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第四十話 監視者

「覗きとは、あんまり趣味がよくないね」


 生まれた殺気に、僕はゆっくりと振り向いた。

 互いに視認するのも難しい距離。けれど闇に慣れきった眼は、はっきりと療養室の女性を映した。

 それはあちらも同じで、宿営地に戻って行った二人の方向を見てから、僕へと視線を移し微笑んでいる。


「そんなにあの弟君が気になるのかい? 『白の宝玉』」


 彼女にその名を呼ばれるのは皮肉としか思えず、唇が歪む。


「まさかあの『白の宝玉』がこんな子供だったとはね。驚きだ」

「流石は竜殺し。それとも『白の民』とお呼びした方が良いでしょうか。

 調べたのは長老達ですか?」

「……お前、私達の事を」

「あなた方と争うつもりはありません」

「よく言う。方々の国を荒らしておいて」


 流れた噂を寄せ集めればそうなるだろう。反論する材料は僕の手の中には無い。それに結果から見ればその噂も間違いではないから、反論する気も無い。


「カルマをどうやって脅したんだい?」

「何も。彼には何も話していません」

「それを信用するとでも?」

「お好きなように」


 ふぅんと言って腰に履いた剣を抜き放つ噂に名高い最強の女傭兵、竜殺し。

 放たれる殺気も重く鋭く、慣れた僕でも肌を刺す感覚に緊張する。


「あの弟君は、お仲間かい?」

「いいえ。ここで初めて会いました。

 僕よりもあなた方の方が気にされているようですが? こんな所まで監視をして」

「生憎、今の監視対象は弟君じゃない」


 竜殺しは口の端を吊り上げ、僕の首に剣をあてた。


「目的は?」

「あなたにお話しするつもりはありません」

「この状況でそれが通ると思っているのかい?」

「どうでしょうか……世の中、知らない方がいいという事もあると僕は思いますが」

「なるほどね。そういう事もあるかもしれない。だが、この件についてそれは無いね」


 僕は剣に視線を落とし、その上にトンと手を乗せた。


「動くな!」


 ピリッと首に痛みが走る。


 迷いの無い殺す者の覚悟を持った目は強く、揺るぎもしない剣に苦笑が零れる。

 これだけ強い者もいるというのに、どうして自分がこの役目を担っているのか不思議でならない。


「過敏になっているのは、ここが蒼の聖地で炎獄が封印されているからですか?」

「っ……やはり知っていたか!」


 剣に込められた力を、今度は押さえる。

 でなければ首を飛ばされる。


「誤解しないでください。今は炎獄に手を出すつもりはありません」

「『今は』だと?」


 さすがに片手では抑えきれず、両手で剣を抑えながらギラギラとした目を向ける竜殺しに首を傾げた。


「あなたもご存知でしょう? 侵入者の件」

「キルミヤ・パージェスとレライ・ハンドニクスが遭遇したという者の事か」


 そう。それ以外にも居たけれど。


「あれはお前を狙っていた。相当しつこくな。他にも何度動かされたか」


 襲撃が少なかったのは、やはり竜殺しが対処してくれていたからか。

 申し訳なかったなと思うが、ここで頭を下げても彼女には受け入れられないだろうし説明しろの一点張りだろう。

 話を続けた方が無難だ。


「僕を狙ってはいますが、彼らの狙いは僕だけではありません」


 というより、狙いは僕であって僕ではない。


「――まさか……炎獄を………そんな筈はない! あれはずっと守り続けてきているものだ!」


 声を荒げた竜殺しを見て、白の民のあれへの危険性認知は健在だと、少し安堵する。


「そうですね。まだ見つかってはいない。けれど、永遠に見つからないとは限らない」

「何が言いたい………」

「侵入者の素性は割れましたか?」

「……………」

「大変でしょうね。一つというわけではないでしょうから」

「他人事のように……」

「すみません。今回に関しては僕の責任が大きいですから、万一の時は責任を持って炎獄を頂きます」

「お前……あれが何か分かっているのだろうな?」


 その問いかけに、思わず僕は微笑んでしまった。


「今となっては、誰よりも」


 知る者(望んだ者)は、殺してきたのだから。


「お前………何者だ」

「ご存知の通り、白の宝玉です」

「それは通り名に過ぎない!」

「そう言われても僕の名前を憶えている者などいませんから、僕も忘れてしまいました」

「目的は! 何を理由に争いを引き起こしている!」

「何度も言いますが、あなたに話すつもりはありません。

 いずれ、あなたの妹さんから長老達に伝わると思いますので、その時に聞いてください。

 長老達が話してもかまわないと判断すれば、教えてくれるでしょう」

「貴様……!」


 何が彼女を刺激したのか、込められた力が跳ね上がった。


 っ!


 寸前で上体を逸らし避けたが、後ろにあった木は半分近く幹を切られていた。


 さすがに……竜殺しは強いですね……

 

 けれど僕も死ぬわけにはいかない。

 二度目の斬撃が飛んでくる前にその場を退き、三度目の前に口を開く。


「考えませんでしたか? 僕が炎獄の事を知っているなら、その封印の場所も知っていると」

「っ……!」

「腕の一本や二本とられる事を覚悟すれば、あなた相手でもたどり着きます。封印が何に弱いか、炎獄が何に反応するのか、その様子では知らないという事はないですよね」


 ぎりぎりと奥歯を噛みしめる音。

 剣を握る手も白く、どれ程の力が入っているのか想像したくもない。


「あなたからしてみれば僕は捨ててはおけない存在だと思います。

 けれど、僕は本当に争うつもりはありません。もしそうなら、このような話もしていません。

 今回はご迷惑をおかけしたと思っています。妹さんも戻られたので事情を話したらすぐにここを離れます。それで剣を納めてもらえませんか」

「あれは、妹ではない!」

「……………分かりました。学院長に僕の目的を話したらすぐにここを離れます。それでいいですか」

「…………」


 ぎらぎらとした目は変わらないまま、竜殺しは静かに剣を鞘に納めた。

 何が逆鱗に触れたのか分からなかったが、改めて容姿を見れば少しだけ理解出来た。


 学院長を務める彼女の妹は白の民そのものの色を持っている。それに対して竜殺しは見事にその色を継いでいない。

 まさかこの時代になってもなお、そんな事に重きを置いているとは思わなかったから、意外だった。


「一つ、いいですか?」


 射殺しそうな――否、射殺す気の眼が僕を刺す。


「キルミヤ・パージェスを監視しているのは何故ですか?」

「貴様に話す事など無い」


 ご存知ないですか……白の民の役目と思われているといったところでしょうが……


「彼は、何も知りませんよ。白の民が危惧するような事は何も」

「話す事など無いと言っている」

「……そうですね。余計な口を挟みました。では、失礼します」


 頭を下げ、背を向ける。

 背を向けた瞬間殺気が膨らんだが、物理的に何かが来る事は無かった。



シリアスが続く……

次は、次こそは………

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