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暴食のエイミー

 

 俺達二人は、あれから一緒に旅をしている。

 正直言って少し後悔している。まさかエイミーの奴がこんなにも食費がかかるなんて知らなかったからだ!


「私、このパフェと言うものが食べたいです」

「……あのな。お前、どれだけ食べれば気がすむんだよ! ふつーありえないだろ? 朝飯にハンバーガー十個とか。しかも今さっき、カツ丼四杯食ったじゃないか!? その上パフェを食べたいとは、何様だぁ!!」


 ふっふふふ。エイミーに言ってやったぞ。 

 俺が言いたい事を全部言ってやったぞ!

 どうだ、エイミー?


「ダ、ダメ……ですか?」


 俺の予想通り、エイミーが上目遣いでしかも目を涙でウルウルさせて頼んでくる。ふん、もう騙されないぞ。そう、騙されないぞ……と、思ったが勝てなかった。

 俺は、渋々エイミーを引き連れて店の中に入る。

 店の中は、さすがに昼時を過ぎたので空いている席が目立つ。

 それでもスーツ姿の眼鏡を掛けた男性が一人、勉強をしている学生が一人(まだ学校にいる時間のはずだが)、楽しそうに話す主婦が四人、新聞を読む男の老人が一人と客がいないわけではない。

 さらになぜか知らないが音楽の授業で聞いたベートーヴェンの交響曲第5番の運命が流れている。正直、喫茶店に合わない気がする。

 それに俺がこの曲が好きじゃない。理由は……暗から明へと移り変わるのが感覚的に気に入らないのだ。

 俺とエイミーは、窓際の斜めに日が射す席に座り、エイミーが食べたがっているパフェを注文した。それから数十分後に注文したパフェがやって来た。

 うわぁ、すげぇボリュームだ。俺なら絶対に食わないぞ。まあ、エイミーが食べるからいいんだけどな。


「いただきますです!」


 エイミーは、両手を合わせ、勢いよくパフェ貪り始めた。

 すごい食べっぷりだ。今度、どこかの何分間で食べ切れたらタダとか○万円プレゼントとかに挑戦させてやろう。自分の飯代ぐらいは稼いでもらわなければこっちがもたない。


「なあ、エイミー」

「にゃ、にゃんですか?」


 エイミーは、食べるのに必死なのか猫のようなしゃべり方だ。こういうのを萌えと言うのだろうか? 

 そんな事はどうでもいいか。

 気を取り直して質問といくか。


「あのサングラスの男は何者なんだ? 『盗み出した』と言われていたけどあれは本当の事なのか?」


 エイミーの表情から笑顔が消えた。

 エイミーは、とりあえずスプーンを置いて、パフェを食べるのを中断した。

 パフェはもう半分しかない。食べるのが早いな。

 

「答えてもいいですけど、私も音也さんに聞きたい事があります」

「俺に聞きたい事?」

「はい」

「分かった。その聞きたい事は俺の質問に答えてからにしてくれ」

「はい」


 エイミーはうなずいて、パフェの残りを食べ始める。

 クリームがなくなり、最後にコーンフレークを日と欠片も残らずに食べて、お手拭で口元を綺麗にしてからようやく質問に答える。


「私、実は『ある研究所』に一人で潜入していたのです」

「『ある研究所』て、どんな研究をしている所なんだ?」

「……」


 エイミーが一瞬の沈黙を破って答える。


「『ナノマシン』です」


 次は俺による沈黙。


「そこでは日々新型のナノマシンの開発と実験が行われている場所なのです。ちなみにあのサングラスの男は『新型のナノマシン』の実験に関わる職員の一人です」

「なるほどな……つまり、君はその『研究所』にある目的で潜入して、試作品である『簡易ナノマシン』を盗み、それがあのサングラスの男に見つかり追われていたというわけか」

「その通りです」


 エイミーが満足そうにうなずいた。

で も待てよ。なんでエイミーは、『研究所』なんかに一人で潜入していたんだ。わざわざ自分から危険を冒すなんておかしい……。


「なあ、エイミー」

「はい」


 屈託のない笑顔が俺の目の前にある。

 こんな眩しい笑顔の裏にこの子は、何を隠しているというんだ?


「なぜ君は、『研究所』に潜入していたんだ?」

「……それについては時期が来たらお話しますです」


 目を見て分かる。

 多分、今は何を言っても教えてくれないだろう。

 だったら諦めるしかない。


「分かった。それよりも何だ。訊きたいことって?


 エイミーは水を飲んで乾いた喉を潤す。

 まさか、そんなに深刻な事を聞きたいのか?

 これは心の準備がいるな。

 そうだ。今のうちに深呼吸をしておこう。

 一…二…三…四…五…六…七…八…九…と、よし!

 

「音也さん……」


 鼓動が早くなる。

 緊張するな。


「お金、足りるのでしょうか?」

「はあ?」


 予想外すぎる質問に思わずアホぽい声が出てしまった。

 でも仕方がない。

 さすがにこんな質問なんか予想していなかったのだからな。


「だからお金、足りるんですか? このパフェ、今値段を見ましたけど……」


 ふむ、確かにエイミーが食べたパフェ――ジャンボデラックススペシャルパフェⅡは高い。

 値段はなんと五千円。

 普通の俺ぐらいの歳ならば、まず、自分でこんな甘ったるくて高いパフェなど注文しないであろう。

 だが、俺は普通じゃない。

 なんせ俺は、一人で一年も旅をしているから普通じゃないのだ。

 だから大丈夫。

 このぐらいの金なら財布にあることぐらいチェック済みだ。


「心配するな。金ならある」


 胸を張ってそう答える。

 財布を取り出し、中身を確認する。

 千円札が一…二…三…四…て、あれ?

 いやいや、待て待て。落ち着け。

 五千円札と一万円札があるはずだ……て、あれ? ないぞ。

 いや、落ち着け俺。小銭がまだあるはずだ。

 五百円玉が一枚に百円玉四枚に十円玉が九枚が五円玉が一枚に一円玉が四枚だ……と?

 足りない。足りないじゃないかッ!!

 一円、一円足りない。たった一円、されど一円。一円に笑うものは一円で泣くって本当だったのか。

 エイミーが不安そうな顔で俺を見つめている。

 おおっと、喫茶店のマスターまで怪しい目つきで俺を見ている。

 この一円だけ足りない事態、どうすればいいんだ?





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