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第五十二話 前哨戦

気づかないうちに評価が、お気に入りが・・・∑( ̄[] ̄;)!

(導入部分がしんどいのに)ここまで読んでいただき本当に有難うございます。


「落ち着きましたか?」


 お前も笑いは納まったか。


 鼻を押さえながら俺は無言で頷いた。


 目の前の男は、黒人形が言っていたカルマ。

 少年を抱えてガリガリ体力削られながら丸一日空を飛び続け、王都についたら再び出てきた黒人形に道案内されてこの男の家までたどり着いた。

 とにかく少年を男に預ければいいと思っていたら『手伝ってくれますよね』と強制参加となり何すりゃいいんだと思う暇もなく言われるまま従って、少年の体温が戻り始めたのを確かめて………その辺りから記憶がない。


「少年は」

「心配はありませんよ。様子を見ますか?」

「いいの?」

「ええ。どうせまだ目を覚まさないでしょうから」


 膝に手をつきぷるぷるする足で立ち上がると、こっちこっちと男は廊下で手招きしていた。


 いや、ちょっと、あの…………えぇー………普通に歩かれたら、ついていくのしんどいんですけど………文句言える立場でもないので行きますけど。


 二つ隣の部屋は木目を基調とした家具で統一され、その中で少年は穏やかに眠っていた。

 『すーすー』と小さな寝息が聞こえ、血色の戻った顔を見て、俺は思わずへたり込みそうになってしまった。


「自業自得です。あなたはあまり気に病まなくても良いですよ」


 力が抜けかけた俺に男は言った。


「自業自得?」


 男は少し考えるように少年と俺を見比べ、天井を見上げたかと思うと『それもいいですね』と呟いた。


 思わず俺も男が見ている天井を見たが、別段変わりはない。

 この男も精霊が見えるとか…………あ。


 身体を包む柔らかな温もり。さわさわと耳元で重なる幾つもの音。

 あの瞬間、ぷっつりと途絶えてしまった感覚が戻っていた。


「その疑問についてもお答えしましょう」


 くるりと方向転換して出ていく男。


 いやだから、本当にきついんですって。息あがってるからね、俺。

 手を貸せとは言わないから、せめてゆっくり歩いて。


 壁に手をつきながら俺が寝ていた部屋に戻ると、既に椅子に腰かけ寛いでいる男が目に入った。


「どうぞ」


 笑顔で椅子を勧められ、俺は何かもうどうでもよくなってよたよたしながら男の向かいに座った。

 さっきまでクッションに凭れるものやっとだったので、座っているのもしんどいかと思ったが、存外起きている事に身体が慣れてきたのか背もたれにもたれれば姿勢を維持する事が出来そうだった。


「さあ………どこからお話ししましょうか」


 手を組んで目を閉じ首を傾ける男。


「あのぉ」

「はい」

「もしや少年の事を話すつもりでしょうか?」

「お察しの通りです」

「いいんですか? そんな事をして」


 言外に本人以外から聞く気はないよと言ってみる。

 誰だって許可なく自分の事をぺらぺらしゃべられていい気はしない。


「いいんです。あの子もあなたと同種ですからね」

「は?」

「そうですね。白の宝玉をご存知ですか?」


 男は思い出したように立ち上がり、先程の飲み物をコップに注ぐと差し出してきた。

 『あぁどうも』といいつつ俺は受け取り、口をつける。


 意識しないようにしているが、口をつければまだ身体が疲弊しているのがよく分かる。

 喉が潤った事で満足し、寝てしまいたいと訴える本能を無視して俺は男の問いに答えた。


「いや……少年の事だろうと思うけど……」


 どんな意味を持つ二つ名なのかは知らない。


「騒乱の最中に現れ、全てを白の光で呑みこみ、跡には何も残らない」


 うん、全くわからない。


「具体的には八十年前のグレリウスとの決戦。最近で言えば小さいですがスルの内乱です。

 八十年前はグレリウスとの国境付近が全て更地となり、スルの方では北の沿岸部が崩れ落ちたそうです」

「光に呑まれて?」

「光りが消え去った後には。

 それ以前にも様々な国の栄枯盛衰、その変わり目に目撃されています。

 その大きな力を手にすれば、この世界を手中に収める事も可能。しかしいくら手を伸ばそうとも霞のごとく消え去る。それゆえに至宝、白の宝玉と呼ばれ始めたそうです」


 俺はこめかみに指を当てた。

 男の言葉をそのまま受け取るとだ、少年はとんでもない破壊者になる。しかも八十年も前となると……


「あぁ、白の宝玉とは人物を示すのではなく力の事を示しています。

 常識的に考えて、八十年以上も昔の人物が生きているわけないでしょう?」

「そりゃそうか。じゃあ少年は誰かにそれを?」

「でしょうね。誰から受け取ったのかはわかりませんが、私がスルで会った時は既に手にしていました。

 その力で何をしていたと思います?」

「さあ」


 考える気の無い俺の返事に、男は掌を出した。

 もう飲み物はいいですと手を挙げコップを返すと、再び向かいに座り楽しげな顔を隠そうともせず俺に向ける。


 ………なんですか。なんなんですか。俺はノーマルですよ。


「災厄の種――は、さすがにご存知ないでしょうね」


 …………違うか。違ったか。いやいや良かった。

 だってこの家、他に人の気配がないのだ。目の前のダンディな男は着ている衣服も良質なもので、とてもただの平民とは思えない。元魔導師団長だというなら、尚更この無人の気配は不自然だ。

 貴族であれば多かれ少なかれ従者やらなんやらに世話させる。地位が高くなればなるほどその傾向は高まるので、ここまで人気が無いとなると、何か理由があるのではと勘ぐってしまう。

 つまり、変態だから人が寄り付かないとか。


 変態ではなさそうなので『ないです』と素直に肯定すると、頷かれた。


「それが普通です。

 災厄の種は旧き時代の遺産。いつの時代に現れたのか定かではありませんが、少なくとも最古の文献よりも過去に現れたのは確かでしょう。

 この災厄の種、名前からして禍を連想させませんか?」


 んー……どうだろうか。禍転じて福となすという諺もある。


「あなたが見た赤い花、あれも災厄の種の一つです。

 名は炎獄の貴婦人。火の力を持ち、触れたモノ全てを焼き尽くすと言われています。間近で見ていかがでしたか?」


 はいちょっと待て。何でお前が赤い花とか、俺がそれ見たとか知ってんの。

 言っておくが俺は話していない。これだけはいくら意識が朦朧としていたとしても断言できる。


 ――はっ! まさかここに来て本物のエスパーか!?


「違いますよ」


 笑いを堪えるように男は言った。


 いや、今のこのタイミングで十分エスパーだよ。


「どうして私が知っているのかは、後で種明かしをしましょう。

 それで、どうでした?」

「どう……と、言われても……。強いて言うなら……生理的に受け付けない感じ?」


 男は何故かさらに楽しそうに身を乗り出した。


「生理的に? それは見た目でしょうか? それとも言われた内容で?」


 見た目もかなりくるものがあった。言われた内容には突かれたところがあった。

 だがそれよりも、


「……………存在そのもの?」


 あれを見るまえから、認識するまえから悪寒がしていた。

 何か良くない。近づいてはいけない。そんな警告を本能がばっしばっし送ってきていた。


「……なるほど。それは良かった」

「良かった?」

「いえ、こちらの事です。

 ところであの子の事はどう思いますか? 怖いですか?」


 話をぶつ切りにしたな、この男。自分からふっておきながら。


「特には。見ていた限り、不器用そうな(人がいい)少年だなぁとは思いますけど」

「それはそれはありがとうございます」

「何であなたがお礼を言うんですか」

「一応保護者ですから」

「保護者?」

「はい。あの子には身寄りがありませんでしたから、私が後見人になりました。

 養子でも良かったんですけど、あの子に断固拒否されてしまったので仕方なく」


 『父上と呼ばせてみたかったんですけどね』と愚痴る男は心なしか萎んで見えた。


 凹む男はおいといて、納得。

 そりゃ魔術使えて当然だわ。保護者が元魔導師団長って学びたい放題ではないか。

 なんで学院なんかに入ってきたのか。


「あの子は恐れられる事の方が多いですから、保護者としては嬉しいです」

「……言わなきゃ誰も分からないんじゃないですか?」


 男は首を横に振る。


「どこでも嗅ぎ取るものはいます。それこそ誰も足を向けない秘境にでも籠っていれば別なのでしょうが、生憎白の宝玉には目的がありそれも出来ない」

「目的……ですか」


 まぁ人それぞれ目的はあったりなかったり、重要だったり、そんなに重要だと思ってなかったり。

 少年にとっては重要だという事だろう。そういう事情があるなら閉じ込めるのはどうかと思うし、男もそうしていないところを見ると少年の意思を尊重しているのだろう。


「白の宝玉の目的は」


 って、あんたそこまで言う気か?

 いくら保護者とはいえ、そこまで勝手に言っていいのか? 俺なら嫌だぞ。


「あの、それ以上は――」

「災厄の種を破壊する事です」


 …………まぁいっか。俺が聞かなかった事にすればいい。


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