第1話:『血に笑う城』
城の窓辺に、この領地の夕陽はいつも血を流していた。
カーネリア・ヴァーロンは微笑む。白き肌にさらに白い歯を見せて。誰も彼女を縛れない、そう思ったのはその日までだった――。
「永遠が欲しいかい?」
古い書物の墨は冷たく光る。ページをめくるたび、文字は囁くように彼女の耳に届いた。約束か、呪いか、それはまだ判別できなかった。
城の塔の奥。埃まみれの石壁に囲まれた小部屋で、カーネリアは指先で古文書に触れる。文字は淡く震え、彼女の心もまた震えた。
“代償を払えば不死を得る。”
代償――それは、「奪うこと」。
カーネリアは瞳を閉じる。
奪う……命を? 愛を? 美を?
答えは彼女の欲望の中にある。
その夜、薔薇は赤く笑った。冷たい露に濡れた花弁が、闇に血のように光る。
「私は……永遠を手にする。」
小さく、しかし確かな決意の声。指先に触れた古文書が微かに震え、彼女の運命を呼び覚ます。
城の廊下を、従者のセラが静かに歩む。
「お嬢様……?」
振り返る瞳に、忠誠と不安が混ざる。だがカーネリアの笑みは、彼を惑わすだけだった。
その瞬間、血の薔薇が一輪、窓辺に咲き誇る。
美しく、冷たく、そして……誰も救わない微笑みを帯びて。