1年前の男
男
『彼はかわいそうだよな』
女
『バカじゃないの!女々しいだけよ』
男
『……』
「わたしね……妊娠したみたいなの…」
目の前の彼女は僕に言った。
こんな時なんて言えばいいんだろうか?彼女の手を握り、喜べばいいのか?それとも彼女に結婚を申し込むべきなのか?
男として、オスとして半人前だった当時19才の僕は、それがわからなかった。
「な、何ヶ月?」
とりあえずそう言った。彼女は俯くと口を開いた。
「キミの子供じゃないの」
「…えっ?」
確かにそうだ。心当たりがない。
やっとの思いで彼女に告白したのは10日前、OKして貰って付き合うようになったのは一週間前。手をつないでデートして、買い物して、やってお互いの事かわかってきた。そのくらいの関係。始まったばかりの恋だけど、この一週間生まれて初めて出来た彼女との幸せな時間。僕には勿体ないぐらい綺麗な人だ。
「実はね…一ヶ月前…元カレと…」
彼女は語り出した。彼女の言葉が僕を殴りつけた。何度も何度も。
その3日後…
彼女は大学に退学届けを自ら出し、堂々と大学から元々のカレシの元へ、去って言った。好きだったから…大切な人だったから、なによりタイミングが最悪だった。
ショックだった。
男と女の関係のなかったプラトニックな恋は一生引きずるらしい……
確かにそうだ
気持ちだけが宙ぶらりん…
融通が利かないのが男心…らしい…
本来、遊び盛りのはずの大学一年生の僕は、彼女のことを忘れようと必死に勉強に打ち込んだ。
彼女が去って、行き場のない複雑な気持ちを、勉強とサークルの忙しい毎日にぶつけた。
『もう恋なんてしない…』
ありきたりだけど、よく使い回される言葉を胸に秘め、日々を送った。
意外としっくりくるのだ。この台詞は…