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第二十六話 これまでにないほど熟考中

――

 キルミヤ、突然の事に驚いている事だろうね。

 急な事で悪かったと思っている。だが、今回の事は随分前から考えていた事なんだ。

 キルミヤの力はおそらく魔導に通じるものだと思う。そこで魔導を学べば、制御する事が出来るかもしれない。

 それに、あそこではキルミヤの力を怖れるばかりだ。そこなら、そんな事はないだろう?

 これは私の願いだが、キルミヤが卒業して中央に来てくれればと思っている。

 無理はせず、そこでキルミヤらしく過ごしてみてくれ。


                           グラン・パージェス

――


 そういう事は最初に言えと、俺は思う。

 グランが何を思って俺を外に出したのかは分かっていたが、それでも外に出す本人には言っておくべき事だろう。

 どうもお貴族様という輩は勝手が過ぎるというか、猪突猛進というか、周りが見えないというか、我が前に道あり故に我が道なりというか、思い込んだら一直線というか。


 あまりにも面倒くさすぎて溜息が出てしまう。


「ふん、余裕だな」


 俺の目の前にはお貴族様の大好きな色、金髪碧眼を持つ坊ちゃんが腕を組み鼻を鳴らしている。

 少年よりは上で俺よりはたぶん下の。名前は………取り巻きが二人いたのは覚えてるんだけど………あぁもーいいや。


「坊ちゃんはやる気満々だねー」


 俺はやる気ゼロですよー。やる意味ないですよー。とあぴってみた。

 が、坊ちゃんは増々目を吊り上げてきた。


「そんな挑発に乗るとでも思っているのか」


 挑発? してないしてない。止めない? って言ってるだけですよ。本当。

 だいたい決闘なんて百害あって一利なし。俺には懸けて守る名誉など何も無いし、それよりも怪我とかそっちの方が嫌だ。

 何で坊ちゃんが俺に決闘を申し込んできたのかはクロクロが関係しているんだろうなぁと『貴様ごときがお言葉頂くだけでも不相応』だとか何とか言われれば容易に想像つくのだが、何で決闘が成立するんだよと突っ込みたい。

 学院、禁止しろよ。


 何でも精神も強くあれという方針があるそうで、教師立ち会いの下でなら可能なそうだ。

 決闘独自の緊張感の中でも力を発揮出来るようにという事なのかもしれないが、後々禍根が残りそうな方法を取らなくてもいいのにと俺は思う。


「両者、位置に」


 俺と坊ちゃんの間で指示を飛ばす立ち会いの教師は、一度と言わず何度も世話になった――糖分補給という意味で――療養室のスレンダーさん。療養室の者ならば怪我しそうなこんな事止めればいいのに、むしろこの人面白がってます。表情は真面目そのものなのだが、目が笑ってる。

 他にも監視という名の野次馬と化した教師が何人か。どいつもこいつも面白がってる。


 そりゃまぁ坊ちゃんは成績優秀者。実技の方もトップよりの成績だ。実戦に近い形でどこまで出来るのか見てみたいと思うのは仕方がない。仕方がないが、片や最下位成績者の俺の心配をしないものだろうか?


 つらつらと考え気分を紛らわしながら坊ちゃんと距離を取る。

 だいたい二十歩程離れたところで、スレンダーさんが後ろに下がり手を挙げる。


「始め!」


 振り下ろされた手が合図となって即座に坊ちゃんは両手を交差させ契約の言葉を口に乗せた。


「其は無束の主 おのが力を示し峙するモノを切り裂け!」


 カマイタチかぁ。いきなり不可視の攻撃あんど殺傷目的ので来るとは、なかなか吹っ切ってますねー

 ひょいひょいと避けてスレンダーさんに視線を向ければ、くすりと笑われた。


 え? 笑うとこ? こらこらこら。俺は止めてって言ってるんですけど? こんな当たれば血がどぱどぱ出そうなもんぶっ放してる状況を笑うの? 下手すりゃ死んじゃうよこれ。………そーかそーか。そーですか。分かりましたよ。

























 なぜだ………なぜだ…………なぜだ……なぜだ…なぜだなぜだなぜだ!

 なぜ当たらない!!!


 不可視の風の術であれば避ける事など出来ないはずなのに、風幕で防御するならまだしも、何故当たらない!


「何故当たらない!」

「当たったら痛いだろーが」


 うるさい! そんな事は聞いていない!!


 ちらっと周りの教師を見れば、興味が私から奴へと移っていくのが見て取れた。


「くそっ!」


 最大数の火炎を作り出し飛ばずも全て避けられる。


 負けられない……こんな所で、こんな奴に!


 次期当主として父の補佐をしている長兄、軍に入り功績を挙げている次兄。ならば自分はそれ以外の道でと考えた。

 第三皇女も在籍しているという学院で、もし接触する事が出来、目に留めてもらえれば卒業した暁には間違いなく魔導師団員となれるだろう。そう思って努力してきた。


 それなのに! それなのに!!


 キルミヤ・パージェスはヒラヒラと容易く避けて、こちらを嘲笑う。

 こんな落ちこぼれに負けたとあってはサジェスの名折れどころか、兄や父に何と言われるか分かったものではない。


 こうなったら………






















 俺は坊ちゃんの手元を見ながら体を動かし先を予測する。

 こうしてじっくり見ていると、少年が言っていた魔術と魔導の違いが何となく分かってきた。


 明確に見える訳ではなかったが、何となく流れが分かる。

 坊ちゃんが使っているのは魔導を模した魔術。周りの力を使うタイプだ。手の動きと口頭契約で、意思を持って坊ちゃんに集まる流れがある。その流れが一度坊ちゃんの手で凝縮されて、俺に放たれる。

 軌道は全て一直線なので至極読みやすい。


 変わって授業中に教師から受ける拘束は、魔術。己の力を使うタイプ。たぶん。

 もう一度じっくり見ようと思って見ればわかるだろうが、周りからの流れは無かったような気がするのでそうだと思う。


 坊ちゃんは攻撃が当たらない事にかなり焦っているようだが、俺にしてみればそんな分かりやすい手順を踏んでいて分からない方がおかしいと言いたい。周りの教師達も一体何を考えているのか俺へと視線をシフトさせている。


 いやいや。誰か教えてやれよ。軌道、見えちゃってますよ! って。

 それにそんなに見つめられても俺に決定打は何一つないですよ。


 学院の決闘だから、さすがに殴り合いとかではない。そこはやっぱり魔導なり魔術なり使わなければならず、それ以外は認められていない。


 少年によって、ようやく正常レベルの威力となった俺の初級魔術ごときではせいぜい威嚇がいい程度だろう。

 決定打が無くなったと言っても後悔はない。まさかここで坊ちゃんを丸焦げにする訳にもいかないので、少年には本当に感謝している。


 決定打がないので、どうやったらこの茶番劇を終わらせる事が出来るかを考える。

 手っ取り早いのは俺が負ける事だが、痛いのは嫌だ。坊ちゃんの攻撃はあたったら絶対痛い。しかも、かなり、痛い。ちょっとぐらいならいいかなぁと思うが、あれは嫌だ。


 という事で、別の手段を考え中。

 俺が使えるのは魔導を模した魔術。魔術は命削ると聞いたからには遠慮。

 覚えている初級魔術は、最低レベルのもののみ。


 ……最低レベルでやべーって思ってそれ以上はやっちゃ駄目だと思ったんだよなぁ………もう少し努力してれば何とか――なってないか。同調力とやらが無ければノーコンに変わりないわけだから。


 でもまてよ?


 俺は改めて坊ちゃんを観察する。


 流れは、分かる。

 周りの力を使っているのも、分かる。


 これって、俺がエネルギー(生命力)貰ってたのと同じじゃね?

 って事はだ、魔術的手法に乗っ取らなくても力を借りられるって事じゃね?

 確か、少年が熱出したときに力分けてくれ~的な事を考えてたらそうなった様子だったっけ。

 じゃあ……おーい。居たらちょっとばかり協力してくれないか?


 と思ったらすぐさま俺の周りで風が躍った。


 わ……分かりやすい。これ、同調力とか要らないんじゃ……


 ちょっと驚きながら、次の行程を考える。

 ここで炎だのカマイタチだのやってみよう。坊ちゃんはきっと怪我するだろう。血も出るだろう。親御さんが出てきたら大変だ。


 となれば跡が残らないものでなくては。


 ………………酸素奪って窒息?


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