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第十四話 要らないオプション

 あ~やばかった。

 あぁいう切った張ったは俺は向かない。デスクワークならどんとこいだ。


 本当にどんと仕事を置いてくれた閻魔様は鬼だった……自宅の存在意義が掠れてたな……


 こちらでは本当の意味でのデスクワークは限られる。流通、産業、工業、農業、畜産、全てが人の手に頼るためデスク中心に仕事をする人間は殆ど居ない。居るとすれば高官ぐらいだろうか?

 就職するなら窓際デスクワークがいいなと思うけれど、そちらの道は果てしなく遠い。仮に成れたとしても国家に雇われるのは何かと面倒そうなので却下。

 それならば身体を動かして働く方が気分も良く性にあっている。もちろん安全な仕事で。

 でも地元だと身分が邪魔して職にはつけず――というか、基本的に職は親のを継ぐ形となっている為、領主の実子とされている俺が働ける所なんて最初から限られている。家の仕事か、王宮へ出仕するか。

 パージェス家の仕事をすると周りが顔を顰めるのでアウト。王宮へ出仕するなんてチキンの俺が出来るはずもなくボツ。そしていつの間にやらこんなところへ放り込まれている現状。

 グランのご期待には添えそうにもないが、勝手に期待したのは向こうなのだから、ここでどれだけ俺が落ちこぼれであろうとそこまでは知ったことではない。最低限、人としての常識ラインは保とうと思うが、それ以上は知らん。


 段々むかつきが再燃してきたが、いい加減よれよれだ。

 剣を向けられるなど、前世で例えれば夜道で()ってるオッサンに包丁向けられるぐらい怖い。獲物が長い分恐怖心も増す。前世の記憶保持者の転生者ならば何か特殊能力持っとけよと思うが、あるのは地獄耳と疲れやすい身体。


 地獄耳と疲労し易いって嫌がらせのオプションかよ。


 地獄耳はどうやら精霊さんとやらが関係しているようなので何かの能力的なようなものだともとれるが、実益と不利益を天秤にかければ不利益に大きく傾く。


 加えて疲労しやすいこの身体。

 今年十七となる年齢を考えれば、二十歳超えて仕事をしていた前世よりスペックはいいはずなのに、その時より格段に身体が疲れるときた。


 いや……まぁ……前の生は疲労を気の所為だと決めつけられてただけかもしれないけど………


 気の所為だとしても、実際に身体が重くなって動かしにくくなるので性質が悪い。

 七歳とか八歳とか、まだ小さい頃はこういう事は無かったのだが年を経るにつれて悪化している。かといって、どこか具合が悪いわけでもなく、たらふくご飯を食べれば回復する。もしくは糖分を摂取すれば。


 あれ? ただの成長期? いじきたないだけ?


 う~んと前世の十七歳、高校生の時を思い返してみるが、何か馬鹿やっていた事しか思い出せず比較にならない。

 ただ、買い食いはよくしていたので推測はあたっているのかもしれない。こちらでは高カロリーな食事はおいそれと口に出来ないので。


 うんうんと考え事をしているうちにいつの間にか自分の部屋に放り込まれていた。

 暫く床に寝転がっていたが、いつまでもこのままというわけにもいかない。へたばっている身体をずりずりと引き摺って引き出しから皮袋を取り、中から薬包を取り出して中身を口に入れる。口の中に広がる甘味を飲み込んで一息。

 あのスレンダーさんが砂糖(コレ)をくれたのには驚いた。純粋な糖は滋養剤で値段も張るのに、一介の学生にあんなにも簡単にくれるとは思わなかった。出来れば定期的に頂きたいぐらいなのだが、こんな高級品をそう何度もくれるのだろうか?


「着替えた――何やってんねん」


 俺は寝転がったまま入ってきた青年を見上げ指をさした。


「部屋に入るときはノックする。常識だろ」

「はあ? 今更お前が常識言うな。寝転がってないで着替え。ほらほら」


 青年に急かされ、しぶしぶ俺は身体を起こしてもぞもぞと着替えた。

 それを見ていた青年が深い溜息をついていたので、俺は親切心を出した。


「溜息ついたら幸せ逃げるぞ」

「誰のせいや」


 コンマ一も無い綺麗な即答は俺に匹敵していた。


 くっこの短時間でここまで技を磨いて来るとは……あなどれん……


「お前……今アホな事考えたやろ」

「はぁ~何いっちゃってんの? なんも考えてねーよ。なになに? お前の事でも考えてたとか思ったわけ? やっだー自意識過剰ー」

「じ……じいし? なんでもええわ。おちょくってないでさっさと行くで」

「は? どこへ?」

「どこって、ヴェルダ先生のとこや」

「ヴェルダ?」

「………さっきの、実技の担当教師や」

「なんで?」

「なんでって」


 俺はパタパタ手を振って青年の言葉を遮った。

 いやいや、青年の真面目はよく分かった。それを止める気はないのだが、ちょっとね、俺にも限界というものがあるというか。


「俺もー眠いのよ。ほんともー起きてらんないぐらい眠くって眠くって、考えてみれば俺今日ほとんど寝てないわけだ」

「居眠りを睡眠に含めんな」

「ええ!?」

「驚くとこちゃうわ!!」

「だって! それじゃあどこで寝ろと!?」

「夜!!! 夜以外にあるかあ!!!!」

「ふっ……青年はおこちゃまだな」

「何!? 何の話してんの!?」

「え? 聞きたいの? もー仕方が――」

「するな!! 言うな!!! 聞きたない!!!!」


 段々と興奮してきたらしい青年をどーどーと馬にするように宥めると益々興奮されてしまった。


「落ち着けよ。発情するなって」

「するかっ!!」


 頭を叩かれ、俺は叩かれたところを掻きながらそれでも人生の先輩として忠告した。


「ったいなー。いきなりはだめだろー。もっと丁寧に優しくだな」

「変な言い回しすんな!」

「え? やっだー。何想像してんのー。きゃー不潔よーへんたいー」

「お……おまっ」


 青年は顔を赤くして口をぱくぱくさせている。


 面白い。実にからかいがいのある奴だ。と、遊んでいる場合ではない。限界というのは冗談でも何でもない。


「悪い。ほんと寝させてくれ。後で叱られでもなんでもするから」


 言ってさっさとベッドに潜り込もうとして足元がふらついて豪快ダイブを決めてしまった。


「……お前、さっきので」


 急に声に不安が混じったが、俺の意識はもう離れかけている。


「いんや~怪我はしてないよ~」

「怪我以外にあるんか?」


 こいつ……微妙に鋭いな


 と、思ったところで俺は気持ちよく枕を抱き込んで眠っていた。
























 青褐色の真っ直ぐな髪がさらりと顔に落ちる。

 眠るその顔は見慣れたもので、しかし何時まで経っても慣れないと俺は思う。起きている時は言動が邪魔をしていて造作に気付かせない為、眠っているその顔が一番、元の造作が分かってしまうのだ。


 にやにや笑いを浮かべず、呆れた表情も浮かべず、静かに眠る無防備なその顔は、すっきりとした鼻梁に薄い唇、形の良い眉に涼やかな切れ長の双眸。色は白く肌は深層の令嬢のごとくキメ細やかで、ひょろりとした身体に長い手足。

 痩せすぎのきらいはあるが、間違いなく麗人と言われる整った容姿を保有している。だが、それだけではない。


 貴族には見目の良い者は多い。サジェス家の者もそれに含まれる。金髪碧眼という貴族で持てはやされる色彩を持つフェリア・サジェスも上の兄たち程ではないが、顔良し家良し将来性在りの三拍子そろった嫁ぎ先候補の上位にあがっている。

 しかし、キルミヤ・パージェスはそういう類とは違った。


 薄い紫の瞳を細め、窓の外を気だるげに眺めていたその姿は孤高。他者を寄せ付けず、ただ一人己の道を見据え進む気高い狼。


 そんな印象を、初めて会った時に受けた。

 どこか現実離れをしているようで、別の世界の住人のような空気があって気になって目で追っていた自分が居た。


 蓋を開けてみればどこが孤高、どこが気高いのだと己を罵倒してやりたいが、それでも眠っている時は同じような印象を受けてしまう。近寄りがたく、触れてはならない存在のように。


「お前の兄も似ているんかな……」


 もしそうなら出世頭として噂に名高いグランの事も、その噂通りなのかもしれないと頷ける。

 周囲の出方を伺い、虎視眈々と狡賢く立ち回る普通の貴族には無い異質な空気。もしそれを兄も持っているというのなら目立つだろう。そしてそれがプラスに働けば、人目につき出世のチャンスを掴んでいける。


「お前もなんやかんや言いながら、そっちに行くんかな……」


 あれほど高威力の魔術を操ったキルミヤであれば間違いなく、その能力を高く買われるだろう。自分では行けそうにない世界へと楽々行ってしまうのだろう。

 なんとなく置いて行かれるような悔しい気持ちもあったが、巫山戯た言動のキルミヤがそうなった時もこのままでいるのか見てみたい気持ちもあった。

知り合いに27時間勤務という笑える数字をたたき出した人がいました。

特定の職業では「あ~あるね~」だそうです。


さすがにそこまでではないですが、作者は先週から今週にかけて息絶え絶え状態。何度徹夜を覚悟したことか……帰っても呼び出し頂きましたし……


皆様も睡眠だけはきちんとお取りください。

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