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第三十一話 聞いてない・・・

 段々溜息をつく回数が増えていっている気がする。

 それもこれも坊ちゃんの決闘騒ぎ、元をたどればクロクロが原因だ。

 順調に落ちこぼれ街道を突き進んでいたというのに今では実力を隠していると囁かれるようになり、何より実技で出来ないと言っても何度も何度もやらせようとしてくる。魔導を模したものならばまだよいが、純然たる魔術となってくると、出来るとは言えない。


 さあここで問題が出る。何が模しているものか、純然たる魔術なのか、どうやったら分かるのか。

 魔術と魔導の区別もされていない教育体制では誰に聞くわけにもいかない。少年も宣言通りアナタドナタデスカ状態に無視してくれている。こうなったら取れる手段はただ一つ。


 …………勉強。


 つかれた。ほんっとうにつかれた。

 法則を見つけるまでどんだけ掛かったか。


 いわゆる上級魔術と言われる類のものは総じて純然たる魔術に部類される。

 推測半分の見解だが、同調力があまり無い者では最大出力もあまり大きなものにはならず、研究対象としての魅力が無かったのではないかと思われる。

 少年曰く、魔術師がガス欠起こした時用の非常手段なので、そもそも高出力を期待もしていなかったのだろう。

 ついでに、上級中級初級の判断基準は扱う難しさ半分、威力・効果が半分。従って高威力・高効果でないものは中級とされる模様。役に立たないものは評価されないというのは中々シビアだ。


 そんでもって中級はほとんど魔術。一部が違う。

 簡単な見分けは口頭契約の有無だが、魔術もそれと同様の手順を踏むものがあるのでそれだけでは分けられない。で、次の見分けはその内容。魔術で使用される文言と魔導を模しているもので使用される文言は異なる。

 何故異なるという事が分かったかというと、そうかなと思われるものとそうでないもので対比表を作ったから。

 何で文言の対比表を作るに至ったかというと、文言どころじゃなく動作から系統から思いつく限りの要素を表にしたから。


 角が当たったら泣く程痛いあの本が相手。しかも何十冊も。果てそうになった。

 疲れるわ飽きるわめちゃくちゃ面倒臭いわ。状況が状況でなかったら絶対にしなかったと確信を持って言える。


 いやもう本当に、仕事でもここまで短期間で調査した事ないぞ俺。


「いい加減真面目にしろよ」


 目の前の青年にそんな事を言われてしまった俺。

 そんな青年に自信を持って言おう。

 

「通算人生中、最高レベルの集中力を発揮し続けた俺の残体力はゼロだ」

「なんやそれ。どーでもええからさっさとし」


 なんだか投げやりな調子の青年と俺は、ただ今実技の補習中。

 青年は出来そうなのに出来ないという何とも惜しい部類だが、俺は完全放棄。

 お題が純然魔術……純魔でいいや。それなので、やる気が出るはずもない。

 ほげーとしながら両手を前に突きだして同じ言葉を繰り返す青年を体育座りで見学していた。

 教師は居ない。最初は居たが、途中で自習と化してしまった。職務放棄万歳。これで青年がいなければさっさと宿舎に戻れるのだが。


「ほら、見てないでコントロールの練習でもし。避けとったら上達せぇへんで」


 その通りだが、その件については理由を聞いてスッパリ諦めている。

 少年のおまじないがいつまで持つかは分からないが、なるようになれだ。対策は一応考えているし、それにおそらくその時までここに居られるとは考えていない。


「そんなんやったら野戦で苦労するで?」

「やせん?」

「野外戦闘実習や」


 おいおいおい……いきなりキナ臭いぞ。今まで実技に講義とごくごく一般的な学問の一つって感じだったのに。


 屈強な戦士はもちろんですが、それよりも一人で何百という兵力となる魔導師が必然的に求められ――


 魔導師は兵士。それも絶大な兵器という役割。

 クロクロの言葉が蘇り、思わず顔を顰めてしまった。


「んな顔せんでも危険は無いんやで。やる場所も学院奥の森や」


 あれ? 学院奥の森って少年と入ったとこじゃ?

 ん~やっぱりは普通は入らないところみたいだ。


「立ち入り禁止にはなってるんやけど、魔物はおらんし、害獣も気性荒いのおらんて聞く」


 居ないどころか、一匹たりとも出会ってない。


「まあ部隊行動が出来るようにっていう練習なんやろうな。確かキルミヤはサジェスとの班だったと思うで。上級生はさすがに覚えてへんけど」

「は!?」

「四年までで、各学年二人ずつの八人が一班になるはずやで」

「へ~縦割りか。連帯と規律がメインになりそうだな。ってちがーう!!

「怠けてたら容赦なく先輩にたたかれるで」

「違う! そこじゃない! そこは気にしてない!」

「?」

「ハテナじゃない! 何で俺が坊ちゃんと一緒の班なんだよ!」

「あー……それはなぁ、俺かてそう思うけど、ここで和解しとけゆうことやろ」

「出来ればとっくにしてるわ!」

「せやな」

「えーん。青年の反応が薄いよー」

「泣くな泣くな。分かったから」


 適当な青年の反応も分からないでもないよ。どうしょうもないもんねぇ。

 ないけどもうちょっと付き合って欲しかった……


「ちなみにいつ?」

「野外? 来週末やで」

「早っ そんな早いの?」

「………入学の時に話あったで」


 入学の時ですか。

 はい。しっかりサボってました。少年と。


「内容はあれか。行軍練習みたいな?」

「大体はな。戦闘訓練も兼ねてるから一回ぐらいは害獣とやりあう事になるって聞いとる」


 害獣か……まぁ害獣ならなんとかなるか。先輩方が居るならばバッチリそちらはお任せして、一年生(役立たず)はプルプル震えて縮こまっていよう。それはそうと、


「なぁなぁ青年」

「なんや」

「収束点どこにしてる?」


 手元を指さし聞いてみれば、は? という顔をして右手を出した。


「青年ってさ、利き手左だよな」

「あぁ、それが?」

「収束点を左にしてみれば?」

「はあ?」


 教科書とも言える魔術書では、収束点の基本中の基本は右手とされている。

 青年が右手を出したのもそれは当然の事で不自然ではないのだが……


 訝しみつつも青年は再び手順を踏み、今度は流れが左手へと集まった。

 そして、ボフンと音を立てて青年を中心とした風が巻き起こった。


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