男であること
女
「前田、意外にマジメな男ね」
男
「フ~すっきりしたあ~」
女
「あらどこ行ってたの?」
男
「トイレ、大きいの」
女
「人生一回きりよ」
男
「なんのこと?」
女
「……(苦笑)」
カランカランカラ…
喫茶店ドアが閉まった。女性店員がポカンとしている。
前田は、高橋と自分の親友の会話をしきりを挟んだすぐ後ろの席で、彼らに背を向ける形で、腕を組んで聞いていた。それを知ってか知らずか、高橋は伝票を持ちながら独り言のように話した。
「あんな感じてよかったのか」
高橋。
「ええ、よかったと思います。アイツは考えすぎるんですよ」
前田。
「ふふふ、そっか。友達思いなんだな」
「そんなことないっすよ」
「で、お前はどうするんだ。オレに話があったんだろ?」
「ええまあ…実は昔つき合っていた彼女に子供が出来たらしいんです」
前田は前髪を触る。
「ふ~んよくあることだ」
高橋は動じない。
「実はその子、オレの子供らしいんです」
「…何ヶ月だ?」
「もう生まれました。元気な男の子らしいです。0歳…」
「…そうか…自分で責任を取ろうと…」
「ええ、オレはとにかく片っ端から女と寝てました…なにも考えずに…男の本能のままに……調子にのってました」
「昔からそうだった。だがそれはお前の勝手だ」
「でも子供ができたって言われて怖くなったんです」
「……」
「父親になる責任もある。なによりその女の子の人生を変えてしまった」
「そして…」
高橋は促す。
「その女性は親友の大切なヒトになるはずの女性だった。オレは二つ一変に変えてしまった」
「でもマジメなアイツは乗り越えたみたいだぞ。失恋はいい勉強だ」
「そうですかね?」
「ああ、アイツは大丈夫だろう。難しいけど、あとはもう一つの方に向き合えよ」
「そうですね。先輩に言われたらそうします」
「はは」
「先輩?……オレ大学辞めます」
「どうすんだ?」
「カノジョと実家に帰ってやり直します」
「…そうか難しい道だぞ」
「やりがいがあります。この前カノジョプロポーズして受け入れてくれました」
「そっかアイツには?」
「いいんですよ、まだ知らなくてあいつマジメだから」
「そうか…頑張れよ」
その言葉を噛みしめると前田は席を立った。高橋の席の前に立つと言った。
「高橋先輩?」
「うん」
「例のカノジョさんとは結婚しないんですか?話聞く限りだと、つき合ってもう随分と経つでしょ?卒業してからかなり経ちますよ」
少しだけ前田は冗談めかして訪ねた。
「ははは…気が向いたらかな~そろそろだと思うよ」
高橋は笑った。
「フフフ、そうですか?」
前田は楽しそうだ。
「それじゃあ」
前田は店から出ようと歩を進めた。
「ああ、そうだ!」
変わらぬ先輩は言った。
「なんすか?」
変わらぬ後輩は応じた。
「あのさ……お金かしてくれない?実は財布が今カラで…」
変わらぬ先輩は頼んだ。
「……いいっすよ。ははは」
変わらぬ後輩は応じた。
「すまん」
変わらぬ先輩は平謝りだ。
「いいですよ~先輩相変わらずイカついですね~」
変わらぬ後輩は楽しそうだった。
その日から前田は前髪を気にしなくなった。