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第二十三話 はしゃいでしまった

「皇女から説明を聞かれたと思うのですが」

「全く記憶にない」

「威張らないでください」


 脱力する少年を慰めようと口を開きかけたが、先に少年が話を進めた。


「王家の試金石は簡単に言えば魔術師の力を測る能力です」


 こいつどんだけ講義したいんだよ。周りが段々鬱蒼とした感じになっているのに変わらずのペースで淡々と続けるって。

 っていうか、学院の敷地にこんな鬱蒼とした森があったっけ? これかなり広いだろ。下手すりゃ迷うぞ。


「魔力を蓄える器の大きさ、魔術を構築する精神の強度、思考の速度。この三点を見ています。この内、魔術の成功率に関わるのは精神の強度と思考の速度。目を付けたという事ですから、下手ではないでしょう。ただ器が大きいだけならいいのですけれど」


 迷子になった奴居ないんだろうか。居たら苦情になってるか。とするとやっぱし居ない?

 あぁ、皆様真面目だからこんな所来る暇など無いと。コレだな。


「あなたは希代の魔術師にも、忘れられた過去の魔導師にもなれ――何を考えているんですか」

「聞いてる聞いてる。

 クロワッサンのお眼鏡に適ったんだから魔術師として器用な部類に入るんじゃなかろーかと。こういう事だろ?」

「はい。出来れば学院を辞めて戻られた方が」

「そうだな。面倒事は避けるに限る」

「同感です」

「苦労してそうだね~ 少年」

「苦労なんて人それぞれですけどね。着きました」


 少年は俺の手を離さず、ガサガサと片手で細枝をかき分けて突き進む。

 茂みを抜けると、少し開けた場所になっていた。


「あ、泉? 水がわいてるのか?」


 開けたと思ったのは泉があったからで、水面を覗いてみると規則的なうねりがあり目を凝らせば水底から湧き出ているのが見えた。

 水は透き通っている。どれぐらい深いか分からないが、底までクリアに見えるのでかなり綺麗なのだろう。


「ここは精霊が集まりやすいポイントです」

「あぁ通りで騒がしい」

「まだ?」

「前に比べれば多少はマシかな」

「すみません」

「謝るとこ違うから。少年は謝りすぎじゃない?」

「そう……でしょうか」

「事あるごとに『すみません』だろ。無駄に多いんだよ。必要ないとこで合いの手のごとくいれてるし」

「はぁ………自分ではよく分からないですが……

 いえ、それよりも早くしてしまいましょう。こちらに」


 俺は少年の前に言われるまま立つ。


「力を抜いていてください。すぐに終わります」

「りょーかい」


 任せてくれ。ボーっとしているのは得意だ。


 早速俺はだらけまくった。立っている為に必要な力だけを残してほげーっとしてみる。

 考える事は特になし。強いて言えばご飯について。ここの食事は本当に素晴らしいのだ。

 退学した場合、ここの食事と同レベルを維持しようとすると大変だ。


 どうしよう、死活問題が発生してしまった。


 少年に言われるまでもなく、適当なところで脱走するつもりだったが、食事については考えていなかった。腹に入ってしまえばみな同じとはいえ、おいしいものを食べたいのが人情と言うものだ。あと肉。

 収入源さえ確保するのが難しいと思われるのに、食生活の事を望むのは高望みだと分かっているが………まてまて、飯屋に入れたら良くね? あ、いやでも一か所に留まるのは無理か。見つかる。

 となると、移動しつつ稼ぐ方法を考えないと駄目で………やっぱり傭兵兼冒険者か、行商か。


「終わりました」


 俺の鳩尾の上、やや左側の心臓あたりと思われる箇所に手を置いていた少年が手を外していた。

 痛みも何も無い。変わったと思う所もなにも。

 試しに両手を握ったり開いたりしてみるが、変化は無い。

 俺は泉に目を向けバサバサと上着を脱ぎ捨て、怪訝な顔をしている少年を横目に勢いよく飛び込んだ。


 水は冷たく、一瞬にして筋肉が収縮する。久しぶりの感覚に口元が緩んでしまう。

 グッと足に力を入れ、身体を反転させ潜水を開始。五度目の蹴りで底に到達したので、やはり見た目以上の深さがあった。水中メガネが無いのでぼやけた視界だが、底から水が絶えず湧き上がっているのが分かる。


 あーやべ。めっちゃたのしー


 そろそろ息が苦しくなってきたので水面に浮上すると、真っ青になっている少年が居た。


「良かった! 上がってこないから!」


 若干涙目だった。


 ………はしゃいだ俺は反省するところですね。


 ざばりと水から上がり、縁に腰掛て大丈夫だと手をひらひらして見せアピール。


「すごいわ。水の中は体力食うから潜水出来なかったんだよ」

「喜んでもらえて幸いですが、無茶しないでください。まだまだあなたの身体は弱っているんですから」

「う~ん。でもそんな感じはないぞ?」


 首を傾げると、少年は目を細め俺の周りを注視した。


「あなたが喜んでいるのが嬉しくて、精霊がはしゃいでいますね。

 生命力をわれ先にと与えているようです」


 ええ!? 実況されると気になるじゃないか! いつの間にやらだったらいいけど、今まさにそうですとか言われたら気になる!

 どこで!? どこから!? どうやって!?


「じゃあ次は精霊の数を制限しますね」

「まてまてまて少年、俺の動揺と疑問とちょっとばかしの不安を解消してからにしてくれ」

「精霊がどうやって生命力を与えているのかは説明出来ませんよ」

「何故わかる!?」

「顔に書いてあります」


 ま…………負けた。

 少年に負けるおっさんって……


「では始めます」


 突っ伏している俺を無視して淡々と作業を始める少年。


 くそう! 見た目軟弱そうなくせして押しが強いとか反則だろ!


「エーネルフィ アオウル レ キルミヤ・パージェス ソレライン

 ウル ハーサグレナムス ロウ

 アラレキ ウル エンディル」


“―――”


 聞き取れない言葉を紡いだ少年の後に、何かが囁いたような気がした。

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