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第十七話 その名の通り試金石

「ところで王家に受け継がれる『試金石』という能力を知っていますか?」


 青年は首を傾げ、申し訳なさそうに謝罪したが、クロワッサンは気にした風もなく話を続けた。


「試金石というのは金の純度を調べる時に用いられます。採掘した金の価値を測る手法としては容易で危険もありません」


 はぁと相槌をうつ青年。


「王家の試金石とはそれに似たものです。

 我が国は周辺国に比べて国土は大きいとは言えません。肥沃というわけでもなく、基盤は鉱山資源に頼るところがあります。それ故に資源を守るため少ない人力で軍備をまかなう必要がありました。

 屈強な戦士はもちろんですが、それよりも一人で何百という兵力となる魔導師が必然的に求められ、それを見出せる者に権力が集中し現在の王家へと至りました」


 御国のプチ歴史講座に、青年は盛大に戸惑っていた。

 何が言いたいのか分からないといった様子で、それでも一生懸命考えているようで言葉を返す。


「ええと……では王家の試金石というのは魔導師を?」

「そうです」


 正解に、青年はホッとした顔をした。


「私たちは見ただけでその者の魔導師としての力を測る事が出来ます」

「それはすごいですね」

「生来のものです。特別すごいというものではありません」


 息が出来るからといってあなたは『すごい』とは思わないでしょう? と、青年のよいしょをあっさり切って捨てるクロワッサン。

 青年はどう反応していのか分からなかったのだろう顔を笑顔のまま引き攣らせ、曖昧に頷いた。


 がんばれ青年。あとでいくらでも慰める。だから頑張れ青年。俺はデザートが早く食べてと急かしてくるので手が離せないのだ。これさえなければ俺だって青年の援護などいくらでもしたのに、実に残念だ。


「意識する事なく日常的に見ていますが、最近はあまり強い力を持つ者はいませんでした。一昨日までは」

「一昨日ですか……」

「一昨日、学園の結界が揺れていました。そしてその時、火柱があがっているのを見ました」

「火柱……」

「まさか初級詠唱魔術で結界が揺らされるとは思いませんでしたが、それを成した者の力は相当なものでしょう。それだけの力を持つ者が教師をしているだけというのは宝の持ち腐れだと思い聞いて回ったのですが誰一人として当てはまる者が居ませんでした」

「先生方ではないと……?」

「ええ。クレイスター・クライム先生がそうだと言われましたが、彼の力ではそこまでの炎は出せません。良くてたき火程度でしょう。何故隠すのか分かりかねますが、仕方がないので学院にその日居た者全てを対象として調査しました」


 クロワッサンはナプキンで汚れてもいない口元を軽く抑えると、こちらにひたりと視線を合わせた。


 要りません。その真面目な視線要りません。


「あなたたち以外、どこで何をしていたのか判明しています」

「…………」


 青年頑張れ、沈黙しちゃ負けだぞ!


「一昨日、どこで何をしていましたか?」

「……………………」


 青年、こっち見んな。クロワッサン、目つきこえーよ。


 ……………………………………………………………………………あぁもう分かったよ。


「先生に怒られて水ぶっかけられて着替えてた」

「火柱は?」

「先生なんだろ?」

「違います」

「じゃあ宇宙人の仕業だな」

「う、うちゅう?」

「我々は宇宙人だと自己主張も甚だしい体格子供の極細生命体だ」

「ご、せ、せいめいたい?」

「言っておくが探しても無駄だぞ。奴らはシャイで有名だ。会いたいと思っている奴は会えなくて、へっそんな奴いるわけねーよと思っている小心者の前に現れる」

「待ちなさい。何の話をしているのです」

「え? 知らないの? 宇宙人は有名だよ? 奴らの技術はとてもじゃないが真似できないと言われてるんだよ? 火柱ぐらい簡単にやっちゃうでしょ? 空飛ぶ円盤持ってるならそんくらい出来ちゃうでしょ」

「技術? そらとぶ、えん?」

「まぁ空飛ぶ円盤が奴らの持ち物だとは分かってないけどね」

「一体何の事なのですか」


 やや苛立ったようにクロワッサンがこめかみを抑えるので、俺は追加説明した。


「空飛ぶ円盤っていうのは、まんま空を飛ぶ円盤状の物体のこと。一般的に未確認飛行物体の一種とされてて、目撃された形態が円盤型とか皿の形をしてる。常識的に考えて人工的な飛行物体と考えにくい異常な形態のものも含める場合があるけど、まぁそれはいいとして、色は銀色。UFOいこーる空飛ぶ円盤って言われる事が多いけど、意味合い的にはUFOの方が科学的で空飛ぶ円盤の方がオカルトちっくな感じかな?

 ちなみに空飛ぶ円盤が宇宙人のものだと確認されれば、定義上はUFOじゃなくてIFOとなっちゃう」

「……さっぱり分からないのですが」

「まだまだだね~ 下々の情報は仕入れておいた方がいいよ。そんじゃごちそうさま」


 合掌。


 カチャカチャと皿をトレーに片付ける。


「………何をしているのです」

「何って片付け?」

「必要ありませんが」


 うん。かわいい女の子が片付けてくれるのは知ってるよ。

 でもね、この量の食器を片づけさせるのはしのびないでしょ。


「俺、男だしね」

「は?」

「勝手にやってることだから気にしなくていいよ。じゃあ青年とごゆっくり」

「え!?」

「それと、質問したければいくらでどーぞ。

 ………いくら青年を問い詰めても仕方ないと解ってるだろ?」

「…………」

「…………」


 無言になった二人に肩を竦め、俺はさっさと食器を片づけに席を離れた。


 俺はあんまり化かし合いというのは得意ではない。が、黙っていようとしてくれる青年ばかりに押し付けるわけにもいかないだろう。ああいえばクロワッサンは直接俺を相手にするだろうから、これで青年は大丈夫だろう。

 問題は俺がどこまでクロワッサンを煙に巻けるかという事だけだ。


 ………面倒だよなぁ。

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