第二話 気づいてしまった
俺は拙い事に気が付いてしまった。
これは、あれだ。ほら、その、それ。それだよ。
認めてしまうのが怖くて曖昧表現で緩和を試みる。
………むりだー………俺むりだー……耐えられねー………
緩和意味なし。
何に耐えると言えば、出産。
現状俺は胎児になっているとしか思えない。この俺でも恐ろしい程の眠気と絶えず聞こえる鼓動の音。そしてぬるま湯につかっているような暖かさ。あと腹が減らない。
出産は母親が大変だというのが世間一般の認識。それは俺も否定しない。
否定しないが、それは出産時の記憶が綺麗に無いから言える事だろうと俺は考える。
……頭蓋骨変形させながら出てくるって………どんなホラーだよチクショー!!
帝王切開を望む! ぜひ帝王切開!! なにより帝王切開!!!
どうしたらいいんだ!? 逆子なら帝王切開行なのか!? それともへその緒を首に絡ませたらいいのか!?
と、そこまで考えて俺は気が付いてしまった。
帝王切開出来ない環境とか……ないよね?
もし、仮に、万が一、出来ない環境で逆子だったりへその緒首に絡ませてたりしていた場合は、間違いなく母子ともに大変な思いをし、最悪死ぬ。
ノーーーーー!!! 死ぬだめ! 死ぬよくない! てか苦しいの却下!
どうしたらいいの俺! どうしたらいいんですか俺! どうしたらいいのでしょうか俺!
返答なし。
うぅ……せめて双子とかだったら『よし、お前先行け』とかいって蹴るなりして先行かせて、その後比較的楽して出るとかって手も使えたかもしれないのに……
残念ながら、胎内には他に誰もいない。
ぶっつけ本番で特攻をかけるより他ないという、まるで太古の昔より定められてきた運命のような答えが待ち構えている。
あそーだ。自我があるから怖いんだよ。消せばいいじゃん。
……………
使うはずだった資料の出来具合から始まって、関わっていた案件の進捗具合に客との合意の確認、作業依頼を作っていたはいいが出していない事を思い出し、ぐるぐるぐるぐる廻っていった。
俺は仕事人間じゃない俺は仕事人間じゃない俺は仕事人間じゃない
心頭滅却火もまた涼しの偽変換のごとく唱えるが、それを唱えている事自体が俺という自我を認識させている事に三十回程唱えたところで気付いた。