろ主人公は女を捨てた悪だよ」
「いやいや、自分から男の友人の方にいってたじゃんか。どう考えても主人公がかわいそうだ!」
なんで女っていうのはやたらと女を庇い、男に罪をきせようとするんだろうか。まったく!
「いやいや、かわいそうなのは主人公の友人だろ?」
「……」
「……」
思わぬ第三勢力が…。
この状況で主人公の友人に味方するなんてどんな頭してるんだ。
***劇終わり***
劇が終わり僕と悠斗と睦月は講堂をでた。
結局劇の途中に行われた「悪いのは誰なのか」という名前の議論は「みんな悪い」ということで解決。
とっても不満です。はい。
さてさて、次は何処に行こうかなっと……。
「あ!野外ステージでバンドやるらしいですよ。行ってみませんか?」
野外ステージなんてあったんだ。
しかしバンドねえ、高校生らしいというかなんというか。
それにあれ、アニメとかだとやたら盛り上がってるけど現実じゃそうでもなく微妙な盛り上がりなんだよね……。
僕もあんましそういうので叫ぶタイプじゃないし。
「バンドかー。そういえば俺も高校に入る前にはギターの練習してたな…」
悠斗そんなことしてたんだ。
悠斗なんてギターなんてやらなくても元々モテてたろうに。いや、ギターってもしかしてモテる奴がやるからモテるんじゃないか……?モテない奴がやっても馬鹿にされるだけのような気もする。
何考えてんだ僕……。
「ほらほら、たまには思いっきり叫んでみましょう!」
「そうだな。たまには」
「だねぇ…」
悠斗が賛成したので僕も渋々賛成することにする。
野外ステージはやっぱり中庭にあるらしい。今僕たちがいるところは講堂の近くだから歩いて10分かかるかかからないかくらいかな。
歩いて10分とか自宅から通ってた小学校くらいまでの距離じゃん。やっぱりこの学校すごいわ……。
***中庭***
中庭に近くと大勢の叫び声…歓声が聞こえてきた。どうやらなかなか盛り上がっているらしい。
勝手に私立の高校だからこういうことは消極的な人たちばっかなんだろうなーって思ってたけどそうでもないみたい。
あ、そういえば僕のクラスにもそこそこ派手な人とかいだっけなー。
それに伶奈ちゃんとか結構派手なほうか。
「おお!盛り上がってんじゃん」
悠斗が言ったように確かに中庭の野外ステージのライブはかなり盛り上がっていた。
いやほんとに、気まずそうに手をあげてるとかじゃなくまるで人気歌手のライブに来ているみたいな感じで大盛り上がりでみんなジャンプしてて僕もつられちゃいそうなくらい。
何でこんな盛り上がってんの?
「あ、あれ榎田先輩じゃね?」
「え?ほんとだ」
野外ステージの上で榎田先輩(と他4名ほど)が歌っている。しかもギターを弾きながら。
榎田先輩ギターもできたんだ。
やたら盛り上がってる原因は榎田先輩のバンドのせいらしい。‘‘せい’’って言うと悪く聞こえるかもだけどいい意味の‘‘せい’’だからね。
榎田先輩だけじゃなく他のメンバーの人たちもみんな「高校入ってからモテるためにバンド始めましたー!」って感じじゃなくてはっきり言うとプロみたいだ。
こりゃ人も集まるな…。
「お兄ちゃん達の知り合い?」
「うん。真ん中でギター弾いて歌ってる人が榎田先輩っていうの」
そういえば睦月は榎田先輩のこと知らないのか。
もしかしたら小学生の頃会ってるかもしれないなーとか思ってたけど。
「すごいなこれ」
悠斗がふいにそういった。
僕たちは榎田先輩(他4名ほど)の演奏や歌に熱狂する人たちには混ざらずに後ろのほうで演奏を聞いていた。
しかし、バンドって榎田先輩には無縁かと思ってたなー…あはは。
ていうか歌長くね?もうここ来て10分くらいたってるんだけど…。
「そろそろ行かない?」
歌があまりにも長く、終わりそうにないしそれが正解だろうなあ。
ごめんね榎田先輩。
「そうだなー」
「だねー」
***散策***
終わりが見えないステージから遠ざかり僕たちは何処に行こうかと悩んでいる。
途中の道にも興味をひくものはいくつかあった。 焼きそばやたこ焼き、イカ焼きなどお祭りだねこれは。文化祭らしいモノといえばまあ定番のおばけ屋敷。5分くらい校舎の中歩いてただけでも3クラスはおばけ屋敷をしていた。多すぎる。
そんなこと思いながら校舎の中をぶらついて適当なクラスの飲み物や食べ物を食べていると時刻は午後2時になっていた。
「うわっ!もう2時じゃん!」
「3時まで校外の人も参加できるんだったっけ?」
大体の学校がそうだけどうちの学校も文化祭自体は午後5時、学校の生徒や先生以外の一般人は午後3時までと決まっているらしい。
理由はよく知らないけどやっぱり不審者とかそういう人が来ると危険だからとかかね。 …まあ3時前に来ればいいだけなんだけどさ。
「じゃあ、そろそろ私帰りますね」
「あ、帰るの?」
「うん。今日はなかなか楽しかったよお兄ちゃん!それと悠斗さんも!」
なんだかんだ楽しんでもらえたらしい。 それはそれでなんとなくこっちも嬉しくなってくるな。
これからはちょくちょく会いに行ってみようかな……。
「あ、お兄ちゃん!今度家に帰って来るときはちゃんとお土産と面白い話持ってきてねー!」
そう言うと睦月はタタタッと小走りで去っていった。
決めた3ヶ月は絶対家に行かないようにしよう。そうしよう。
ていうかあっさり帰りやがった…。
「俺らもそろそろ教室戻って休むか」
「うん。そうしようか」
僕たちの教室に行くまでの廊下は僕と悠斗と睦月、3人で歩いていた時とはまるで別の場所のようだ。 ほとんど私服の人はいなくなってこの学校の制服を着てる人ばかりだし、人もだいぶ減った。
何クラスかはもう片付けを始めている。
こういう光景を見てるとなんか寂しいっていうか悲しいっていうかなんだかよくわからない気持ちになる。
その気持ちが何かはわからないんだけどさ。
「文化祭ももう終わりかあー」
「どしたの急に…」
「やっぱり1日じゃ物足りないよなあ。俺らがやる文化祭って次は1年後だぜ?」
1年後か。
1年後も僕はこうやってこの学校で文化祭を楽しんでるのかなあ。
「間に他の行事あるし退屈はしないよ」
「ああー。確かにそうかもな」
「でしょ?」
「いや、でもやっぱ文化祭って特別な感じするじゃん?」
確かに、文化祭って他の行事とは何か違うというのはなんかわかる。
だから他の行事で文化祭のかわりに楽しむとか絶対できない。 特にマラソン大会お前だ。 本当に誰も得しない行事だよねあれ。
今これを考えるのはやめよう。
「あーあもうテストかよ…」
そういえばそう少しで定期テストだったっけ。
文化祭終わってから早々テストのこと考えないといけないとかきついなあ…。
勉強しなくちゃ!