謎の少女Ⅱ
何か危ない電波でも受信したのかこの子は?
だとしたら危ないな。その内、嘘だッ! とか、くけくけくけとか言いそうだな。
うわぁ! 僕、そうだとしたら死亡じゃん。
いやだよそんなの! 僕には果たさなければいけない事があるんだから。
あいつを……フェビアン・エドガー・エンフィールドを殺さなくちゃいけないんだから。
「……逃げなくちゃ。早く逃げなくちゃ」
「逃げる? いきなりなんだよ?」
少女は僕の腕から離れたと思ったら僕の腕を引っ張って走り始めた。
なんて力だ。僕をものともせずに走っているけど……。
「あ! ちょ! 僕のバイクに荷物ぅ!」
「逃げなくちゃ。逃げなくちゃ……」
ひたすら逃げなくちゃと少女は呟きながら走る。
僕はそれに連れられる形で走らされる。
あ~意味が分からん。僕のバイクに荷物が……。
僕が未練がましく思っていると少女は公園から出て街に入る。
そして横断歩道を渡り、商店街へと入る。
商店街は、丁度お昼時なのでまだ空いているほうだ。
商店街を向けて少女と僕は、右へと曲がって五階建ての古いビルの中に入った。
「はあはあ……。ここまでこれば……」
鍵を閉めて埃臭い所で呼吸を整える。
そして少女を睨んで叫ぶ。
「何なんだよお前。僕の荷物と自転車を公園に置いてきてよ!!」
「……」
何も言わず僕を見つめる少女。
その無言が怖くなって、虚勢を張る。
「何だよ?」
「あそこにいたら私もあなたも殺されていました。だから逃げたんです」
先ほどのバカキャラの雰囲気は、今の彼女からは微塵にも感じられない。
冷静であるがどこか怯えた雰囲気を感じる。
走っている時は「逃げなくちゃ」と呟くし、何かただ事じゃないのか?
僕は、そう考えると急に彼女に興味をそそられた。
「君はもしかして誰かに狙われているのか?」
顔を俯かせる少女。
やはりそうかなのか。だとしたら誰がこの子を狙っているのか?
―――まさか!
「君はフェビアン・エドガー・エンフィールドに狙われているのか!?」
「い、痛いです……」
少女は顔を歪めて僕に訴えてきた。
僕はあわてて勢いのあまり掴んだ手を離し、気持ちを落ち着かせてもう一度訊く。
「君はフェビアン・エドガー・エンフィールドに狙われているのか?」
「……」
首を静かに横に振った。
肩をがっくりと僕は落として、外に出ようと鍵を開ける。
しかし少女が僕と扉の間に入って、再び鍵を閉め僕の前に立ち塞がった。
「何だよ?」
「外は危ないです。だからもうしばらくここに隠れましょう」
少女がそう言って、僕をここに留めようとする。
生憎僕はバイクとカバンを回収しないといけない。
なのでこんな所なんかにいつまでもいられない。
「君だけだろ? 僕には関係ないことだ。悪いけど隠れるなら一人で隠れておいてくれよ」
僕が少女を無理やり退かそうとしたが、少女はまるで岩のように動かない。
僕よりも小柄な体のくせに何で急にこんな重くなったんだ。
「こうなったら実力行使です。どうしても外に出たかったら私を退かしてください!!」
「くそ……!」
僕はもう一度力を入れて退かそうとするがやはり動かない。
一体何がどうなっているんだよ?!
「くそぉぉぉお!!」
足を踏ん張って退かそうとするが一ミリとて少女は動かない。
どうして?
「いい加減に諦めたらどうですか?」
少女は、涼しい顔をして僕にそう言う。
あ~むちゃくちゃムカつくなぁ。
「黙れぇぇぇえ!!」
こうなったら意地でも動かしてやる!!
もう、限界まで力を入れた瞬間、少女は簡単に動いた。
僕は勢い余って転んだが、これで外に出られる。
しかしなんでこうも簡単に動いたんだ? さっきは、あんなに力を入れたのに一ミリとて動かなかったのに……。
まっ、いいや。早く外に出よう。
まずは鍵を開けて、次に扉を開いて、ほら外だ。