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第十八話 追われるよりも追う方が好みです

 追いかけられるわ追いかけられるわ追いかけられるわ。お前はストーカーか。金魚のフンごとくしつこくしつこくしつっこく。

 有名人がついてくるものだから俺まで悪目立ちして何やかんやのやっかみを言われる始末。

 どうもクロワッサンは天才と言われる類らしく、十二歳にしてこのエントラス学院に入り僅か二年で最終学年に進級している。卒業までは秒読みと言われ、上から男女男女女と男女比率若干女高め兄弟の中でも希代の魔導師になると評判の末っ子。その名も――

 その名も………その名も…………なんだっけ?

 なんかもーその縦ロールが強烈すぎてクロワッサンクロワッサン言ってたらクロワッサンで定着しちゃったよ。


「なぁクロクロ~」

「何ですかそれは。何度言えば分るんですか。クロワッサンでもクロクロでもありません」

「便所ついてくるつもり?」

「…………さっさと行きなさい」

「はいはい」


 頼むから出待ちとか止めてね。


 客室としか思えないようなトイレに入りほげ~としながら用を足す。


 あー……もー………めんどー……

 よし出よう。


 手を洗い、そのまま小窓を開けてよいせと身を乗り出しじゃーんぷ!

 と大げさに言うまでもなく着地。一階だから当然だ。

 などと巫山戯ている場合ではない。クロクロに見つかる前にさっさと部屋に戻ろう。寄宿舎まで戻れば男女で分かれているのでさすがに来ないだろう。

 授業サボることになるがもういい。もう面倒い。寝る。疲れた。つかあいつのおかげで既にサボり中。


「キルミヤ!」


 泣いていいかな……


 数十メートルも歩かないうちに前方から来るのは生真面目似非関西青年。


「どこ行ってたんや、次の授業始まるで!」


 駆け寄る青年に俺はため息をついた。


「クロワッサンに例のごとく付け回されてたんだよ。巻こうとしても巻こうとしてもいつの間にか現れるとかこわくね?」

「まさかさっきの授業中ずっと?」

「ずっとだよ。延々延々延々延々延々ずーっと。疲れたよ」

「そ、それは大変やったな」

「ということで俺は帰って寝る」

「なんでやねん」


 青年にはたかれ、俺は膝をついた。


「え? お、おい!? 大丈夫か!?」


 まさかはたいただけで膝をつくとは思っていなかったらしく、慌てだす青年。

 慌てるぐらいなら普段から優しくしてほしいなぁ。


「いや……俺ってほら身体弱いでしょ?」

「侵入者を撃退しといてどの口が言う」

「えー……」


 そういう問題ではないんだけど……


「もーいいから……寝る………」

「は? ここで?」


 ずるずると草むらに倒れこみ、身体を丸める。

 どーせここは二棟と一棟の間の裏で誰も来ない。昼食まであと二つ授業あるとなればもはや寝るしかない。


 となりでぎゃーぎゃー言っている青年を無視して俺はさっさと瞼を降ろした。










 様子がおかしいとは思っていた。

 授業中は寝てばかりで、それ以外も殆ど動く事が無かった。怠惰だと言えばそれまでだが、僕にはそれが迫られてそうしているように見えて仕方が無かった。


「待ってください」


 キルミヤを起こそうとしたレライ・ハンドニクスを止め、草の上で身体を丸める青年の様子を見ると、思った通り、青白い顔色をしている。


「どうしたのです?」


 二棟の影から現れた人物は、最近キルミヤに接触していると噂の第三皇女。

 そういう事かと僕は理解した。


「病弱なものを執拗に追い回すというのは王族と言わず人としてにあるまじき行為だと思いますが、何を考えておいでなのでしょう。ベアトリス様?」

「……………あなたは?」


 僕の姿を見て、皇女は眉を潜めた。

 そうだろう。僕の容姿はこの国にはそうそう無い。この白い髪は少なく、そして黒い目をした人間はおそらく僕を除いて居ないはず。


「名乗ったところで貴族ではありませんからお分かりにはならないと存じます」

「それは……私を侮辱しているのですか?」

「侮辱? あなたは己の事しか見えていませんね。まっさきに出てくる言葉がそれですか?」


 すっと皇女の表情が冷たいものとなる。

 敵とまではいかないが、警戒相手と判断したのだろう。


 それを見て、僕の心もますます冷えていく。


「目の前に倒れている者がいるというのに口に昇るのが名乗りだの侮辱だの」


 それまでも顔を引き攣らせていたレライは、完全に色を無くして僕を見ている。

 きっと彼の中では前代未聞の事態に思考が停止してしまっているのだろう。

 階級制度の中に組み込まれた人間としては当然の反応だけど、あまり見ていて楽しいものではない。


「もうすぐ授業が始まります。お戻りください」


 皇女は僅かに顔をしかめたが、それ以上声を発する事はせずこちらを睨むだけ睨んで背を向けていった。


「あなたも授業に遅れますよ」

「え………や、せやけど……こいつ」


 レライは青い顔のままキルミヤを指さした。

 この状況で彼を放っていかないところを見ると、階級制度に組み込まれているだけの人間とも評しがたいと言えるかもしれない。


「気にしないで行ってください。同室ですから面倒は見ます」

「けど………」

「欠席すると後が大変ですよ」


 彼は随分と迷っていたが、黙って見ているとやがておずおずと引いた。


「………ほな、頼むな」

「はい」


 レライが走り去るのを見送って、僕はキルミヤの隣に腰を降ろした。

 林から抜ける風が涼しく、木陰になっているこの場所は昼寝にはうってつけだろう。

 但し、眠る気のある人間にとってという注釈がつくけれど。


「いつまで狸寝入りしているんですか?」


あっぷしてそっこう誤字訂正……

後、書き忘れていましたがご感想ご指摘ありましたらお願いします。


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