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第五十八話 姉御はやっぱり姉御

 どうぞと出されたお茶を啜り一息。


 お茶うけに出された木の実の饅頭もどきを口に入れると、干した(ルココ)が皮に練って入れてあり自然な甘味が広がった。


 うまー………


 あまりのうまさにはぐはぐ無心で食べていると、脳天にぺしっとチョップを喰らった。


「食べてばかりでないで説明なさい。後でおごってあげるから」

「さすが姉御!」


 ごっ


 拳が降ってきた。


 ………さすが姉御。


 口に出して言う勇気は無かった。

 鋭い眼光に凄まれて、俺は泣く泣く三つ目の饅頭を置いた。


「こっちは心配してたのよ? いきなり姿を見せなくなるんだから」

「………すみません」


 大人しく頭を下げると、下げた頭に手が置かれた。


 反射的に身体が強張る。


「無事でよかった」


 ゆっくりと動く手の動きに、撫でられているのだと理解して、俺は『あははは』と乾いた笑いをとりあえず出しておいた。


 ………っくりしたー………アイアンクローかまされるかと思った……


 内心の動揺を押し殺し、顔を挙げて頭を掻く。


「少し太った?」

「えー? 太りました?」


 まぁあれだけ馬鹿食いしていたら太るだろう。普通は。


「顔色は……なんだかよくないけど、でも昔より肉がついたんじゃない?

 ちょっと蹴ったら折れるんじゃないかと冷や冷やしてたものよ?」


 蹴るなよ。つーか、そんな想像してたのかよ。


「それで、何で王都(こんなところ)で行き倒れそうになっていたわけ?」


 俺の半眼をものの見事に無視してくれるエリーゼさん、いや姉御。


 ……うん。やっぱ姉御だわ。若干の理不尽さとか姉御にふさわしいわ。


「まぁ何と言うか、急斜面を全力疾走で駆け上ったあげくに一昼夜フルマラソンをしたような結果?」

「相変わらず意味の分からない事を」

「取り柄なもので」

「照れるんじゃない。褒めてない」

「いや、そんな、そこまで念入りに言わなくても」

「さらに照れるな」


ごん!


 威力強化された拳に見舞われた。

 姉御も相変わらず理不尽だ。


「で、本当のところは?」


 いや本当のところはと言われても、さっきのは結構的を得た表現だったんですけど……


 俺は痛みを通り越して痒みをおぼえる脳天を掻きながら、どう言ったものかと考えた。


「………家出、かな?」

「家出、ねぇ……」


 その年で? と、語る姉御の視線から目を逸らし、俺は饅頭もどきを再び()む。


「まぁいいわ。今は証が無いのよね?」

「ふぁい」

「仮証を作ってあげるから、後は再発行するなり取りに戻るなり何とかしなさい」

「恐れ入ります」


 渡りに舟。地獄に仏。さすが姉御様。

 なむなむと拝んでいると、また叩かれた。


「髪は染めるの?」

「いえ、もう染めません。

 姉御は………エリーゼさんは、いつから王都(ここ)に?」

「今度言ったら出禁くらわすわよ。ここには二年前に旦那と来たの」


 だ………………………


「何、その顔。私が結婚するのはおかしいと言いたいの?」

「いやいやまさかまさか。ちっともまったくぜんぜん思ってませんよ!」


 全力で否定する俺を、姉御は黙って見つめている。

 

 本当に本当ですよ? 姉御はすばらしい女性なので結婚しない方がおかしーなーとずーっと思ってましたよ?


「ミア君」

「はい!」


 野戦の時のごとく機敏に返事をする俺に、姉御はくすりと笑った。


 あ、この笑いは大丈夫だ。魔王降臨の合図ではない。

 あーこわ。本当に勘弁してほしい。大男でさえこの姉御は吹っ飛ばす事が出来るのだ。

 魔王が降臨された日には、俺は誰に骨を拾ってもらったらいいんだ。






「明るくなったわね」


 ………


 予想外の指摘に、俺は五つ目の饅頭もどきに手を伸ばしたまま動きを止めてしまった。

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