初任務
コンコンと優しいドアの叩く音が響く。
「起きている、音也」
この声は今野さんか。もしかしてもう朝なのか? 本当に俺、寝れなかったんだな……。
「はい」
「そう。なら入るわよ」
今野さんが部屋のドアを開け、堂々と入ってくる。すらっとした体つきはいつ見ても綺麗だ。
「ちょ、ちょっとあんた!?」
俺の顔を見た途端、今野さんの表情が変わるのが分かった。そんなに俺の顔がひどいのだろうか。
一睡もしていないから目の下の隈がひどいのだろうな……。
「もしかしてあんた寝てないの?」
「まあ、そんな感じです」
身体は妙に重いし、瞼も今にも閉じようとするけど、閉じたらエイミーのあの表情が鮮明に浮かび上がってきて寝れない。
一体どうしたって言うんだ俺。
「大丈夫なの、あんた。今さっき、管理官が帰って来たからあんたとエイミーをモニタールームに連れてくるように言われたけど」
管理官ってここで一番偉い人のことか。そう言えばまだそれらしい人には会っていなかったか。
眠気などまったくないから、今は会っても大丈夫だ。それに挨拶は早めの方が良い。
「大丈夫です。ただ……」
「ん?」
エイミーと今、顔を合わせるのは非常に気まずい。できればモニタールームまで別々に行きたいところだ。
「エイミーとは今、顔を合わせ辛いので別々行くのはダメですか?」
「昨日の晩から様子がおかしいと思っていたけど、あんたら一体何があったのよ」
「……」
言えない。俺の口から軽々しく言える事ではないのだ。
こういうことは本人の口から告げるのが一番だと思うからだ。
「……分かったわ。エイミーは新一に任せるわ」
「ありがとうございます」
素直に俺の願いを受け入れてくれた事に驚いた。
もう少し何か言われるのかと思ったけどな。
「ほら行くわよ」
「はい」
俺は、今野さんに連れられてモニタールームに行くことになった。
〆
少ししてから目の上を腫らしたエイミーが上条に連れられてやってきた。
一瞬、俺とエイミーは目が合ったがエイミーの方が俺から視線を外した。
今野さんと上条を間にはさむ形で管理官の正面に立つ。
黒々としたスーツを着た管理官の横に大輝さんが何かの書類を両手に持って立っている。よく管理官を見て見ると女性のようだ。
歳は二十代後半から三十代前半ぐらいか? 随分と若い人のようだ。
「初めまして西條音也にエイミー・ドリーン・エージー。私はこの組織の管理官を任されている藤堂沙織だ。君達のことはそこにいる新一から聞いたよ。
君達が過去、何があったかは詮索するつもりは無い。ただ奴らを潰す意思を持つ仲間として迎え入れよう」
「はい」
若いのに凄いしっかりしている人だ。さすが管理官としてこの組織のリーダ―を任されているだけある。
この組織に少しでも役立てばいいけど、俺に力なんかない。
だから足手まといになるだけだと思うけど……。
「いきなりで悪いが、政府の方から任務の要請があった。大輝、説明を」
「はいネ。ちょっと後ろのモニターを見てネ」
俺らは言われたとおりに後ろのモニターを見ると何かの施設のような画像が映し出される。
「政府からの資料によるとこの施設は、表向きはナノマシンの研究施設の様ネ。ただ研究施設の地下に『妖精族』を捕らわれているようネ」
「!」
エイミーの身体がビックと揺れるのが分かった。『妖精族』ってもしかしたらエイミーの仲間達かもしれないから反応するのは当然だ。
「そこでナノマシンによる新たな強化人間を生み出そうためにその『妖精族』を捕らえているらしいネ」
「まだ強化人間の種類を増やすつもりなの、奴らは……」
「そうみたいネ。そこで今回の任務は、捕らわれている『妖精族』を救出が今回の任務ネ」
「施設はどうするんだ?」
上条が大輝さんに訊ねる。たしかにこうした施設は破壊するのが当り前だろう。
「それは我々ではなく、『鷹』の方がやるようだ」
上条の質問には管理官が答えた。
「なるほど」
「普段なら新一と真視に行ってもらう所だが……」
管理官がチラッと俺とエイミーを見て言葉を続ける。
「新一とエイミー。真視と音也。二人組に分かれて行ってもらう。陽動と救出に分かれて任務を遂行してくれ」
「はい」
こうして俺とエイミーは、初めての任務に挑むことになった。