表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/13

男であること

「前田、意外にマジメな男ね」


「フ~すっきりしたあ~」


「あらどこ行ってたの?」


「トイレ、大きいの」


「人生一回きりよ」


「なんのこと?」


「……(苦笑)」







カランカランカラ…



喫茶店ドアが閉まった。女性店員がポカンとしている。

 前田は、高橋と自分の親友の会話をしきりを挟んだすぐ後ろの席で、彼らに背を向ける形で、腕を組んで聞いていた。それを知ってか知らずか、高橋は伝票を持ちながら独り言のように話した。



「あんな感じてよかったのか」

高橋。



「ええ、よかったと思います。アイツは考えすぎるんですよ」

前田。


「ふふふ、そっか。友達思いなんだな」


「そんなことないっすよ」


「で、お前はどうするんだ。オレに話があったんだろ?」


「ええまあ…実は昔つき合っていた彼女に子供が出来たらしいんです」

前田は前髪を触る。


「ふ~んよくあることだ」

高橋は動じない。


「実はその子、オレの子供らしいんです」


「…何ヶ月だ?」


「もう生まれました。元気な男の子らしいです。0歳…」


「…そうか…自分で責任を取ろうと…」



「ええ、オレはとにかく片っ端から女と寝てました…なにも考えずに…男の本能のままに……調子にのってました」


「昔からそうだった。だがそれはお前の勝手だ」


「でも子供ができたって言われて怖くなったんです」


「……」


「父親になる責任もある。なによりその女の子の人生を変えてしまった」


「そして…」

高橋は促す。


「その女性は親友の大切なヒトになるはずの女性だった。オレは二つ一変に変えてしまった」


「でもマジメなアイツは乗り越えたみたいだぞ。失恋はいい勉強だ」


「そうですかね?」


「ああ、アイツは大丈夫だろう。難しいけど、あとはもう一つの方に向き合えよ」


「そうですね。先輩に言われたらそうします」


「はは」


「先輩?……オレ大学辞めます」


「どうすんだ?」


「カノジョと実家に帰ってやり直します」


「…そうか難しい道だぞ」


「やりがいがあります。この前カノジョプロポーズして受け入れてくれました」


「そっかアイツには?」


「いいんですよ、まだ知らなくてあいつマジメだから」



「そうか…頑張れよ」


その言葉を噛みしめると前田は席を立った。高橋の席の前に立つと言った。



「高橋先輩?」


「うん」


「例のカノジョさんとは結婚しないんですか?話聞く限りだと、つき合ってもう随分と経つでしょ?卒業してからかなり経ちますよ」

少しだけ前田は冗談めかして訪ねた。


「ははは…気が向いたらかな~そろそろだと思うよ」

高橋は笑った。


「フフフ、そうですか?」

前田は楽しそうだ。


「それじゃあ」

前田は店から出ようと歩を進めた。


「ああ、そうだ!」


変わらぬ先輩は言った。


「なんすか?」

変わらぬ後輩は応じた。




「あのさ……お金かしてくれない?実は財布が今カラで…」

変わらぬ先輩は頼んだ。


「……いいっすよ。ははは」

変わらぬ後輩は応じた。



「すまん」

変わらぬ先輩は平謝りだ。


「いいですよ~先輩相変わらずイカついですね~」

変わらぬ後輩は楽しそうだった。



 その日から前田は前髪を気にしなくなった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ