第四十九話 役目
出演してないのにCP入った( ̄Д ̄;)
有難うございます。
クロクロ何気に認識率高いのか。
掌を虹色の結界に当てる。
返ってくるのは固さではなく弾力のある抵抗。力を込めれば込める程抵抗は増し行く手を阻む。
行く手を阻むそれは逆に内部で荒れ狂う炎も阻んでいる。
目の前で木々の背を越す炎が猛っているというのに、熱の一つも感じられない。
「白の宝玉の仕業か」
「避難は?」
「避難誘導はここの人間に任せた」
「まさか学院の外に出しただけではありませんよね?」
「ルーネ学院長の指示が通るのは学院内だけだろ?」
私とラウネスの視線が絡む。
そうするしかない現状も理解しているが、それでもそんな対応では避難出来たうちに入らないと非難しそうになる。
あれらが表舞台に最後に現れたのは百年以上も昔。
話通りであればセントバルナ国内だけの被害では収まらない。本当に避難を考えるのであれば国外へ、さらにその遠くへ行かなければならなくなる。それでも完全に避難出来たとは言い切れず、結局あれを眠りの状態に戻さなければ安全は保障されない。
「ルーネ、柱になる気じゃないだろうね」
視線を外し結界解除に意識を戻した私にラウネスは言う。
「それが白の民の役割であり、私がここに遣わされている意味です」
「セントバルナは何故あんたがここに拘るのかも分かってないのに?」
滲む不快な表情に、言わんとする事は分かった。
守られている事にも気付かず、権力の一旦としてお前の力を利用するだけの国なのに、助ける必要があるのか。
その問に対する答えは、一つきり。
「白の民は秩序の番人。セントバルナが理解していない事こそ望ましい状況です」
八十年前も大惨事になりかけた。その時どうやって事を収めたのかまでは聞いていないが、一族の誰かが柱となったのだろう。
今回は白の宝玉の仕業か、それとも嗅ぎ取った何者かの差し金か。誰が何の目的で接触したのか、いずれにせよ今は目覚めてしまった災厄を再び眠りにつかせなければならない。宿主が白の宝玉であろうと学生であろうとやるべき事は変わらない。
この地に眠っていたのは炎獄の貴婦人。
完全な目覚めを迎えれば目の前の猛火など可愛いと思えてくるのだろう。
かつて三つの国を灰塵と化し朱の民によって眠りにつくまで多くの血を啜ったと言われている。
「他に手はないのか」
「どんな方法が? 破壊出来るものならこんな所に残っているはずがありません」
「………」
無言となったラウネスが何を考えているのか慮る暇は無い。
力を込めれば込める程反発が強まる結界は秀逸の一言に尽きる。穴も綻びも無い。
出来れば人ひとり通れるだけの穴を空けるだけにしておきたかったが、ここまで強固だともはや壊すしかない。
息を吸い、両手を重ねる。
「果てなき漆黒よ 鎮め沈め――」
パリン
いざ破壊しようとしたその時、唐突に結界が崩れた。
あれほど完璧だった結界が、いとも容易くガラス細工が砕けるように散った。
「くっ」
「っ」
いったい何がと思ったその時には内側からは膨大な光が溢れていた。
とっさに手を翳しても目を焼く苛烈な白の暴流。
光りが収まったのは半刻は優に過ぎた頃。それまで完全に視界を奪われ、光が収まった後も暫く視力が戻らなかった。
漸く視力を取り戻したとき、猛る朱はその姿を消していた。
結界を境として、くっきりと残る焼け跡はまだ熱を放つがそれもすぐに失われる量。
「これは……」
ラウネスが掠れた声で呟いている。
その声で私は自失状態から立ち直りすぐに探索を掛けた。結界が無い今、阻害される事なく三人の反応が確認出来た。
「三名、生きています。一人危険な状態のようですが」
「宿主か」
「おそらく。精神の方も壊れているでしょう」
「宿主が使い物にならなくなったから離れたのか?」
宿主から離れるのは宿主が死んだ時だけだと聞いている。
危険な状態とはいえ、息があるのに離れるとは思えない。
「分かりません。行ってきます」
「一人で行かせるわけがないだろ」
私が走り出せば、ラウネスはぴたりとついてくる。
引き戻すよう言おうとして、やめた。生存している学生を逃がす手は必要だ。
炭化した森を駆け抜けていると、反応が二つ遠ざかった。
速さ、そしてその遠ざかる位置に足が止まりそうになった。
「どうした」
「反応が二つ、離脱しています。速度と位置からして走天です」
「っち」
私はどちらを優先すべきか逡巡した。
一人は留まっている。そして危険な状態と思われる一人を抱え、もう一人が走天を使っている。
宿主と思われる者を追うべきだと思いながら、何かがひっかかる。
何が起きているのか状況が分からない事こそ危険な気がした。
「二名には応援を当てます」
空を二度きり、鴉を飛ばす。
「鴉……イディか」
「こちらは状況把握が先です。
……何かおかしい気がしてなりません」
胸騒ぎ?
違う………そうではなく、何か勘違いを犯しているような不安。