表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/129

第十九話 二択だけど、ほとんど一択

 うっすらと開いた瞳は澄んだ紫。

 理知を示すその色に、不快に染まった感情が静けさを取り戻す。


「そこまでなるまで付き合わなくともいいのでは?」

「付き合ってねーよ。どこをどー見たらそうなる」


 疲れた声音で言い、溜息をつくキルミヤ。

 出会った時から思っていたけれど、彼には違和感がある。幼子のような言動を取るくせに気だるげな目はじっと何かを考えているように揺るがない。


「寄宿舎までは追って来ないと思いますが?」

「万一来たら鬱陶しいだろ」

「それは………僕がということですか?」

「いや俺が。

 男子寮に抵抗なく来るようになったら俺の安息地が消える」


 真面目なふりをして言う彼が可笑しくて、笑いそうになってしまった。

 どう見ても同室の僕を気遣ってそうしなかったとしか思えない。


「来ないだろうと踏んでいるのに、そんなになるまで付き合うのは馬鹿ですね」

「お前なぁ、人の話聞いてた? 付き合ってないって。追い回されてただけで。

 それに少年。馬鹿って言った奴が馬鹿なんだぞ」

「はい。そうですね」

「…………………………………つまらん」

「すみません」


 笑いを堪えて言うと、キルミヤは再度溜息をつき僕に背を向けるように転がった。


 地面につけた掌に返る熱を確かめながら様子を伺うが、まだ顔色は悪い。

 こうなる事を分かって受け入れたのかわけも分からずに受け入れたのか、そこは知れないけれど、少なくとも何も知らずにという事はないだろう。


「あれは言い過ぎだろ」

「え?」

「クロワッサン泣いてたぞ」

「くろわっさん? ……あぁ皇女の事ですか。すみません、苦手なので」

「苦手って……大した拒否反応だな」


 声に呆れが混じるが、弁明のしようもない。

 それは僕も出さないようにしようとは思っている。先ほどもあんな事を言うつもりは無かった。だけど、あの眼を見た瞬間記憶が蘇り気が付いたら口にしてしまっていた。


「……すみません」

「謝る必要はないけど、正論が通る世界はあんまり多くないと思うからなぁ……」

「………そう……ですね。自重します」

「そんな素直な反応されるとわが身が痛いんだが」

「痛い? キルミヤさんは素直だと思いますが?」

「やめて……精神攻撃やめて……」


 何故か顔を覆ってしくしく泣き出すキルミヤ。


「冗談です」

「まてこらてめぇ」


 起き上がり睨んでくるキルミヤ。涙の後などもちろん無い。

 それが可笑しくて、ずっと堪えていたのに笑ってしまった。


 皇女の眼と正反対の暖かな眼が不機嫌に細められるけど、それでもちっとも冷たくはならない。


「少しは楽になりましたか?」


 尋ねると、キルミヤは目を瞬かせ、気付いたように頷いた。


「お前、何かしたの?」

「少しだけ。

 その体力の無さ、原因は分かっているようですね」

「成長期だからな」

「そうですね」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………ごめんなさい」

「あの、謝られても困るんですが」


 キルミヤはブスッとして胡坐をかくと膝に肘を載せてひどく行儀の悪い姿勢でこちらを見上げてきた。


 それにしても彼はセントバルナの出身ではないのだろうか?

 胡坐をするのは南のフルクという国だったと記憶している。


「で? 少年の見解は?」

「見解……ですか?」

「そう。根拠があって言ってるんだろ? それともカマ?」

「カマかと聞いている時点で肯定しているも同然でしょうに……」

「もうめんどーなの。手短にしたいの」

「はぁ。見たままの適当な反応………いえ、えっと、以前封印の話をしましたよね?」


 視線が分かってるからそれ以上言わないでと訴えてきたので、慌てて話を進める。


「あー……したね」

「あの時は気付きませんでしたが最初にかけられたものとその次にかけられたもの、二つの封印がされています。

 一つめの封印は他者の力を核として成されていますが問題は二つ目、上に重ねがけされている方です」

「ふんふん」


 絵に描いたような適当な相槌に、聞いているのだろうかと疑念がわくが、たぶん聞いているのだろう。


「それはあなた自身の力を核としています。力を封じているのにあなたから力を引き出し、それでさらなる封印を。

 はっきり言って正気の沙汰ではありません。普通なら死んでいるところです」


 力を封じられている中でそれを糧とする術を絶えず使用すれば代用として生命力が使われるのは道理。

 キルミヤが生きていられるのはひとえに精霊が失われる生命力を補っているからに他ならない。

 精霊が術に対して過剰反応していたのは十中八九それが原因だと言える。


「………んー……やっぱ?」

「やっぱり?」

「カロリー不足だとか成長期だとか気分で見て見ぬふりしてたけど、さすがに疲れすぎるもんなー。不健康体の時より劣るってさすがにな。俺でも変だとは思ったけど、不吉な事は全力でスルーが基本だったし?

 即死かじわ死か言われたらもう後者しか選べないっしょ。ねえ?」

「…………その場で殺されるか、それともその封印を受け入れるか二択を迫られたのですか」


 尋ねると言うより、確認するつもりで聞くと、キルミヤは目を丸くした。

 わざと分からないように言っているのだろうけれど、さすがに想像はついた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ