第二十五話 忘れかけた友の影
非常に短いです。
大きなあくびをして背を伸ばし、さっさと引き返すキルミヤ。
僕はその後姿を見つめ、小さく首を振った。
どうして何も聞かないのだろうか。
侵入者は何者か。僕と関係があるのか。僕は何者なのか。
他にも、どうして無視していたのか。
どうして精霊の事に詳しいのか。
どうして魔術に詳しいのか。
魔術に詳しい者がどうして学院に入っているのか。
「おい、ぼさっとしてないで」
「あ、はい」
慌てて走って追いつくと、キルミヤはまた歩き出した。
「あなたは変わった人ですね」
キルミヤは眉を寄せて不機嫌そうな顔をした。
「お前に言われたか無いね」
「僕が何者か気にならないのですか?」
「聞いたら答えるのかよ」
「いえ」
「じゃ、聞いても仕方が無い」
「そこで納得するのが変わっているんですよ」
「うっせ。人にはいろいろ事情ってもんがあるだろ。そんなのいちいち聞いてられるか」
「……そうですね」
それはそうなのだけれど、好奇心を抱きそれを止められる者は少ないとよくよく思い知らされてきた。
最初から興味すらなければその限りではないけど、僕が追いつくのを待っている所を見れば何の感心も無いという事はないだろう。それでも何も聞かないのは彼が生きてきた人生ゆえか。
なんだか似ているなと思ってしまった。
姿かたちは全く違うけれど、あの人に会っているような、そんな気になってしまう。
「何笑ってんだよ気色悪い」
「すみません。また明日から僕は無口になると思いますが、気にしないでくださいね」
「へいへい。お前は電波ちゃんだからな」
「何ですかそれ。良い意味ではなさそうですね」
「いやいや。褒め言葉だよ? 俺の地方じゃもうすんごい褒め言葉」
「……しらじらしいんですよ」
「ひどいっ。純真な少年を捕まえて」
「少年って……もう大分厳しいでしょうに」
「うわー。容赦ないな」
「すみません」
「ったく」
僕は大きく踏み出しキルミヤの前に出た。
「あなたが同室で良かった」
「んだよ気色悪い」
心の底から嫌だという顔に心がほころぶ。
「いいですよ。気色悪くても。明日からは石ですから」
そういって走れば、溜息を付きながら追いかけてくる足音が聞こえた。
次から二章に入ります。