表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/18

第一幕『聖なる騎士≪ホーリーナイト≫』


 明日私は殺される。

「……私の人生が舞台の一部だというのなら、なんてつまらない。なんて酷い筋書きなの?」

 だれも知らない、誰も歌わない。どんな悲劇だろうと誰も悲しまない。音楽やスポットライトというものは、ここにはない。


「私は何の罪を犯したというの? どんな罪で閉じ込められているというの? ……こんな、孤独な牢獄の中に」

真っ暗な闇の中、少女は言葉を紡ぎ続けた。


「神よ……私の存在、それは罪だというのですか? ああ……そもそも。私がこの世に生を受けたこと自体、罪だというの?」

この世に神が存在したというなら、こんな私は存在しない。初めから。

「これは罰だというのですか?」


少女は力なくその場にうなだれた。

「明日、私は……殺される」

――……らしい。


――


 目の前は絶望で真っ暗だった。ただ、夢の中にいるときだけは仄かに明るいような、明るかったような。そんな儚いあたたかさに包まれる時が、少女にとって唯一の安息だった。

 夢の中ではいつも自分が主人公でいられた。自在に夢を見ることができた。


 夢の中では、少女は自分の舞台を演じることができた。

「ああ神よ、全知全能の偉大なる神よ。あなたは私を見殺しになさるというのですか?」薄い桃色の、長い髪の少女は嘆いた。少女がその場に座り込み俯いていると、くるぶしほどまである長い髪は、何度も折り返し地を這っていた。主人公はいつも少女、ただ一人のみだった。

 しかし今日はいつもと違った。届かぬ祈りを捧げる少女の背後から、ほどなくして男の声がした。

「この世に神などは存在しない。何を嘆く必要がある?」


 少女は突然の声に驚き顔を上げた。この部屋は外からは誰も入れないはずなのだ。

「……あなたは、誰?」そのまま男の姿を見ず、恐る恐る少女は問う。


「それは、お前が一番よく知っているはずだ。俺は、お前の願望や、潜在意識の表れなのだから」返ってくる男の声。

 少女はその、普通なら理解できないような言葉を受け入れた。男の声を疑う事など考える余裕はなかった。

「あなたは私の祈りだというのね。あなたはこの生き地獄からの私の救世主?」――少女は笑っていた。その笑顔はひどく無機質だった。

「あぁ……あなたは私をお迎えになった死の神様? それとも、私をここから連れ出してくださる、聖なる騎士≪ホーリーナイト≫さま?」

 男は、少女の前に躍り出た。黒のシルクハット、黒マントの後姿が見えた。

「お前が望むというのなら、私はそのどちらにもなるだろう。なぜなら俺は、お前の願望なのだから」


「では私の救世主さま。あなたはどのようなお顔をしていらっしゃるのですか?」

好奇心からか、少女は男に興味を示す。「憐れみ? それとも慈しみ? ――私にどのような表情を向けて下さるのですか?」

 顔も見えない相手に心を惹かれでもしたのだろうか。しばらく返事のない男の背中へ、想いを投げかけ続ける。

「もしあなたが死神であるなら、私はこのまま死んでもいいわ。その方が今の状況を簡単に理解できます。……でももし、あなたが私の騎士となって連れ出してくれたとしても、何を希望に生きましょう?」――何もなければ、その道を選んだとしても、屍と同じ。

「私の救世主さま。これからの希望は、あなたのお傍にいることで得られるのでしょう。生きがいを感じ、あなたが私の騎士≪ナイト≫であることを望むのでしょう」

 少女は返事のない、そこに動じない男の方へと手を伸ばした。「私の騎士≪ホーリーナイト≫さま、こちらを向いては頂けませんか?」


 しばらくの沈黙ののち、男は一歩前へ出る。先ほどとは違い、丁寧な語り口。

「貴女がお望みというならば、私は貴女を振り返ろう。貴女の手を取り、この場から連れ出し、あなたの騎士となろう」そして――



~この物語の、時代や世界観のモデルは19世紀ヨーロッパのような、洋風なイメージ。

筆者によって創られる、ファンタジーの世界へどうぞ~



                                 -第二幕へ-


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ