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謎の少女Ⅰ

 ――――両親が殺されて一年。



「ねぇ、音ちゃんはお空を飛びたいって思ったことはある?」

 

 赤いワンピース姿の女の子が僕にそう訊いてきた。

 その子は、幼馴染の水月桜と言って、後ろの髪を二つに結んでいるのが特徴だ。


「うーん……。確かにお空を飛べたら楽しいよね」

「あたしもそう思うの。音ちゃんがもしもお空を飛べるようになったら、あたしを背中に乗せってね」


 可愛らしく首を右に傾ける桜。

 桜は、可愛いがこうやって可愛らしい仕草をすれば僕が「良いよ」と言うだろうと思っているらしい。

 だけどもう何十回も見た仕草だから何にも思わない。


「えー嫌だよ」

「乗せってくれたら結婚してあげるから」

「嫌だ」

 

 その頃の僕は、結婚というものがどういう事なのか知らなかった。

 ただ桜は、何かあるごとに結婚してあげると言っていたので、その言葉の意味は知らなくとも記憶にはこびり付いていた。

 そんな昔の事を夢で見て、今日も目を覚ました僕、西條音也は、もう旅に出て半年が経っていた。それなのに『フェビアン・エドガー・エンフィールド』についても『ラグナロクの鍵』についても『ナノマシン』についてもなにも手掛かりがつかめないまま、こうして一人バイクで旅をしている。お金は、 まあなんとかなっているからOKだ。

 それにしてもなんであんな昔のことを夢で見たのだろうか?

 ひょっとしてホームシックとか言うやつだろうか?


「……まさかな。はぁ~それよりも今日はどこに行こうかな?」

 

 目的はあるが、それに辿り着くための手掛かりがない。

 今はこうして旅をしているが、このままでは奴に復讐することができない。


「とりあえずホテルを出るか」

 

 僕は、そう呟いてホテルのチェックアウトを済ませて外に出る。

 外は青空が広がっており、僕の心とは正反対に綺麗だ。


「さーてと、公園に行こうかな」

 

 バイクに跨り、近くの公園に向かう。いつも公園のベンチで次の目的地を考えているのだ。

 昔桜とよく公園で遊んでいたせいか心が落ちつくのだ。

 その時だけ、復讐のことを忘れて、本来の僕に戻れるような気がするのだ。

 ここの公園には、ジャングルジムと滑り台しかなく、何だかショボイ公園だ。そんな事を思いつつ滑り台の奥にあるベンチに腰を掛ける。バイクは水道のすぐ横に置いた。


「……本当にきれいだな」

 

 一点の曇りもない青空が広がっているな。本当にこんな青空を見ると、心が安らぐな。

 お、鳩だ。ん? なんか白いものが――僕のおでこに落ちた。


「はっははは。ついてないな~」

 

 僕は、おでこに落ちた鳩の糞を洗い流すために公園の入り口近くにある水道に向かう。

 あ~あ、とんだ笑い者だよ僕は……。


「あ~つめてぇ~」

「ガマンです」


 いきなり横から声がしたので向いてみるとそこには、藍色の髪をした少女が僕のタオルを持って、横に立っていた。

 少女が微笑みながら、持っていた僕のタオルを差し出してきたのでそれを受け取る。


「ありがとう」


 少女の姿をじっと見て見る。藍色した髪は、背中の真ん中ほどまで伸びている。真っ直ぐとした目つきには一切の迷いが見えない。


「当然の事をしたまでです」


 と言って両手を差し出して、何か欲しそうな仕草を見せる。

 ついでに目もキラキラと星のように輝いているのが見て分かった。


「なにその手は?」

「お礼をください。だって助けたらお礼をくれるのが常識って初めてこの街に来たときに親切なおじさんに教えられたんです」


 なるほど少女が目をこんなにも輝かせているのはそれが原因か。

 よく見れば顔があっちこっち汚れているし服も汚れている。

 ホームレスか何かも知れないな。最近は不景気だって聞くし……。


「あ~多分君はそのおじさんに騙されたんだよ」

「嘘ですぅ!! だっておじさんは私の荷物を持ってやったからお礼をあげなきゃいけないって言っていたのです」


 凄い剣幕だ。よほどそのおじさんを信じているんだな。

 随分と世間知らずな子なのか天然なのかどちらかだ。

 そんなでたらめを吹き込まれちゃって……。誤解を解いてあげよう。


「あのね、そんなお礼はあげなきゃいけないなんてルールなんてないの。君は騙されたんだよそのおじさんに」

「ええ!? じゃあ、私のお金は?」

「今頃おじさんが有意義に使っているよ、絶対に」


 先ほどとは打って変わって少女の顔から笑顔が消えた。

 まさかそんなことで騙されるなんて、田舎から上京してきた子なのかな?

 しかしそのおじさんは得したな~。僕は本当に困ったら窃盗をするのに。

 これからは騙すという手も使うのもありなのかな?


「で、君はこれからどうするの? 見たところお金も食べ物も持ってないようだし」

「ううう……。おじさんのバカァ――――ッ!」


 少女は叫んですっきりしたのかちょっぴり出ていた涙を服の袖で拭った。

 そんな女の子がちょっぴり泣く姿を久々に見たせいか、少し緊張してしまう。

 しかし何を考えたか知らないが、少女が突然僕の右腕を掴んで、そのまま僕にしがみ付く状態になった。


「じゃあ、貴方について行きますです」

「……え?」


 少女が上目使いで僕を見てくる。彼女のうるんだ瞳が僕の良心をチクチクと攻撃してくるような感覚だ。

 騙されるな、僕。女とは怖い生物だと父さんから習っただろ。

 だからホイホイと軽い返事などしてはダメだ。


「貴方に絶対について行きますです」

「意味がわからないよ! なんでそうなるのさ?」

「ついて行かなければいけないような気がするからです」

「……は?」


 少女は、自信満々で言っていているけど、理由になっていない……。

 でも無理矢理離すわけにもいかないけど、連れていくにしてもまだ出会って一時間も経っていないのに……。

 一体どうすれば、納得して話してくれるんだろうか?


「……来る」

「え、何が?」


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