第四十五話 第二ラウンド(団体戦)開始
「先に聞いてもいいか?」
「はい」
「フェリアを助けられるか?」
「………難しいです。意識があればまだ可能性はありますが見る限り完全に取り込まれていますから」
「意識があればなんとかなるか?」
「アレは意識の塊のようなものです。宿主を拒絶している場合、宿主の意識が強ければ反発し合って分離させやすくなります……あくまで程度の話で確実ではありませんが」
「少年は出来る?」
「善処しますが……」
「分かった」
「……何かを聞かないのですか?」
「確認しときたいが待ってくれないだろ。少年の質問は?」
「………さっきの魔導、祝福は抑えているのに何故あんな? それにあの言葉は?」
「抑えてるのは授業で習う魔導を模した魔術の形態だけのようだ。定型の手順じゃなくて直接頼んだ場合は関係ないらしい。言葉は何度か精霊と現象を確認し合って決めた……合言葉のようなものだな。単語ごとに意味を持たせているから応用はそこそこ効く」
「……それは戦う意志があるという事ですか?」
「言わずもがな」
俺の言葉に少年は眉を寄せた。
「正直、あなたにも逃げてもらいたかったです」
「そりゃこっちが言いたい。コレの原因は俺だろうから」
でも対処法を知らないので、知っていそうな万能少年に協力を求めるしかないのが非常に情けない。
とにもかくにも、のんびりしている暇は無い。
木々が炎に炙られ爆ぜる音が幾つも重なる。
少年の張った守りの外は燎原之火。
枯れ野ではないにも関わらず視界全てを覆い尽くすように朱が猛っている。
「索敵を使えるか?」
「この一帯に僕ら以外はいません」
「距離は」
「二百歩以内は。あなたの班が近いですが、先生と宿営地に向かっています」
あぁもう流石万能少年。打てば響くとはこの事だ。思わず口笛を吹きたくなる。吹けないけど。
「ringlus kiht vesi tuul」
俺の周りに水と空気の膜を張ってもらい、止めようとする少年に大丈夫だと言って少年の張った守りの外に出る。
少年はまた分割するように俺に守りを残したが、たぶん次の手で意味はなくなるだろう。
「pikendada levik keelduma」
掌に硬式サイズの透明な玉を出してそれを真上に投げ放つ。
玉は少年の守りを突き抜けて飛んでいき、ある程度の高さに上ったところで破裂、そこを頂点としてドームを形成するように虹色のビロードが垂れ花弁を閉じ込めた。
「あれは……」
言わない限り、あの効果は持続してくれる。
こういう手合いのものは魔術が主力そうな少年がやるより魔導の俺がやった方がいいだろう。
あれで外部への被害は防げるから、あとはこの中。
「kontsentriline väga vesi kolm korda」
俺を中心としてプール一杯の水が空に広がり、再び叩きつけるようにして降り注ぎ炎を押し流した。
強制的に色を剥され、姿を晒したのは炭化した木々と黒ずんだ地面。来たときの食材溢れる青々とした姿は欠片も残っていない。
そして一段窪んだ同じその場所に、フェリアは居た。
囚われ人のように腕を交差させ、自らを抱くフェリア。それを包み込む薔薇はまるで貴婦人のドレスのごとく無暗に裾が広がり、近寄る事も大変そうだった。
少なくとも、俺の三段ジャンプで届きそうにない。呑気にえ~いとジャンプするのを待ってくれるとも思えない。
口元には酷薄な笑みを、瞳は昏い灯を。
逸らされる事なくずっと向けられる視線に、俺はそうだよなと苦笑して息を吸った。
「フェリア! 第二ラウンドの用意はいいか!」
俺の問いかけにフェリアは交差させていた腕を解くと、腰を折り右手を前に差し出した。
さながらダンスに誘う貴公子のような仕草に、一瞬ハテナが浮かんだが辺りでカサカサと変な音がしてそちらを見れば、質量に任せて地面に叩き落した花弁が燃える事なく蠢いていた。フェリアが上体を起こしながらふわりと腕を持ち上げると、それに誘われるように花弁も伸び上がり――人型となった。
下半身は先にいくほど植物の根のように分かれうねり、手先は蔦のよう。頭部は幼児が書く花の絵のような形。全体的にのっぺりとした質感で、先っぽは人の形から外れているもののそれ以外はまさしく人の形。
そして、顔がある部分には大きな口のみがあった。
無数にあった花弁が、ひしめきあう花人間に形態変化したのを見て、少年は一言呟いた。
「これでは団体戦ですね」




