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二階で二人きり


『今日からここに止まれ』


 店の閉店時間にマスターからそう告げられた。驚くことにこの「喫茶ロキ」の二階は普通に生活住居としてなっていた。広さは六畳二間。畳とフローリングである。俺とエイミーには広すぎるぐらいだ。

 ちなみにマスターは別の場所にも家を持っているらしく今はそっちで暮らしていると言っていた。つまりだ。俺とエイミーは二人きりとなってしまったのだ。


「ふぅ。今日は疲れたな」


 足がガクガクして、立っているのも正直辛いので、そのまま畳に倒れる。

 俺は、畳の上にうつ伏せに寝っ転がりながら、横で座るエイミーに向かって呟いた。


「え!? どうしてですか? むしろ楽しかったですよ」

 

 エイミーは、いたって元気だ。まだまだ体力が有り余っているようだな。

 俺なんてもう、立つ気力もあんまりないのにな……。


「……そうだよな。エイミー、君はトイレ掃除しかやっていなかったよな」


 俺は半回転して、仰向けに寝っ転がる。丁度天井のシミがよく見える。

 天井のシミが人の顔のように見えて面白い。小さい頃はこういうのに弱かったと思う。

 そんなことを思いつつ、エイミーを見ると、俺の枕元でちょこんと座っている。何もしようともせずただ座っているだけだ。

 テレビでも見れば良いのになぁ……。


「なあ、エイミー。君はなぜ俺についてきたんだ? 俺なんて情けなくて、弱虫で、君を見捨てようとした……最低最悪の奴なんだぞ?」


 俺の突然の質問にエイミーが少し驚いた様子で俺を凝視する。俺から視線を離し、少々考えた後、再びエイミーは俺を見る。


「音也さんのことが好きだからという理由ではダメですか?」

「はぁ?」


 丁度俺の視界にエイミーの赤い顔がある。ちょっと頬が赤いエイミーが妙に可愛く思えて仕方がない。

 何故かエイミーの唇を見てしまう。

 ピンクで薄い唇だ。これに触れたら……俺、どうなるんだろうか?


「冗談です。少しからかっただけです」


 エイミーが可愛らしくクスクスと笑っている。

 やられた……。エイミーのクスクス笑いがすべてを物語っている。


「あ、うん。分かってたよ。はっははは」


 本当は、本気だと思っていたなんて言えないので笑って誤魔化す。

 どうやら顔が笑っていないらしく、エイミーが俺の顔を見て疑いの目を向けて訊いてくる。


「本当ですか?」

「はっははは。本当だとも!」


 尚も笑い続けてなんとかエイミーの疑いの目から逃れる。

 言ったらきっとバカにされるからだ。


「本当の理由は、ご飯を食べさせてもらう為です」

「そう言えば飯はタダだもんな」


 今日の夕食は、マスターが残り物をくれたのだから問題ない。しかもエイミーの食べる量も考えて多めにくれたものだから感謝しないと。おかげで今日は、満足いくまで食べれそうだ。

 風呂もあるみたいだから久々に入ろうと思う。

 着替えもマスターが用意してくれた。

 マスター……不思議な人だ。俺達が来る前から俺達がこうなる事を予測してたかのように気持ち悪いほど用意がいい。

 これは何か裏があるかもしれない……って考えすぎだよな。うん。


「音也さん。お風呂入ります?」

「風呂? なんだ、先入ってもいいのか?」

「いえ、違います」


 エイミーが首を横に振って、俺の言葉を訂正する。


「一緒に入りますかという意味です」

「なっ……!?」


 待て待て。俺は健全な十七歳男子なんだぞ? 

 もちろん毛だって生えているんだぞ? 

 しかもこの歳の男子はエロイと言うんだぞ。

 というか中学入ってから急にエロクなるだぞ。(俺調べ)

 そんなエロイ男子に「一緒にお風呂は入りませんか?」なんか言ったら……ダメじゃないかっ!


「ななな何言い出すんだ君はぁ!? 正気かぁ?」


 俺はおちおち寝ている場合ではないので、飛び上がるのように起きて、エイミーの正面に座る。

 エイミーが不思議そうな顔をして俺を見る。


「なんでそんなに顔を真っ赤にしているんですか?」


 エイミーは平然とした顔で首を傾げて訊いてきた。

 エイミーの髪は長い。背中の真ん中ぐらいまで伸びている。しかもサラサラしていている。ちなみに俺は髪が長いほうが好きだ。

 その髪がエイミーが首をかしげると同時になびいて、女の子特有の匂いが俺の鼻腔をくすぐる。


「だだだ、だって考えてみろ! 俺と君は年頃の女と男だ。毛も生えているであろう。しかも俺達は付き合っているわけでもない。さらに一緒に旅はしているが会って日が浅い。以上のことを踏まえて俺達にはそういうのは早すぎると考えているんだぁ!!」

「……」


 無言。


「頼むエイミーッ!! 何か反応を示せよ!!」

「あ、すいません。つい、音也さんの熱弁に聞き入りすぎて暫く考えていたのです」


 ペコリと頭を下げるエイミー。一緒に旅していて分かったが、たまーに天然のところがある。例えばさっきの発言とか。


「わかってくれたみたいだな」

「はい。じゃあ、私が先に入ってきます」


 エイミーは、敬礼をしてから、着替えを持って風呂に向かった。

 俺はそれを見届けた後、再び畳の上に寝っ転がる。

 そう言えば、こうして畳の上で寝っ転がるのは一年振りぐらいか。一年前は、こんな旅をすることになるなんて思いもしなかった。というか人並みの幸せを持っていたから思うわけもない。桜に宿題を見せてもらったり、隼人と悪ふざけをしたりしていたな。

 だが、それらすべてをあの男にぶち壊された。俺の平凡ながらも大切なものを。

 俺は、人として大切な物を失ったような気がする。

 分かっている。復讐を果たしたってもう二度と大切な物が返ってこないことを。

 それでも俺は、復讐を果たす。

 それが俺の人生の目標であり、生きがいだからだ。

 そんなことを思いながら旅にでた。

 旅に出て一年近くが経ってエイミーと出会い、サングラスの男によって自分の決意の弱さを知り、それを克服した。

 そんな事を思い出している内に俺は、睡魔に襲われそのまま風呂も入らずに眠りの淵へと落ちっていった。


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