I'm In Love?
男
「ノッチカッコいい~」
女
「そう?高橋先輩と同じよ~というかこの話、終始、都合のいい男の妄想よ」
男
「そうかなあ~」
女
「女はムードに弱いけど、現実的なのよ」
男
「始めて聞いた(笑)」
女
「テストに出るから」
「ハハハハハハハ」
ノッチは陽気に笑った。僕もそれにつられて笑った。お互いなんの話かは忘れている。この喫茶店での料理を食べ終えフリートークだ。1時間ぐらいたっただろうか?例の女店員さんは料理を下げてくれたり、お代わりの水を持ってきてくれたりしている。 なんとなくだが、意識してしまい会話がその前後、ギコチナくなる気がして僕はならない。
「そんでさ、俺のカノジョ、ソースと醤油間違えてさ…」
ノッチは自分のカノジョとのノロケ話を始めた。ノッチはにこにこしていた。聞いていてなぜだろう?気持ちがいい。
「ははは~そうなんだあ~でもノッチ本当にカノジョ一筋なんだなあ~」
僕
「そんなことないよお~」
「羨ましいし、なんかそういうヒトってほかのヒトにもモテそうだ」
羨ましい。
「そうかなあ~?」
「前田やノッチみたいに女の子にモテたいや~」
なんとなくだけど口にでた。
「モテるよ」
断定気味に言ってしまう。
「ははは~まあでも、いろんなヒトに言われても唯一、1人にモテれば俺は満足だよ。ほかはどうでもいい」
少しマジメな顔で答えるノッチが羨ましくてしょうがない。
「本当かよ?」
「それでも、町中でいろんな女のヒトに目言っちゃうけどね~
はははは」
陽気にカラカラと彼は笑った。
「男の性だよそれは~」
僕も笑った。
「ほらああの店員さん、綺麗だよね~うん」
ノッチは少し控えめな大きさ声で言った。
「…そうだよね~」
僕も軽く相づちを打った。ちらりと僕は彼女の方を見てしまう。軽い罪悪感に囚われながら…
「自分でモテないと思うなら話しかけてみたら?」
僕はギクリとした。ノッチは何も知らない。
「い?な、なにいってんの?ノッチ~僕なんかお会計のやりとりだけで意識して、テンパるよきっと…」
「別に今すぐつき合うとかそういう話じゃないよ~なんだろうな~少し言い方が悪いけど、あなたの事、ちゃんと見てますよ~みたいな~なにか始まるわけでもないし…
少し一歩踏み出すだけでも随分違うと思うよ」
ノッチ!それは少し説教臭くないか?と思い、高橋先輩が浮かんでしまう。
そして内心もう一歩踏み出し過ぎてオフサイドでした、と思ってしまう。もしくはレッドカードだろうか?
泣きたくなる。
「そろそろ出ようか?」
ノッチ
「ああ~そうだね」
僕
「お金、渡しとくよ。これ伝票~」
ノッチに強引に渡される。たぶんのノッチとしては何も考えておらず、会話の流れからだろう。
「表で待ってる」
ノッチは店から出ていった。
カランカラン…
扉のベルが鳴った。
僕は財布の中身を確認するとレジに向かった。別に気にすることではない。ただ、お金を払ってそれで終わりだ。今までのバカなことは、全部水に流れた。問題ない。
幸い彼女は他の席に料理を運んでいる。レジには誰もいない。奥から料理を作るシェフのような男のヒトが顔を出した。人手が足りないから店長直々にでてきたようだった。肩の力が抜けた。
「ありがとうございます~あ?私がやりますから」
突然、例の女性店員さんの声がした。タイミングが悪い。
「そう?」
というとシェフのような服装の人は奥に引っ込んでいった。
しかたなく僕は固い動きで伝票を彼女に渡す。
「2人で1500エンになりますね」
彼女は言った。目があった。やはり綺麗だ…
僕と目が合うと彼女は顔がひきつる、ような気がした。気がしてならない。早くこの場から立ち去りたくてしょうがない。
僕はピッタリ1500円を差し出す。
「し、失礼します」
彼女はそれを受け取った。彼女は僕の顔をみている。僕はさっさと済ませて店の表のノッチと合流したい。
「レ、レシートいりませんから」
僕は扉に手をかけた。
「あ!待って!」
彼女が言った。ドキリとする。吐きそうだ。
「ははい?」
素っ頓狂な声の僕
僕は彼女の口の当たりを見据えた。彼女の口がまるでスロー再生のように動いた。
あ・の~
…あ?
「…あの~この前貰ったアドレス間違ってましたよ」
「はい?」
僕
「送ったら間違ってるみたいでメール、帰って来ちゃいました。」
「はい」
よくわからない
「え~と前田さんでしたっけ?彼に聞いても知らないって…教えてくれませんでした」
彼女はしっかり僕を見据えていた。
「はあ」
「あの~私が正しい自分のアドレス渡しますね。はいコレ」
僕は、硬くなった筋肉を懸命に動かし、彼女の名前とアドレスの書かれた紙を受け取った。
「あ、ど、どうも」
……
「なんでそんなに硬いんですか?変なの~フフ」
彼女は僕の顔を覗きこんだ。その顔は少し微笑えんでいた。
「あ、ど、どうも」
……
不思議そうな顔で僕をみる彼女を余所に僕は扉から外に出た。
カランカランカラン
……
ノッチが表で待っていた。
「このあとどうしようか?」
ノッチが言った。
僕はそれに答えず質問に質問を重ねた。
「オ、オフサイドじゃなかったのか?」
ノッチは口に出た僕の心の叫びに驚いたようだ。
「……なんのことかわからないけど……とりあえずオフサイドじゃないんじゃないの…」
「はいっ?」
僕は間の抜けた返事をした。
「何かはわからないけど、オフサイドじゃないと…自分で思えばいいさ」
ノッチはゆっくりと言った。
「…うん」
「ただし心の中にしまっておいた方がみのためだけどね…」
ノッチはカラカラと笑いながら歩き出した。
僕はその背中を追いかけながら、空を見上げてみた。
「青い…」
僕は呟きノッチの背中に追いついた。
「春」が近づいた気がした。