表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

第4話:『薔薇の迷宮』

晩餐会の夜、城の大広間は赤いカーテンに覆われ、シャンデリアの光が壁の薔薇の紋章を揺らしていた。

カーネリア・ヴァーロンは卓に座り、侯爵の視線を感じながら、微笑みを絶やさなかった。しかし、その笑みはいつしか、誰かの心に恐怖を落とす刃となる。


「お嬢様、本当に美しい……」

侯爵は手を差し伸べるが、カーネリアは軽く首を傾げた。

「ありがとうございます、侯爵様。でも、私には守るべきものがあるの。」

その言葉の奥には、リリスとセラへの思いが混じる。しかし、侯爵には理解できない。嫉妬は静かに、しかし確実に芽生え始めていた。


その時、神父マルコが静かに部屋に入る。

「カーネリア様、少しお話があります。」

彼の声は穏やかだが、瞳には警告の光があった。

「あなたの力は、周囲の命を蝕み始めています。気づかぬうちに、愛も、忠誠も、奪われている。」


カーネリアは視線を下げ、静かに応える。

「分かっている……でも、永遠の美を手にするためには、避けられない道なの。」

その決意が、周囲に冷たい空気を落とす。


晩餐会が進むにつれ、侯爵の微かな怒気が表れる。

「なぜ、リリスにばかり心を向けるのだ?」

リリスは絵筆を手に、震えながらも答えない。カーネリアは冷ややかに笑みを返すだけ。

その微笑みが、侯爵の嫉妬を煽り、晩餐会の空気は張り詰めた。


夜が深まる。庭園に出たカーネリアは、赤い薔薇に手を伸ばす。

「美しさは、誰かの命の上に咲く……でも、それでも私は欲しい。」

指先に触れた薔薇の花弁は、微かに熱を帯びて、昨夜よりも鮮やかに血の色を映していた。


その瞬間、侯爵が庭に現れる。

「お嬢様……」

瞳は怒りと独占欲に燃えていた。カーネリアは一歩下がる。

「侯爵様、ここでは……」

言葉が途切れた瞬間、薔薇の一輪が侯爵の足元で赤く光り、彼の心に微かな痛みを走らせる。


「……何だ……これは……」

侯爵は動揺する。カーネリアの力は、無意識に、そして確実に人々に影響を与え始めたのだ。


セラは影から見守る。

「お嬢様……止められますか?」

カーネリアは静かに首を振る。

「いいえ……止められない。でも、これが私の運命なら……」

その瞳には決意と孤独、そしてほんのわずかな悲しみが浮かんでいた。


夜が更け、城の塔の上で、カーネリアは古文書に向かってつぶやく。

「永遠の美……奪うこと……すべてを理解する日が、来るのかしら。」

外の庭では、薔薇が赤く咲き、甘く、冷たく、そして誰も救わない微笑みを夜に浮かべていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ