今と昔と
男
「へんな男もいるもんだ」
女
「男の8割はヤりたいだけ。」
男
「あとの2割は?」
女
「話しにならない」
半年前、僕と前田は暑い中、駅前の通りを歩いていた。始発電車内の涼しさは格別で、まだ朝だというのに外は地獄に感じられた。
その日は週の真ん中木曜日、僕たちはお酒を飲み散々騒いだ挙げ句、終電を逃した。そして、歩いて最寄り駅まで帰る元気もなく、路上で一夜を過ごした。その日の大学の講義が午後からと言うこともあり、気持ちに余裕があったせいだろう。
朝から出勤のサラリーマンやOLたち。平日の通勤ラッシュ、たくさんの人と流れに逆らうように歩く僕たちは場違いな感じがした。
僕は、なんだかすれ違う人たちに、申し訳ないような気分になっていた。
「学生の特権だね」
僕はカラオケに行ったせいもあり、嗄れた声を絞り出す。
「ああ、本分は勉強だけどな」
前田は前髪を相変わらず気にしていた。すれ違う人たちは誰も気にしていないと言いたかったが、言わないでおいた。
「今の子可愛かったな~おおさっきのJKは素材がいい?さっきの子は胸が大きいなスゴ~」
前田は、好みの女性が通るたびに僕の耳元で女性の感想を述べた。
「お前はどんなのが好みだよ?」
前田はニヤニヤしながら言った。いやらしいニヤニヤが適切だろう。まあ前田のニヤニヤは様になってる。
「好みかあ~いやその…う~ん優しい人かな~」
なんというか、その時の僕は女性の好みと言われても、答えられるような心まで成長してなかったと思う。
「優しい?なんかほかにないのか?例えば細身がいいとか、ポッチャリがいいとか巨乳がいいとかさ~」
前田の声が熱を帯びていた。
「う~ん、やっぱりスタイルはいい方がいい、あと料理が上手だといいな」
「なるほど~俺は彼女にまあ料理は作らせるし、浮気はさせない。飽きたらそこまでだ」
なにか違うのでは?と思いつつ前田の話しを聞いた。
「やるだけと本命は分けとかないとな」
違うんじゃないか?
その時の前田の熱を帯びた声が頭から離れない。友人とはいえ、恋愛の価値観は共有できない気がした。
「おっ!あの子に声かけてみよう~」
前田は小走りでさっきのスタイルの良い女性の元へ近づいていった。
そんな前田にため息をついたのを覚えている。
料理を作らせる…
やるだけと本命…
好きってなんだ?
喫茶店の会計レジへ向かうとき、僕はフと少し昔のそんなやりとりと言葉が頭に浮かぶ。僕は前田と一緒にさっき接客をしてくれた女性店員の前へ向かった。前田がわざとらしく
口角を上げたのがわかった。
スマイル~
「あの僕のアドレスです。よかったら連絡ください」
店員さんと前田は、キョトンとした顔で僕を見た。
「どした?」
前田。
自分で自分の行動を理解できなかった。
私、妊娠したみたいなの?
料理を作らせる…
そんな言葉が頭を過ぎる。1年ぶりに僕はよく分からないが、刀を抜いた。
いやただ単に店員さんが好みだったんだと思う。
……
どうなんだろう?