第5話:『血薔薇の夜宴』
夜の城は静まり返り、赤いカーテンが揺れるたびに、壁の薔薇の紋章が血のように光った。
塔の上の月光は冷たく、庭に咲く薔薇の花弁を銀色に染める。だが、そこに赤い血の色が混ざり、微かに薔薇は笑うように見えた。
カーネリア・ヴァーロンは晩餐会の後、庭の中心に立ち、微かな風に薔薇の香りを吸い込む。
「美しさは、誰かの代償の上に咲く……でも、それでも欲しい。」
指先が赤い花弁に触れると、リリスの胸に鋭い痛みが走った。画家は息を止め、薔薇を見つめる。そこには、カーネリアの決意と孤独が映し込まれていた。
侯爵は怒りと独占欲に駆られ、庭に駆け寄る。
「お嬢様、なぜ私を……」
言葉を途切れさせる。薔薇の一輪が侯爵の足元で赤く咲き、彼の心に痛みを刻んだのだ。
「……これが……代償……」侯爵は震え、後ずさる。だが、その表情は恐怖だけでなく、欲望と嫉妬に満ちていた。
セラはカーネリアの影に立ち、微かに唇を噛む。
「お嬢様……止めることは……」
「できないわ、セラ……」カーネリアの瞳は赤く光る月に映え、孤独と決意が混ざる。
「これが私の運命なら、受け入れるしかない。」
その瞬間、庭の中央で一輪の薔薇が鮮やかに咲き、血の香りが辺りを満たす。
リリスは倒れ、侯爵は呻き、セラは震える。
マルコ神父が駆け寄る。
「カーネリア様、これ以上は……!」
しかし、力は止まらない。薔薇は笑い、赤く咲き乱れ、城全体を覆う運命の象徴となった。
カーネリアは微笑みを浮かべる。美しい、冷たい、そして容赦ない。
「誰も救えない……それでも私は美しく咲く。」
その声が、夜の城に反響する。薔薇の影は、全ての者の心に刻まれた。
愛する者も、憎む者も、忠誠を尽くす者も。全てが血の薔薇の下で運命を翻弄される。
夜が更け、城の塔から見下ろす庭は、赤く染まった薔薇で埋め尽くされていた。
その美しさは、誰も救わない――しかし、あまりにも惹きつけられる光景だった。
カーネリア・ヴァーロンは一人、薔薇の香りに包まれながら、静かに呟く。
「永遠の美……これが私の代償……誰も救われない、美の物語……」
そして赤い薔薇は、微笑みながら夜に咲き乱れていた。