49.晴海は文化祭を楽しむ
「はあ〜い♪とっても美味しいですよ〜♪是非寄って行ってくださ〜い♪」
しんどいぞこれ!
いつまで続くんだ!?
もう1時間以上はずっと客引きやってるんだけど……。
まさか休憩入るまでずっとこの状態なんじゃ……。
も、もうこうなったら割り切ってとことんやってやるか!!!
羞恥心なんて捨ててしまおう。
「いらっしゃいませ〜♪」
何も考えないぞ。
「お、お兄ちゃん……」
何も考えな…。
え?
お兄ちゃんって…。
相良晴海状態の僕をお兄ちゃんと呼ぶ人はただ一人しかいない。
先日、奏真から僕を助けてくれた…
「む、睦月!?なんでここに!?」
「なんでって聞きたいのはこっちだよ!?」
ああ、まあ…はい……。
そりゃあ、お兄ちゃんがメイド服着て男に媚び媚びな声で客引きしてたら驚くし普通引くよね。
「これは仕事だからさ。ていうかお兄ちゃんって呼ぶなよ。せっかく睦月のおかげでバレずに済んだのに睦月のせいでバレたら話になんないからさ」
「ああ、そっか。ごめんちょ」
イラっとするなこの小娘。
こいつにだけはバレたくなかったのにまさかこの姿で初めて会った時から見抜いてたって…どこぞの名探偵みたいだな……。
まあほとんど僕の不注意なんだけどさ。
ってあれ?
睦月が消えてる!?
「晴海さーん!注文したいんですけどー!」
いつの間に教室に…。
それに僕は注文聞く係じゃないし。
「あ、晴ちゃんあの子と知り合いなんだ!」
家族ですよー。
「じゃあ注文とってきてあげて。ここは…そうだね筒井くーん!」
「え、いや!私は別に…」
「いいよいいよ♪」
いやでも、咲ちゃんの隣で圭吾が「いやいや!」とか言ってるんですけど……。
でもこのぶりっ子客引きから解放されるのはありがたいな。
じゃあ注文とってやるか。
「はいはい、何がイイデスカー?」
「お客に対してその接客でいいの? かな〜?」
イライラするぞ。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「すんごい顔してるよ…晴海さん」
「誰がそうさせてるんだっ!」
「あはは。ごめんごめん」
そういえばこいつなんでこの学校に来たんだ?
あ、そういえば前に教えたっけ。
「お!睦月ちゃんじゃん!」
「あ、悠斗さ……ゲッ!」
そりゃ驚くよね。
男が全く似合わないメイド服なんて着てるんだもの。
男の僕だって驚いたし。ていうかよく悠斗はその格好で知り合いの前に出てこられるな。
ちょっとだけすごいと思った。
「いや、この格好はまあ……ね?」
「ま、まあ似合ってますね!」
「フォローなんてしなくていいんだぞ」
「確かに似合ってると言われても別に嬉しくないけどさ」
「そ、そうでしたか。じゃあ似合ってませんねっ!!!」
「それはそれで傷つくなあ!」
傷つくなよ……。
何故か知らないけど僕が悲しくなるからさ……。
って、いつの間に悠斗席に座ってるし、サボる気満々じゃん。
でももうそろそろ休憩に入るだろうし、別にいいか。
さーて、休憩入ったら何処から回ろうかなー。
***休憩***
「じゃあ何処から回ろうか?」
「えーっと……」
なんで睦月がついてきてるんだ!?
1人で文化祭来てたのか……友達居ないのか?なんてね。
睦月は友達はたくさんいて休日はよく出かけてたし、睦月の友達からは男子にもよくモテるとも聞いた。
なんで1人できてるんだろう…。
「ねえお兄ちゃん!」
「ええ!?あ、ごめん」
「何処行く?ってさっきから聞いてるのに」
「ごめんごめん。あと大きい声でお兄ちゃんって呼ぶなよ」
「わかってますよー」
これは次に僕のことを呼ぶ時もお兄ちゃんになりそうだな。
睦月がこういう返事をする時は大体聞き流してるし…その性格、変わらないねやっぱり。
でも、睦月はその反面優しすぎることもあるし、もしかして僕のことをしっかり考えてくれて僕が男の時と同じような会話をしてるのかも。
奏真の文化祭の時も結局深く聞かれることはなかったし…。
睦月なりに気を利かせてくれてるのかな…そうだったらいいな…あはは。
「そういえばさっき有名人が来るとかですごい騒ぎになってたよ!」
「「有名人??」」
この学校に有名人?
そういえばこの学校って、結構有名な芸人や俳優や、女優なんかの母校だったんだっけ。
今まで全然見たことなかったし、話にも出てこなかったし気にしたことなかったなあ。
どんな有名人なんだろ。
「有名人って鶴岡か?」
「え!?悠斗さん鶴岡君と知り合いなんですか!?」
なんだあ鶴岡君か…。
そういえばいたっけ。
確か、咲ちゃんから聞いた情報だと子役の頃から今までずうっとテレビに出続けてるって言ってたっけ。
なんか睦月が鶴岡君の情報聞き出そうと悠斗に詰め寄ってるけど。まあ鶴岡君てやっぱり男の僕からみてもなかなかイケメンだと思うし、女性人気あるんだなあって改めて思う。
「お兄ちゃん!鶴岡君に口説かれそうになったって本当?」
「いや、口説かれるって言うほどでもないけどね」
「勿体無いよ!こういう時に女の子だっていうのが役に立つんだよ!?」
いやいや何言ってんだよ睦月。
僕は見た目はこんなでも中身は男なんだからそんなことは無理に決まっているだろう。
この先ずっと男を好きになるとかなんて絶対に絶対にないだろうし。
睦月の演説がまだ続いてる…。
「もし結婚するともなれば玉の輿間違いなしだし!…鶴岡君が私のお兄ちゃんになるし…」
本音がでてるよ。
それに僕はこの先ずっと男を好きにはならないって……あれ?
この先ずっとって、この先ずっと僕は女で過ごすことになるのかな?
女のまま高校を卒業して、大学入って卒業して、就職して働くことになるのかな?
本当にそれで僕は生きて行けるのか?
「お兄ちゃんどしたの?」
「また何か考え事か?」
睦月と悠斗が心配そうに聞いてきてくれた。
そうだよね!今日はお祭り!文化祭!
こんな日に暗いこと難しいこと考えないで何も考えずに楽しんだほうがいいね!うん!
ていうか、今更そんなこと考えてもここ数ヶ月女として生きてきたわけだし!平気だ!うん!
でもやっぱり僕の中にできた不安と疑問は無くなりそうにない。