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第七十八話 懺悔と後悔も後回し

〝白の宝玉は〟

〝間違いなくここに。先程ジャジェス様から連絡がありました〟

〝バイヤス様〟

〝なんだ〟

〝こちらに来る者が〟

〝奴か〟

〝背丈からして左様かと。真っ直ぐこちらに〟

〝隠れる気はないか。都合がいい〟

〝バイヤス様、もう一人こちらに〟

〝何者だ〟

〝………申し訳ありません〟

〝傭兵では? 魔物がこの付近に出ると聞きました〟

〝リットか……〟

〝如何いたします〟

〝構わん、邪魔をするようなら……いや、捕らえられるなら捕らえろ。出来なければ始末しろ〟

〝了解――伝令〟


〝伝令〟

〝伝令〟

〝伝令〟


〝――対追加〟


〝対追加〟

〝対追加〟

〝対追加〟


〝――サイ、トビ。イル、エン〟


〝サイ、トビ。イル、エン〟

〝サイ、トビ。イル、エン〟

〝サイ、トビ。イル、エン〟


〝解〟


〝了解〟

〝了解〟

〝了解〟

〝了解〟

〝了解〟

〝了解〟


 どうやって離れた位置でやりとりしているのか。相手は何者か。と、推察するのは後回しとして…………十一人。

 間違いなく少年を狙っている。


 無作為に運ばれる音の中から特定の音だけを選別し、位置を把握する。

 少年の左手前方に二人、右手に二人、後ろに回り込もうとしているのが二人、最後に指示を飛ばしている男のところに、五人。


 少年の目標は……指示してる男のところか?


 と、思ったら後ろに回り込もうとしている二人に進路変更をした。

 向こうも結構な速さで移動しながらの距離だから、すぐには追いつかない。



〝アーリー、魔物? それともイーズァの〟



 後ろで、姉御が旦那さんに確認しているらしい。



〝どうかな。イーズァさん関係には違いないと思うけど〟

〝そういう事は早く言いなさい。ミア君を――〟

〝エリーゼ。あのイーズァがいるんだよ? それにミア君は十分強い。慣れない得物で私に一太刀浴びせたんだから。見てたでしょ?〟

〝……でも、相手はフーリとかじゃ〟

〝それでも大丈夫。

 ミア君が帰ってきたら聞いてみたらいいんじゃないかな? 彼なら話せるなら話すと思うよ〟

〝逆にイーズァには何も聞くな、言うなってわけ?〟

〝だって私は魔術師じゃないもん〟

〝もんとか言うな。可愛くないのよ〟

〝それはそうだよ。可愛いのはエリーゼだもん〟



〝…………………はぁ〟



〝エリーゼ〟

〝なによ〟

〝帰ろっか〟

〝……本当にミア君は大丈夫なの?〟

〝大丈夫〟

〝……………分かった〟



 やっぱり旦那さんはすごい。あの姉御を丸めこんでいる。些か俺の評価が過大だと思うが、姉御を丸めこむ為なら仕方ない。

 姉御と旦那さんが相手から遠ざかるように離れていくので、もういいだろう。そちらの音を選別する事を止める。


 俺は昔に比べ落ちた体力に舌打ちしながら右前方へ走った。

 どうやら俺もターゲットされたらしく、少年の後ろに回り込もうとしていた二人が微妙に進路を変えている。少年が方向を変えたのはそれに気づいたから……だろうなぁ。


 この雑木林の中で足を取られる事もなく、音少なに走っているところからして鬼ごっこの進化系で遊んでいるいい歳こいた大人という可能性は限りなく低い。

 少年の足取りに迷いといったブレは一切ないので、慣れているのだろう。その足音だけを聞いていれば大丈夫なような気もしてくるが………


 ………俺の攻撃、通っちゃってたからな。


 何にも考えていなかったが、こめかみ狙ったアレが通るとは思っていなかった。と、今さらながらに胆が冷える。冷静になればなるほど何をしでかしたのか冷や汗がだらだら出てくる。


 子供相手に急所攻撃。


 ないわ。ないない。


 少年なら上体を逸らすなりして避けれるだろうに、反応が遅れた。遅れて、腕でガードするのがぎりぎりだった。


 それにも気付かず本気でやった俺はもう……

 まてまて。とりあえずそれは置いといて。


 後悔の深い海にどっぷり沈みそうになる思考を切り替え、声を掛ける。


「借りてばっかでごめんな。悪いんだがもう少し、貸してくれないか?」


 返ってくる暖かな風に何となく背中を押されたような気がした。

 何でこうも俺に好意的なのか首を傾げるばかりだが、武器なしの俺にとってはこれ以上心強いものはない。

 時間を見つけては彼らとの認識を確認し合言葉を決めてきた。ただ、まだまだ調整しきれていない部分もあるので魔術と同等に扱うとはいかないが、それでも理論上制限なしの魔導は間違いなく俺の唯一の切り札。


 使えるなら魔術の方が明確な操作が出来て便利なんだけどねぇ……


 我ながら贅沢な悩みだなと苦笑を口元に浮かべて、ごまかし(シェル)を形成。


 これだけの人数相手に立ち回るなんて初体験。

 青年の時のように刃物が怖いのだと思考を逸らす余裕も無いだろう。表情筋を笑いの形に固定させてあるふぁーはに期待するのがせいぜい。


 助けに行って膝震えて動けませんとかしゃれにならないんだからちゃんと動けよ、俺。


 俺は足を叩き、前方から飛んできたナイフを身を沈めて躱し、そのまま速度を緩めず突っ込んだ。

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